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【あずみ】なぜ南光坊天海は柳生宗矩の暗殺を命じなかったのか【考察】


 皆さん大好き小山ゆうが描く時代劇アクション漫画「あずみ」。刺客として育てられた主人公のあずみが使命である暗殺を全うしていくストーリーなのですが、「あずみ」を読んだ人ならこの疑問を抱いたことがあるのではないでしょうか。

 なぜ南光坊天海は柳生宗矩の暗殺をあずみに指示しないのか?

 南光坊天海とは「あずみ」に登場する歴史上実在する人物です。徳川家康のブレーンとして暗躍する住職で、天下泰平の枝打ちのためあずみら刺客の育成及び暗殺の指示を一手に担っています。序盤は部下でありあずみの育ての親でもある小幡月斎を介して指示をあずみに伝えるというシステムになっていたため登場回数が少ないですが、小幡月斎死亡後の中盤からはあずみを自らの配下に置いたため、あずみに直接暗殺指示を出すようになり存在感を増していきます。

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 一方の柳生宗矩とは将軍の剣法指南役でこちらも歴史上実在する人物です。天海が家康に仕えたのとは対照的に柳生宗矩は家康の子で二代目将軍である徳川秀忠に仕えています。「あずみ」では作中度々あずみの命を狙う狡猾な野心家として描かれています。柳生宗矩の謀略によってあずみ本人の命こそ取れなかったものの、あずみに近しい人物、その最たる例が前述の小幡月斎、は次々と命を落としていくことになります。天海の登場以降もあずみの命を付け狙っており、言葉通り隙あらばあずみ抹殺を計画しています。

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 何度も柳生宗矩の謀略に苦しめられているあずみを見ていると、一つの疑問がわきます。それが、上記の「なぜ南光坊天海は柳生宗矩の暗殺をあずみに指示しないのか?」という問いです。

 もちろん、あずみ一人の命を狙っているだけでは天下泰平という大義名分が成立しないため暗殺の指示は出せません。しかし、柳生宗矩は秀忠の意図的な領地の取り潰しにも加担し、領地の荒廃等の平和を乱すような行為もしているため天下泰平のための暗殺という大義名分は成立します。

 それなのに、なぜ南光坊天海は柳生宗矩の暗殺を指示しないのか。その謎を今回は解き明かしていきます。


柳生宗矩の死没年が「あずみ」の作中の時代と離れているため

 メタな考察になってしまいますが、この説がかなり有力です。
 大坂夏の陣が起こったのは1615年。この当時のあずみの年齢ははっきりとしていませんが、まだ未成年であることは確かで推定16~18歳だと思われます。そこから最終回までは長くても2~3年ほどしか経過していません。一方で、柳生宗矩の死没年は1646年とされており、大坂夏の陣の31年後です。
 史実通りにあずみに柳生宗矩を暗殺させようとすると、40代後半~50代前半のあずみが76歳の柳生宗矩を殺そうとすることとなります。おばさんがおじいさんを殺そうとする場面は何とも漫画映えしません。
 史実通りではなく作中の時代で暗殺させるという手もありますが、史実とかけ離れすぎた描写は時代劇漫画では御法度で、作品が築き上げてきた雰囲気をぶち壊す原因となり、作品のクオリティ低下は免れません。
 また、あずみが暗殺した歴史上の人物(加藤清正、浅野長政、徳川家康)は死因が明確となっておらず、諸説あるためあずみが暗殺したという改変が収まりやすくなっているという点も忘れてはいけません。

柳生宗矩の情報集能力の高さ

 「あずみ」の作中では柳生宗矩は数多の謀略を巡らす策士として描かれています。その謀略の根源にあるのが高度な情報収集能力です。それを示す描写は以下の通りです。
・徳川方でも極少数にしか知られていないはずの小幡月斎とあずみの存在にいち早く気づく。
・天海が探し出すのに数か月~1年ほどかかったあずみを何度も見つけ出す。
・配下に置いている武芸者が多く、広範囲で情報を収集できるetc
 通信技術が未発達な江戸時代初期においてこの情報収集能力の高さは驚異的です。
 これほどまでに情報収集能力が高い柳生宗矩に対して天海があずみに暗殺指示を出せばどうなるかは明白です。十中八九事前に察知され反撃されることになるでしょう。あずみが暗殺を成功させたのはもちろんあずみ自身の腕もありますが、何よりも相手が未成年の女子が凄腕の刺客であると認識していない点にあります。油断や虚を突くことによって暗殺を成功させることが可能となりますが、前述の通り柳生宗矩はあずみの存在をあずみが柳生宗矩の存在を認識する前から察知しており、初めから油断することなく対処しています。暗殺は相手に殺人の計画があることを知られていないことが前提なのであり、事前に察知されてしまえば全て水の泡です。
 また、柳生宗矩の配下の武人は門弟を含めてかなりの大所帯で天海が率いる僧兵よりもはるかに多いです。これでは、正面切って戦を挑んだとしてもどちらが勝つかは火を見るよりも明らかでしょう。


 以上の2つの理由により、南光坊天海は柳生宗矩の暗殺をあずみに指示しなかったのです。納得していただけましたでしょうか。

 次回はなぜあずみは兵介や武信とくっつかなかったのかについて考察します。




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