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【石川祐希の強さとは?】「勝ちにこだわれる意識」スポーツメンタルコーチ鈴木颯人が紐解く海外アスリートの強さの秘密

今年の東京オリンピック2020では1992年のバルセロナオリンピック以来29年ぶりに決勝トーナメント進出を達成した日本バレーボール男子。

そんな新世代の最強チームを率いる日本代表のキャプテンであり、「日本男子バレー史上最高の逸材」と言われる石川祐希選手。高校時代には2年連続で高校3冠(インターハイ、春高、国体)を達成し「奇跡の世代」と呼ばれたチームの中心メンバーで、現在はバレーボール最高峰リーグのイタリアで大活躍。大会MVPも獲得するほどの日本の揺るがないエース選手となりました。

今回はその石川祐希選手に焦点を当て、今まで低迷していた日本男子バレーボール界の中で彼がどのように世界トップレベルまでに強くなれたのかその強靭なメンタルの裏側について迫りました。

対談者プロフィール

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・鈴木颯人 ~スポーツメンタルコーチ~ 
1983年、イギリス生まれの東京育ち。一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会代表理事。サッカー、水泳、柔道、サーフィン、競輪、卓球、BMXレーシングなど、競技・プロアマ・有名無名を問わず、多くのアスリートのモチベーションを引き出すコーチングを行っている。

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・畠山大樹 ~BMXレーシング元日本代表~
1992年、神奈川県寒川町出身。株式会社Winspired代表取締役社長。学生時代にBMXレーシングにて日本代表経験あり。BMXレーシングとマウンテンバイク4Xの競技経験を活かし、現在はアクションスポーツ業界の発展のため、アスリートマネジメントを始め、翻訳・通訳、スポーツライター、BMXスクール運営を多岐にわたり行っている。実妹がBMXプロレーサーの畠山紗英。

スポーツメンタルコーチが思う石川選手の印象

畠山) 石川祐希選手は本当に勝ちにこだわっていて世界のトップになるために常に最善な選択を取っているストイックな選手だなと感じます。鈴木さんは石川選手にどういう印象をお持ちでしょうか?

鈴木) 個人的にまず外せないのはイケメンさですかね (笑) プレーでもすごい選手ということが素人目でも分かりやすいです。それにすごく熱い気持ちを持つ青年という印象です。

東京オリンピックでは日本代表キャプテンを務めていました。低迷する日本男子バレー界を引っ張っている選手という印象もあります。彼の活躍で日本男子バレーのファンが増えそうですよね!

畠山) そうですね。カリスマ的な要素を持っている選手だと思います。ルックスとプレーが優れていて、それでいて熱い性格っていうのはファンの心にも魅力が伝わりやすいですよね。

鈴木) はい。彼のファンでいえば、インスタグラムのフォロワー数だけで見ても63万人いますからね! 日本男子バレー選手の中ではフォロワーランキング3位みたいですがそれでも単純にこの数字はすごいです。サッカーの本田圭佑選手でも79万人くらいですから。

畠山) 確かに国内ではまだメジャースポーツではないのにこの人数のファンがいるのは凄いことですよね。世界的には一番競技人口が多いスポーツのようですが、日本での人気が確実に広がっているのが見て取れるデータの一つですね。

そんなまだ日本では比較的マイナーなバレーボールですが、ちょっとだけ家族の話題に触れると、石川選手の両親は父親が元陸上短距離選手、母親が元バスケットボール選手だったみたいですよね。

両親がアスリートの場合って子どもも親と同じスポーツを始めるケースが多いと思いますが、石川家は3兄妹でバレーボール始めたんですよね。意外だなと感じました。

鈴木) これは必ずしもバックボーンになるとは言えないんですが、石川選手の出身地である愛知県がバレーボールが盛んな地域だった影響もあるかもしれないです。愛知県に本拠地をバレーボールの実業団が多いんです。愛知県の大手企業として有名なトヨタもバレーボールの実業団チームを持っています。

世界最高峰に触れて加速した勝ちへのこだわり

畠山) なるほど。きっかけとしてバレーボールを始めやすい環境に生まれ育ったわけですね!

ちなみにメキメキと力をつけて高校では2年連続で3冠達成したりと当時の高校バレーでは偉業を成し遂げた中心人物の石川選手ですが、いつから海外の世界最高峰のリーグでプレーしたいと思ったり、勝ちにこだわるようになったのかが気になります。どんなきっかけがあったと思いますか?

