英知とは。『小学4年生の世界平和』を読んで
ジョン・ハンター著 ; 伊藤真訳『小学4年生の世界平和』KADOKAWA, 2014.3
ちゃんとそのこと(世界平和・英知・思いやり)について自分は,考えたことがこれまであっただろうか。
著者は、世界平和への道のりに「英知」と「思いやり」が不可欠な要素とする。
本物の英知と思いやりとは何か。
自問する機会となった,とても読み応えのある本でした。
最初読み進めるうちに,浮かんだ疑問点があった。
著者は,教師として実に慎重に生徒を見ている。適任がどうか,成長する機会となるかを考えている。
そのうえで小学4年生のクラス内で,「世界の4首相は,担当教師がオファーする」とのこと。
生徒からの投票による首相の選挙制で,任期がある制度でもいいんじゃないかと私は思った。
ゲームには複雑なルールを絡ませている。
世界平和のためのゲームは,すべての国の利益が向上していること,タイムリミットがある,女神がコイントスで気象や戦闘の成否を決定する,破壊工作員を潜ませる,
時間をかけて悩み,時に勇気を振り絞ってクーデータを引き起こすこともあり。
などなど。
早く手を打って解決することが求められていない。
むしろ,立ち止まり,危機と困難に向き合い,苦慮するエンプティ・スペースが必要なのだ,と。
こんにちの成果主義に警笛を鳴らすだけでなく,本当に思慮深くなるにはそういった領域が必要なのだ,と。
一人だけで解決出来得る範囲をとうに超え,コラボレーションしながら,
世界規模の平和を編み出すことは,なんと気が遠くなるような案件があるか。
本著を読了して改めて気がついた。
子ども達から,苦難や荷物を取り上げないようにするのも大事なんだ,と。家族であっても。例えばそれは親に対しても。
人には重荷をなんとかする力を持っていると信じる。人との関係性においても,気まずいことになっても告げるべき意思があれば,居心地の悪さを脇に置いてそうする必要があることも。
コラボレーションすることの難しさは,以前下記の本を読んだときに身につまされたのを思い出す。
アダム・カヘン著 ; 東出顕子訳『敵とのコラボレーション : 賛同できない人、好きではない人、信頼できない人と協働する方法』
英治出版, 2018.10
https://ci.nii.ac.jp/ncid/BB27159349
相反する人とコラボレーションするため,当時私なりの工夫は以下だった。
大きなプロジェクトの前に。
個人の利益をわきに置く。コミュニティとしての目標達成,それに向け円周を含めた環境を味方につける。そのための優先順位づけ,下準備,共通意識の認識,士気を上げるコツを練る。
しかし,本著は指摘する。
「失敗を犯す」ことによる,敗北感・絶望感をどう捉えるかが大事なのだ。
そして挫折してこそ,初めて未知のことを知るチャンスがあると。
むしろリカバリーの方が大事なんだ,と。
成果というのは,後年になって思いがけない方向から満ちてくるものでもあるのだ,と。
さらに。
大人にも同様に,「クリック」と呼ぶひらめきの段階があるという。
これは,私なりの解釈では「語学の習得の段階」にも似ている。
外国語を聞いて理解し,話して,書いて,というスキルへの過程。
思いつく限りの手法は以下を含む。
時事ニュースを聞く,現地の人と話す。コミュニケーションを取り,意思疎通を図る。買い物をし,生活を送る中で,母国の文化を説明しようとする。
一緒に郷土料理を作ってみる。得意なスポーツを楽しむ。
誰かと親密になり,相手を知りたくなり,言葉を交わす。
同時進行で,個人のコップに水が溢れ続けるように語彙を増やす。
辞書がぐにゃぐにゃになるまで引く。
その過程である日突然,「クリック」が起こり,断片だった単語が繋がり,世界が文章と好意とたくさんの会話で
繋がっているのが見える。
ここで,著者が繰り返す「英知と思いやり」に戻りたい。
個人のスキルアップのみに焦点を合わせるような使い方とは別枠に。
「影の組」の(スポットライトが当たる組でなく)ひとりとして,世界平和について時間をかけて考え,模索すること。
個人の「クリック」をコミュニティのために活かし,周囲とコラボレーションしながら,もう一段階積み上げた
協働作業にしていくこと。
そういう地道な活動を積み重ねるのが,ある意味で「知識が英知に転換する」に近づくのか。
難しくて、私の中で答えは出ていない。
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