見出し画像

デュアルキャリアアスリートの挑戦 ~株式会社 FIPS (フィップス)トランポリン選手 佐藤優菜さん インタビュー~


佐藤優菜(さとう ゆうな)

トランポリン選手。パリオリンピック(2024)を目指し活動をしている。
スポナビアスリートで就職活動を行い、株式会社 FIPS (フィップス)へ入社。

根本惠理子(ねもと えりこ)
株式会社 FIPS (フィップス)代表取締役。ご主人は元プロ野球選手の根本隆氏。40年以上、野球界に携わり数多くのアスリートの戦う姿を見てきた。アスリートのセカンドキャリアもサポートを行っている。
https://fips.co.jp/aboutus
https://www.acs-career.com/


スポーツと仕事の両立に取り組むデュアルキャリアアスリートへ、デュアルキャリアについての想いをお聞きしました。
また、在籍する企業の上席を招き、アスリートへの期待についてお話をお聞きしました。

==================================

―4歳からトランポリンをはじめ、現在も続けていらっしゃいますが、トランポリン競技を始めたきっかけを教えてください。

父の知人がトランポリンクラブを経営していて、遊びに行った時に「トランポリンをやりたい!」と言ったようです。
クラブに週2回通っていましたが、いつの間にか週5回になり、気付けば生活の一部になっていました。

競技として明確な目標ができたのは高校1年生のロンドンオリンピックを見たときです。憧れであった岸選手がオリンピックに出場している姿をテレビで見て「オリンピック出場」という明確な目標を持ってトランポリンに取り組むようになりました。

画像1

―競技人生の中で他の競技へ移ることや辞める考えはありましたか?

他の競技には目移りすることはありませんでしたが、競技を辞めようと考えたことは何度かあります。

トランポリンは10回連続で演技をしなければいけないのですが、演技途中に失敗してしまった場合は中断となり、その時点で演技は終了になります。
小学6年生からの2年間、全ての試合で中断してしまい、母から「次の試合で中断したらトランポリンは辞めるからね」と宣告されました。宣告された試合で初めて自分がやりたい演技ができ、優勝しました。今でも鮮明に覚えています。

この試合で世界年齢別の日本代表になることができました。

その後も、高校2年生で出場した世界選手権では良い演技ができず、メンタルも結果もボロボロになり、高校3年生で腰椎分離症を患い、大学1年生では前十字靭帯断裂という大ケガをしました。

何度も「もう辞めよう」と思いましたが、気付けばトランポリンを跳んでいました。
生活からトランポリンが無くなる不安はあったと思いますが、一番は「トランポリンが大好き」という気持ちがあったから続けられたと思います。

―佐藤さんが感じるトランポリンの魅力を教えてください。

他競技と比べて魅力は『空中で演技をすること』です。
最高到達点はビル3階の高さに匹敵する7mです。ダイナミックに、きれいに、優雅に、そして空中で演技を披露することは、他の競技にないトランポリン特有の魅力だと思います。

画像2

私は選手の中では身長が高いので、ダイナミックで、きれいな線を出すことができると思っています。演技では美しさを求める演技点※を重視しています。


※トランポリン競技は、技の難しさを表す難度点、技の華麗さを表す演技点、技がどれだけ移動せずにできたかを表す水平移動点、どれだけ演技を高い位置でできたかを表す跳躍時間点の合計で競います。

私の得意技はフルインルディーアウト(前方で1回転目1回ひねり、2回転目1回半ひねり)という日本人女子選手ではあまり取り組まない技になります。
女子選手は前方3回宙返りが大技と言われ多くの人が披露していますが、私は違う路線で勝負しようと思いました。

最高の演技を披露するために日々練習に取り組んでいます。

―続いて、お仕事についてお話を伺います。現在どのようなお仕事をされているのでしょうか?