鈴木) 中央大学在学時に大学独自の海外挑戦制度を利用して短期でイタリアに行くようになったみたいです。個人的には2015年に日本代表として迎えたワールドカップでの経験が一番のきっかけじゃないかなって思います。

実際、海外選手の速いサーブで体勢が崩れてしまったことが世界レベルの壁の高さを痛感したポイントだったみたいです。大学生という若い年齢で早く世界レベルに触れたことで、このまま日本でプレーしていて良いんだろうかって思ったはずです。

それに石川選手に関しては高校2年連続3冠という成績があり自分が強い選手だっていう自負があったはず。世界最高峰に触れた時に衝撃を感じ、さらに勝ちへの拘りに火がついたのかと。

畠山) そういうことなんですね。実際に日本のトップでプレーしていて自分に期待していたからこそ、世界最高峰と対峙した時により悔しい気持ちや自分のできないことを感じたのが他の日本人選手以上にもっと強くなりたいという原動力に繋がったわけですね。

鈴木) 実際にイタリアに行ったことで自分ができることとできないことが明確になったはずです。もし日本にいれば自分がトップだから安定して大会に出られますが、イタリアだとそうはいかない。勝ちにこだわるが故に、過酷な環境を彼が求めていたのでしょう。

畠山) そういう意味ではまだ若くて伸び盛りの時期に世界のレベルを直に体験できたことがタイミングとしてよかったですよね。これがある程度年齢を重ねていたら自分の可能性や伸び方に関してもっと保守的だったかもしれないですし。

鈴木) 彼自身が元々プレッシャーの掛かる環境に身を置きたいという性格なんでしょう。そうでなければ日本で無難に実業団に入る選択をしていたはずです。

畠山) 確かにその通りだと思います。イタリアに行くまでは国内で企業に就職してプレーするつもりでプロになるっていう考えはなかったって話している記事もありました。

鈴木) イタリアでのプレー経験から日本の実業団でプレーするより、イタリアでのプロ活動の方が生活スタイルが彼には向いていたのでしょう。

畠山) そうかもしれないですね。これは純粋な疑問ですが、バレーボールのプロって稼げるんでしょうか?

鈴木) 木村沙織選手の場合はトルコのプロリーグでプレーしていた時は年俸1億円だったみたいですよ。どうしてトルコのチームがそこまでの資金があったのかは不思議ですけど(笑)

石川選手の場合は年俸額は分からないですが、自分がもっと強くなるために最高峰のプロリーグのあるイタリアでプレーすることを決めたことが改めて彼が勝つことに本当にこだわっているのが分かりますよね。

畠山) イタリアに行ったことで勝ちにもっと貪欲になったと石川選手が話している記事もあります。プロのシビアな環境で結果を出したことがまた自信になってさらに強くなりたいという意識に磨きが掛かりますよね。

鈴木) その通りだと思います。

畠山) 私個人的には一般の選手が目指したい理想像に石川選手を当てはめやすいと思います。どんな選手も競技者である以上勝ちたいし結果にはこだわりたいと思うんです。

強くなりたいのは自分のためだけではなかった

鈴木) 自分が勝ちたいから努力しているとは思います。同時に日本のバレーボール界発展のためという気持ちも強く持っていると感じます。彼は子ども達にバレーボールを広める活動も進めています。

これはまさに先駆者ならではの気持ちだと思います。自分1人がずっと活躍し続けるのは過酷だから、彼自身がイタリアで強くなることでさらに日本から海外へ挑戦できる選手を増える環境を作りたいという気持ちが私には伝わってきます。これはスポーツを普及させていく為に大事なことです。

畠山) 石川選手自身がその海外での経験を通して強くなり結果を残せるようになったからこそ、彼に続くような選手が増えることが日本のバレーボールのレベルの向上に繋がりますからね。

鈴木) 別の例として卓球の水谷選手も石川選手と同じような境遇でした。14歳の時にドイツに移ってプレーし始めて日本の卓球レベルの向上に貢献したんです。今では卓球界を盛り上げるために何冊も本を書いたりしています。そういうパイオニア精神が石川選手にもありますよね。

畠山) まだ成熟しきっていないスポーツほど、トップ選手がスポーツ普及のために貢献する動きが盛んに感じます。自分がこのスポーツ業界を引っ張っていくような。

鈴木) そういう貢献を感じられることが、さらに彼らのモチベーションにも繋がっているかもしれないです。

畠山) 自分たちの努力が自分の結果だけではなく、スポーツ全体の底上げとか普及に貢献していると感じられるのは確かにモチベーション上がりますね。

鈴木) ちなみに人間って自己実現を感じた時に次は自分が培ったものを還元したいっていう気持ちになるんですよね。これを心理学の話で「マズローの欲求5段階説」と言います。知っていましたか?

畠山) いや、初耳でした。。

鈴木) 人間の欲求はピラミッド式に5段階に分けられています。その頂点が自己実現の欲求なんですが、その欲求が満たされるとさらにその先を目指すんです。それが超越的自己実現の欲求といって他者へ貢献することなんですよ。

トップアスリートは自己実現を達成したら本能的に社会貢献に対してアプローチしたくなるんでしょうね。

畠山) そうなんですね。確かにBMXレース界でもそういう動きはあって、現在世界で活躍している日本のトップ選手たちも自分たちが競技で培ってきたものをどうやって次世代やスポーツ普及のために還元していけるかをよく考えているっていう話は聞きます。

鈴木) とはいえ貢献したいというレベルまで達するのはある種の悟りの境地とも思います。そういう意味では悟りを開いた選手は強いということですね。

畠山) 特に石川選手の場合は、先ほどの話のようにスポーツ的に体罰が許されるような過酷な日本の文化に身を置いていた背景もあるので、メンタルが悟りを開けれるレベルに超越したっていうことも十分あるかもしれないですね!

