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「ザ・ビートルズ:Get Back」解散直前の美しい時間

こんにちは!
SPORTS MENの中村による音楽レビュー "Is It Rolling?" です!

今回は、昨年11月にDisney+で配信され、全音楽好きの話題を掻っ攫ったドキュメンタリー映画「ザ・ビートルズ:Get Back」について語ってみたいと思います。

ポピュラーミュージック史上最も偉大なバンドとして、今なお語り継がれている存在、ビートルズ。

1969年1月にアルバム「Let It Be」の制作のために行われた、通称 "ゲットバック・セッション" と、ビートルズが経営していたアップル・コア社のビルの屋上で行われた "ルーフトップ・コンサート" を撮影し、保管されていた膨大なフィルムを編集・リマスタリングしたのが、本作「ザ・ビートルズ:Get Back」です。

今まで、当時のビートルズは解散寸前でバンド内の人間関係は「最悪だった」と言われてきましたが、実際にメンバー間でどのようなやりとりがされていたかについては、ほとんど明かされていませんでした。

それが、今回の新しい映画を観ると、むしろメンバー同士の親密なやりとりや信頼関係が目に映り、バンドのリアルな息遣いがはっきりと伝わってきたのです。

解散後にリリースされたアルバム「Let It Be」

ビートルズの「Let It Be」は、彼らの8年に及ぶキャリアの中でのラストアルバムで、事実上解散した後にリリースされた作品です。

本当は1969年にリリースされた「Abbey Road」が最後のアルバムになる予定でした。

「Let It Be」の収録曲は「Abbey Road」の楽曲よりも前にレコーディングされたものの、「出来が中途半端」という理由でお蔵入りになっていましたが、それらの音源を、当時の名プロデューサー、フィル・スペクターがストリングス等を追加して一枚の作品にまとめ上げ、解散した後にリリースされたのです。

ポール・マッカートニーは、1969年のセッション当初、なるべくオーバーダビングを行わない原点回帰的なバンドサウンドをイメージしていたため、フィル・スペクターが後から追加した重厚なストリングスに嫌悪感を示しましたが、レコードリリースの契約がまだ一枚残っていたため、口を出せなかったといいます。

以上のような理由から、少々曰く付きでリリースされてしまったアルバムが「Let It Be」なのです。

ちなみに「Let It Be… Naked」というアルバムが2003年にリリースされています。

これはポールやリンゴ・スター監修の元、ストリングスをなくしたバージョンでリミックスされ、収録曲目や曲順も変更されたアルバムとなっています。

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もしビートルズが最後までこの作品に携わっていたらこうなっていたのでは?という内容に仕上がっています。

個人的にはオリジナル版よりもこちらの方が好みでずっと聴いてきました。

新旧、2つのドキュメンタリー作品

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本作の監督は、「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズで名匠として知られるピーター・ジャクソンで、近年は「彼らは生きていた(2018)」というドキュメンタリー映画を監督し、第一次世界大戦中のイギリス兵士の記録映像に色をつけ、現代の映像として蘇らせたことで高く評価されました。

その作品で培ったフィルム修復技術を最大限に駆使して、眠っていたビートルズの映像と音に新たな息吹を吹き込んだのが今回の作品なのです。

なお、使われている映像素材の一部は、「Let It Be」がリリースされた1970年にアルバムプロモーションのための映画として公開されています。

このバージョンでは、16mmフィルムで撮った映像を35mmフィルムに引き伸ばす処理が行われていたため、色がかなり暗く、不鮮明でした。

ところが、今回の映画では「彼らは生きていた」で使われた、ニュージーランドのパーク・ロード・ポスト・プロダクションという編集所で、実際の色味に戻す作業が行われ、まるで最近の撮影であるかのように感じてしまうほど、鮮明な映像に生まれ変わっていました。

また、AIによる音声認識技術を使ったリミックスも行われており、楽器の音にかき消されて聞こえなかったメンバー間の会話がはっきりと聴こえるようになっています。

修復については以下の動画がわかりやすくとても面白いので、よかったら見てみてください!

また、1970年に公開された映画は80分程度にまとめられていましたが、今回の映画では、60時間の未公開フィルムと140時間の未公開音源を8時間程度に編集し直されています。

スタジオでのセッションの様子が大幅に追加されることになり、メンバー間のやりとりに重きをおいた内容に仕上がっています。

僕は1970年バージョンのDVDの映像を頼りに"ゲットバック・セッション"を理解してきたつもりでしたが、今回の映画を観ることで印象がかなり覆されました。

ファンとしては「そこまで撮れてたのか…!!」という驚きの連続で、8時間もの間、興奮が冷めませんでした。

もちろん、旧作を観ていない方も楽しめると思いますし、観たことがある方も、思わぬ発見があって面白いのではないかと思います。

本作から垣間見える、メンバー間の "絆"

この作品の凄いところは、解散していくバンドの「どうしようもなさ」のようなものがそのままフィルムに映っていることだと思いました。

例えばポールはこの時期のビートルズを前に進めようと一番努力していたメンバーです。

誰よりも理想を高く持っているが故に、それを実現できないメンバーに対して厳しい態度をとることもしばしばあり、バンドの雰囲気を悪くしてしまうこともあります。

個人的に一番印象に残ったのは、そんなポールに愛想を尽かしてジョージ・ハリソンが脱退を宣言した後のジョン・レノンとポールのやりとりでした。

ジョンは「自分はリーダーとして今まで君やジョージに好きなようにやらせてきた。君はあまりにも他のメンバーに対して自分の理想を強要しすぎる」と言ってきかせます。

この発言から、メンバー全員が自分の持っている音楽性を存分に持ち寄って音楽を作り上げていくビートルズのスタイルは、ジョンの人間性によるところが大きかったことが窺えます。

ですが、ポールは誰よりも自分がバンドを前に進める力を持っていて、ビートルズの音楽を良いものにしてきた自負があるので、今の自分のやり方が間違っているとは思っていません。

結局のところ、どちらが正しいという形で話は落ち着かず、皆でジョージの家に行って、もう一度戻ってくるよう説得します。

平行線を辿ったように見えた二人の会話でしたが、このやりとりを経て、ポールやジョンのその後の振る舞いを見ていると、態度の変化から、お互いへの敬意や思いやりをリアルに感じることができるのです。

一人一人がバランスをとりながら、バンド内で軌道修正をして前に進んでいる様子が垣間見えるようでした。

このようにバンドというひとつの共同体の中で、各々がどういう性格の持ち主で、何を考え、どう行動したのか、といった人間模様が色濃く映し出されており、そこにメンバー同士の深い絆を感じることがてきるのが本作の魅力だと思います。

こんなドキュメンタリーが今までにあったでしょうか…

本作、バンドをやっている方は絶対見るべき!!と僕は強く思いました。

解散直前の美しい時間

バンドに限らず、人間同士の繋がりにはいつしか終わりが来るものだと思います。

あの有名なビートルズの面々が解散間際に何を思って、どう振る舞っていたのか…

この8時間ものフィルムの中で交わされる数多の会話の行間には、かけがえのない美しさのようなものが漂っていて、同じバンドマンの端くれとしても、大切なものを受け取ることができた作品でした。

「ザ・ビートルズ:Get Back」はDisney+で視聴でき、全3話から構成されています。

少々長いですが、本当に貴重な映像なので是非観てみてください!!

そして、これを機に「Let It Be」を聴き直してみると更に面白いかもしれません。

今回も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました!

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