私が務めている株式会社FIPSは「住まいの接客」に特化した人材サービス会社です。私は『コーディネーター』という立場で、休日に住宅展示場で働くスタッフさんの手配を行っています。

トランポリンとの両立を行っているため、8:30~16:30の勤務時間です。
皆さん優しく、トランポリン活動を理解いただき、応援してくれています。新型コロナウイルスの影響で無観客試合が続く中、協会が配信しているYouTubeを毎試合見ていただいています。

―佐藤さんがデュアルキャリアを目指そうと思ったきっかけを教えてください。

高校と大学進学の時にトランポリンの強豪へ進学することも考えましたが、親から勉学とスポーツを両立することを薦められました。競技以外のことも考えて行く必要があると気付くことができました。

また、トランポリンだけでは生活をすることに不安を感じています。
現在、デュアルキャリアを実践していますが、競技で成績が出なくても仕事に専念ができる『逃げ道』を良い意味で作っていると考えています。

画像3

―デュアルキャリアを実践して感じていることはありますか?

うまく息抜きができると感じています。
仕事の時はトランポリンのことを考えなくていい時間ができます。一方で、トランポリンの時は仕事のことは考えず、思い切り競技に専念できます。

両方とも集中して取り組むことで、自分にできることが増えたと感じています。
以前はPC作業や人前で話すことに苦手意識を持っていました。ただ、仕事で評価いただくことで、「自分はできる」と感じられ、トランポリン以外のことも積極的に取り組めるようになりました。

―最後に、佐藤さんの今後の目標を教えて下さい。

現在は2024年のパリオリンピックを目標にしています。

ただ、「オリンピック出場」という目標を持つ一方で、世界選手権で自分が納得のいく演技がしたいという想いも持っています。
以前、世界選手権で失敗した時に、練習の中で自分が納得した演技をすることで気持ちを切り替えることができましたし、自信に繋がりました。

画像4

私が思うに、個人競技の選手は自分の演技が好きだと思うんですよね(笑)
もしかしたら、自分のやりたい演技構成で納得することが一番の理想かもしれませんね。

仕事に関してはチャレンジしてみたいことがたくさんあります。今の仕事も楽しいですし、海外転勤などしてみたいとも思っています。

また、トランポリン競技者としての経験を活かしたいという想いもあります。
トランポリンをやってきた人にしかできないことがあると思います。自分のチームを持って指導してみたいですし、トランポリンの普及や育成にも挑戦してみたいです。

アスリートには引退があります。トランポリンにかけていた熱量を仕事にぶつけたいと思います。


==================================

根本様へのご質問

―アスリートを採用しようと思われた理由を教えてください。

元々、自社でアスリートを採用することはできないと考えていました。

スポーツフィールドから佐藤を紹介いただいたときに、派遣希望者として考えていました。今年(2021年)の11月に産休で退職した社員がいて、ちょうど若い社員を採用しようと考えていたので、できれば当社にもチャンスがあればいいなと思っていました。
佐藤は素直で、人間力があり、おもてなしの精神を持っています。当社の業務内容でも活躍すると感じました。

すると、担当の岸さん(スポナビアスリートスタッフ)からは「ぜひ、株式会社FIPSでの就労をご検討下さい」と言われ、佐藤の採用を検討しました。本人へ当社で本当にいいのか両親にも相談するよう伝え、返ってきた返事は「FIPSで働きたい」という言葉でした。

ご縁をいただけて嬉しかったですね。

―佐藤さんのお仕事に取り組む姿勢はいかがですか?

スポーツの経験で培ってきた、上下関係の理解、音を上げない精神です。
佐藤に関しては、8月に入社しましたが、業務内容以外に指導したことはほとんどありません。言われたことはスピーディーに対応しますし、おおらかさも持ち合わせています。みんなで協力をしようとする姿勢も感じます。
現場でもトラブルもなく、可愛がられている姿がありました。

本人も楽しそうに業務に取り組んでいます。良い意味で自由にのびのびと仕事に取り組む環境を作っていきたいです。
スポーツが出来る喜びを感じながら、色々な人の働き方や環境を見て活力にしてもらいたいです。

アスリートは、スポーツを終えた後の人生も充実してなければいけないと思います。主人が元プロ野球選手でスポーツに40年も携わりました。その傍ら、多くのアスリートの姿を見て、目標や夢を掴める人は本当にごくわずかなのだという厳しい現実も実感しました。

デュアルキャリアアスリートの「仕事もスポーツも100%」という姿勢に共感しています。今後も微力ながらアスリートを支えていきたいです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?