自分で考える力が成長に繋がる

畠山) 今の話で気になったのですが、石川選手始め海外で活躍する日本人選手は自分の考えを表現しづらい日本の特異的な文化を背景に持ったからこそ、世界に出た時に自分らしさが発信できることをエネルギーに変えて活躍できるような選手になったんでしょうか?

それとも、もし始めから海外の文化のような自分の意思表示が自由で精神的にプレーしやすい環境に育っていたら今と同じように力を発揮できているんでしょうか?

鈴木) 若い時にどういう学生時代を過ごしているかによりますが、私が高校時代にいた野球部は「はい」か「Yes」しかなくて言論の自由がそもそもなかったです(笑)

そんな環境で育ってしまうと自分で考える力がなくなって、自分ができない時に「教えてもらってないからできない」と考えるようになってしまいます。落ち込むと負の思考のループからから抜け出せなくなるんです。

だからこそ、自分で考える力は早い段階から培っておく必要があるなと思います。

畠山) 環境のせいで自分の意思すら表現できなくなってしまうんですね。怖いですね…。

鈴木) はい。石川選手は自分でイタリアに行く決断ができてこうやって結果を残しています。だから彼は「自分で考える力」があります。それはプレーからも垣間見えていて、アタッカーなのにアタックすると見せかけてトスに変えたりしてます。まさに臨機応変に考えられるのは自分で考える力があることの証拠だと思います。

畠山) そうですね。自分で考えられない選手はなかなか一歩踏み出す決断はできないですよね。

鈴木) 石川選手の場合は、在学していた星城高校の竹内監督の「選手たちに細かく教えすぎないこと」という方針も影響しています。ミーティングも選手たちで行わせて、石川選手が主将を務めていた時も選手間でお互いに意見を出し合うことで自分で考える力が付くようになったそうです。

畠山) 自分で考えることができる選手だったから、イタリアという日本と全く違う異国でも自分の意思をしっかり伝えられることができて活躍できたんですよね。自分で考える事って本当に大事ですね。

鈴木) 畠山くんも海外行ってたから分かると思いますが、自分で考えることができないと色んなことから淘汰されてホームシックになっちゃいますよね。

畠山) 確かにそういう人は自分で柔軟に考えられず人任せな印象ですね…。

鈴木) やっぱり自分で考えることができないと海外という今まで育ってきた価値観や文化が全く違う環境に行った時に、毎回何かある度に精神的にダメージ受けるだろうし、やっぱり自分で考えて行動できないとなかなか今までと違う環境で成功する事ってとても難しいと思います。

だからそういう意味では自分で考えることができてチャレンジもできるような人がこういう石川選手みたいな選手になっていくんですよね。

畠山) 確かに自分で考えられないとどうしても他人頼りになってしまいますし、すぐ人のせいにしたりして、そういった経験を自分ごとに落とし込めず向き合えないので成長からは程遠くなってしまいますよね。改めて自分で考える力がいか成長する上で必要か見直させられます。

鈴木) 自分で考える力がないと世界での活躍はおろか、選手として高みを目指すことは非常に難しいですね。

畠山) そう考えると石川選手の強さの秘訣は、とことん成長のために自分で考えて行動ができること。加えてそれは自分が勝つためだけではなく自分がスポーツ界全体を引っ張っていくという貢献の気持ちが勝ちにこだわり続ける真の原動力になっていますよね。

今後石川選手のような選手が増えて、そういった影響を別のスポーツ選手も受け日本のスポーツ界がどんどん発展していって欲しいなと思いました。鈴木さん本日もお時間いただきありがとうございました。

鈴木) ありがとうございました。

最後に

今回の対談では日本の男子バレーボール界を牽引するエースである石川祐希選手の強さの秘訣について考察した。

石川選手の強さの秘訣は「勝ちにこだわれる」ことであるが、その背景には日本バレーボール界の発展を想う強い気持ちがあった。今まで低迷しているとされていた日本男子バレー。その事実が彼のもっと強くなりたいという気持ちを突き動かし、試合で成績をあげることへの尋常じゃないこだわりや彼自身の活動を通して次世代の育成とスポーツに貢献する姿勢を生んだともいえる。

石川選手自身が放った「世界を経験することが何より重要で世界を知らないことには世界で勝てない」という言葉を裏付けるように、勝ちにこだわり「世界のトッププレーヤーになる」というシンプルで明確な目標のために海外の地でさらなる高みへ突き進む彼の姿に今後も注目したい。

Text and Interview by 畠山 大樹

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・鈴木颯人
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・畠山大樹
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