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【Doctor Tのスポーツ医学】気づかれにくい脳振盪の症状。脳振盪シリーズ②

今日で国際スポーツ心理学学会は終了しました。オンラインでも終わってしまうと寂しいものですね。

今日の面白いトピックは、アスリートの周りにいる”スタッフ”のセルフケアでした。アスリートも、競技者としてのストレスにさらされていますが、コーチやトレーナーなどのスタッフも、タイトなスケジュールや勝たなければならないプレッシャーのもとで仕事をしています。スタッフもプロフェッショナルであります。肉体的に精神的に疲れてしまうと、仕事の効率や質が下がってしまう一方で、自分たちではコントロールできないタスク。

このセルフケアは、個人で自分を大切にすることから始まりますが、それだけでは改善しません。次にお互いのケア、そして、組織や環境がセルフケアをサポートする体制になっていく必要があります。これはスポーツに限らずですね。

長くなりましたが、脳振盪の話の続きをしましょう。

脳振盪受診の実際
前回、脳振盪には様々な症状があると説明しました。脳振盪は、受傷後にCTなどの画像検査で出血や骨折がなく、見当識障害(自分が今どこにいて何をしているかがわからなくなる)や言われたことをすぐに忘れてしまう、同じことを繰り返し言うなどの症状があった場合に疑われます。本来であれば、さらに、どのような症状が出ているかを、時間経過も加味しながら診ていく必要があります。しかし、少なからず受傷時の診察だけで通院が途切れてしまうことがあるのが現状です。

記憶喪失だけが脳振盪の症状ではない!
以下にその多彩な症状を示します。「どの症状が」が「どの程度の強さで」出ているかを経時的に追う必要があります。どの症状に対して介入(リハビリや投薬の治療)が必要なのか、また、効果や改善の状況を把握するためです。


あまり知られていない脳振盪の精神症状
今回はこの中でも精神症状について詳しく話します。症状とその割合は以下のとおりです。これは高校と大学のアスリート1438人を対象にしたKontosらの研究です。難しいのはこれらの症状が、脳振盪で新規出現したのか、元々抑うつ気分や不安症状があってそれが増強されているかの区別がつけられないということです。

これらの症状は強ければ強いほど、回復にも時間がかかります。また、疾患としての「不安」の診断は満たさないものの、その症状を呈していることもあります。

なにが症状に影響するのか
これらの症状に影響するものとして、受傷以前の不安や気分障害、受傷後のストレスなどがあります。練習から離れることによってアイデンティティを失ったり、孤立したりすることもストレスになります。逆に学校などのサポーティブな環境があると症状が軽減するとも報告されています(Convassin 2014)。

精神症状と原因の複雑な関係
精神症状以外のめまいや頭痛症状が続くことによって、これらの不安や抑うつ気分が出てくることもあると言われています。症状の原因は非常に複雑でクリアカットに説明することはかなり難しいといえます。

いかがですか。これが脳振盪の症状なの?というのが正直な感想ではないでしょうか。気分が落ち込むと聞いて、それは脳振盪の症状だね!といえたひとは多くないはずです。でも、今回知りました。知っておくというのは大切なことです。

このように書くと、不安をあおってしまうかもしれませんが、言いたいのは、症状が多彩なので、「脳振盪」とひとまとめにせず、どの症状がどの程度出ているかをみながら、それぞれの症状に合わせた介入を受けることが大切だということです。

脳振盪の患者をサポートする周囲の環境
症状に影響する要素には変えられないものと変えられるものがあります。変えられないものにくよくよしているのは得策ではありません。「変えられるものを、変える」のが有効です。例えば、周りの理解を得て、サポートしてくれるような環境にすることは、患者のストレスを減らすことになり、効果的な介入と言えます。

正しく知って、正しい対応を。

今回のまとめ
- 頭頸部をぶつけて脳振盪を疑われたら、数日後にも医療機関で症状の確認をしてもらう。
- 脳振盪の症状は多彩で、治療はそれぞれの症状に応じて提供される。
- 治療のためにも、どの症状がどの程度あるのかを把握していおくことが必要。
- 周囲のサポート体制は、症状を軽減する可能性がある。

次回は、脳振盪に関する誤解について話します。

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