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【奈良クラブ通信】吉村弦が3年ぶりのJリーグ出場!不屈の男が戦った853日

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「普段はしないんですけど、ピッチに入る瞬間は珍しく緊張しました。ただ負けている状況だったので気を引き締めなおしてピッチに立ちました」。

2024明治安田J3リーグ第8節奈良クラブvsテゲバジャーロ宮崎の後半アディショナルタイム。長野パルセイロ時代の2021年12月5日以来853日ぶりにJリーグ公式戦のピッチに足を踏み入れた瞬間を、吉村はそう振り返った。

 ガンバ大阪ユース、同志社大学を経て新卒で加入した長野では、右サイドバックのレギュラーとして活躍。2022年にはJ2ブラウブリッツ秋田へステップアップを果たした。しかし悲劇が起きたのは、その年の2月、キャンプ中の事だった。筋肉系の珍しい負傷で、治療もリハビリも手探り状態の中で行う日々。移籍したばかりの慣れない環境での負傷だったこともあり、ストレスからくる病気も経験した。その年の後半にはベンチ入りしたものの、状況は良くならず、翌年の2月に手術を決断した。最新の医療療法に頼る手術だったが、それでも上手くいかなかった場合には、最悪競技復帰できない可能性もある中での決断だった。

 「本当に辛かった。秋田時代のトレーナーが頑張って色々と動いてくれたし、ここにくるまでにたくさんのドクターに関わってもらった。すべての方のおかげで復帰できたと思う」

 2023年シーズンは治療やリハビリで棒に振ったものの、オフに行われた合同トライアウトでは負傷後、初めて30分間プレー。その際のプレーが、奈良クラブ首脳陣の目に留まった。奈良クラブ加入後もコンディション調整をしながらの練習参加。戦術面でも「ミーティングで頭では理解できてもピッチで実際にやらないとなかなか身につかない」という状況だったが、焦らずにじっくりと身体と頭の両面をゲーム仕様に仕上げてきた。

 「準備はずっとしてきたし、ようやく身体も負荷に慣れてきた。もっともっとやれると思う」という言葉そのままに、続く9節盛岡戦では約20分間プレーし、パワフルなオーバーラップや精度の高いクロスで何度も見せ場を作った。

 北国での孤独なリハビリを経験しただけに、地元・関西でのプレーは、精神面でのプラスにもなっている。「昔の友達とも会えるし、親にも試合を見せられるので…」と笑った後に、真剣な顔で続けた。「それが目標だった。長野時代に見に来てもらったきりで。あれだけリハビリを頑張ってきたのに、長野時代の試合を最後に現役を引退するのは絶対に嫌だった…」。ポツリと漏らした表情からは、常人には理解しえない「853日間の重み」が感じられた。

 不屈の闘志でピッチに舞い戻った右サイドのダイナモは、「あの状態の自分を拾ってくれたこのクラブには感謝している。プレーで貢献して、恩返しがしたい」。ピッチに立てる喜びがそのまま溢れ出すような躍動感あふれるプレーは、必ずやクラブに勢いをもたらしてくれるはずだ。

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画像提供:株式会社 奈良クラブ


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