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スポーツ医学検定を通して アスリートも指導者も愛好家も、スポーツを長く楽しめる環境が実現する

谷川真理 株式会社MariCompany、流通経済大学客員教授、マラソンランナー

高校卒業後に一度陸上から離れるものの、社会人として働いていたときに走る楽しさに目覚め、そこから一気に世界まで駆け上がっていった谷川真理さん。今もマラソンランナーとして走ることを通じてさまざまな活動を続ける谷川さんは、2020年11月にスポーツ医学検定を受検。そして見事に3、2級に合格されました。

今回は、なぜスポーツ医学検定を受検されたのか、それを今後のご活動にどうご活用されるのか、じっくり伺いました。

――まずはスポーツ医学検定の3級、2級の合格、おめでとうございます。

谷川真理(以下 谷川):ありがとうございます。3級は合格できるだろうと思っていたのですが、やはり専門性が高くなる2級の合格は難しいと思っていたので、両方合格できるなんてビックリでした。

合否の通知が合った日も、日課のランニングをしていました。ひとしきり走ってきて家に戻って来たら、封筒が届いているわけです。通知が届いたらすぐに開けよう、と思っていたんですけど、いざとなると「ちょっと気を静めて落ち着いてからにしよう」と尻込みしちゃって。それで先にお昼をいただいて、そのあと仕事をして夕食の準備をしようかな、とテーブルを見ると、当然、未開封の封筒が置いてあるわけです。もうしょうがない! と腹をくくって、正座して封筒を開けました(笑)。

そうしたら3級だけではなくて、2級も合格! 私のなかでは、しっかり頭のなかに知識として浸透させるためにももう一回勉強したほうが良い、と神様が言うために不合格だろう、と思っていたので、すごくビックリして飛び上がっちゃいました。それくらいうれしかったですね。

走る

――3級のベーシックから、2級のアドバンスになると難易度も上がります。受検されるにあたって苦労された点はありますか。

谷川:人体のつくりはとても複雑なのですが、特に肩や肘、腰といった複合関節部分が結構むずかしく感じました。人体模型が必要だったくらいです。自分の身体を触りながら、こっちが尺骨で、こっちが橈骨で……と確認しながらやっていきました。ただ、だんだん欲が出てきて、テキストとあわせて、インターネットで検索して調べていろいろな図や写真で確認したり、とにかく何度も勉強して復習しての繰り返し。久しぶりに勉強できた! という感じでしたね。

――そういった勉強を通じて、身体に対する知識が大きく変わったと思います。

谷川:そうですね。今までは身体の部位がどのように、どうやってつながっているのか、というのを感覚的には理解していました。今回スポーツ医学検定を受検するに当たって勉強していくなかで、その元の部分を確認するというか。「こことここがつながっているから、こういう動きになる。その動きの元になる部位が、ここにある」といった感じです。

たとえば、脊柱起立筋がありますが、それだけ鍛えてもダメで、脊柱起立筋を生かすためにお腹を中心とした体幹も合わせて鍛えないといけない、とかですね。

また、腸骨、坐骨、恥骨でなされる寛骨は、子どものころはまだ軟骨でできていて、成長するにつれて骨になっていくこと、また、子どもは身体が小さいので大人よりも脱水症状を起こしやすいとか。成長に伴う身体の変化や、老若男女、スポーツを安全に行うにはどうしていかなければならないか、という知識も学ぶことができました。

そして、大事なのはそれをアウトプットしていくことだと感じています。インプットとアウトプットを繰り返して回数を重ねていくうちに、もっと自分のなかにこれらの知識がより深く浸透していくのではないでしょうか。

脊椎

――なるほど。身体のことを知れば、ケガや故障への対処だけではなく、成長に合わせたトレーニングが必要ということもわかるわけですね。

谷川:まさにそうだと思います。私は昔ながらの忍耐や根性で強くなる、というのが苦手で、一時、陸上競技から離れましたから。成長期の身体に無理をさせなかったのが、私の場合は結果的には良かったのかもしれません。身体ができあがってからマラソンに取り組んだので、しっかり集中してトレーニングに取り組むことができました。

ですから、今回受検してみて、特に指導者の方にもぜひ受検していただきたいと思いました。身体の知識はもちろん、成長期に起こっている身体の変化や、そのことへの対処法など、正しい知識を身につけて指導されたほうが、今まで以上に子どもたちが良いトレーニングができて、良いパフォーマンスを発揮することができるのではないかと思います。

子どもたち自身は、当然そういった知識をもっていません。だからこそ、子どもを指導される方々が正しい知識をもって指導することはすごく大事なことです。子どもたちの成長に合わせた正しいトレーニングは、正しい知識から生まれるもの。それを改めて教えてもらった気がします。

子供

指導者の方だけではなく、プロフェッショナルとしてスポーツをされている方々も自分の身体の知識を得ることによって自分の身体を守ることもできます。そして、どの筋肉を鍛えれば自分のパフォーマンスを上げることができるのかもわかります。もしかしたら、なかなか越えられなかった壁を乗り越えるきっかけを見つけられるかもしれません。

ケガをした時も、どういうリハビリを行えば良いかも、身体に対する知識があれば理解できますよね。私は膝のケガに長く悩まされた時期がありました。当時からリハビリや膝をカバーするトレーニングに取り組んでいましたが、今回勉強したことで、その正しさが理論的に理解できました。あの時にこうやっていたな、あれはこういう理由だからだったんだ、という感じですね。

――理論的な裏付けですね。予防に加えて、ケガをしてしまったあとの対処法も学べる。長く、楽しくスポーツを続けられる土台となる知識ですよね。

谷川:いかに楽しく、安全に継続するということが、スポーツ最大のテーマだと思っています。そのためには、正しい知識を経て、正しいトレーニングを積むことが第一。それでもケガをしてしまうこともあります。そうなったら、正しい知識をもって正しいリハビリを行って、また身体を鍛えていく。そのサイクルが大事になってくると思います。だからこそ、指導者やプロフェッショナルの方々だけではなく、一般のスポーツ愛好家の方々にも、このスポーツ医学検定は役に立つ知識を得られるものだと思います。

――谷川さんが現役のマラソンランナーとして走り続けられるために、取り組まれていることはありますか。

谷川:一番は、摂取と消費のバランスです。つまり食事ですね。トレーニングをそれほど多くやらないときは炭水化物を減らしたり、頑張ったときは良質なタンパク質を多めに摂ったりする。あとは彩りの良い食事とか、基本的なことを大事にしています。人間の身体は口から入ってきたものでできているわけですから、食事はとても大事にしています。

あとは、身体の声を聞きながらトレーニングすることです。今も膝の調子があまり良くないので、走る量は減らしつつ、膝周辺の筋力トレーニングの量をいつもよりも増やしています。身体の調子を敏感に感じとって、臨機応変に対応することが基本ですが、大事なことだと思っています。

――自分の体調や調子、痛みなどに敏感になるのは大事ですよね。

谷川:しかし痛みに関して言えば、敏感になることも大事ですが、守りすぎてもダメなのです。もちろん無理はしません。でも、痛みがあるからといって守るばかりでは、動けなくなってしまうわけです。

――確かに、ただ守るだけであれば動かないのが一番ですね。

谷川:少し痛いくらいだったら、動かしたほうが良くなる場合もあります。私の場合は膝ですけど、走り始めに少し痛いくらいだったら、走っていくうちに身体が温まっていってスムーズに動くようになり、痛みが治まることもあるのです。大事なのは、その痛みが動かしたほうが良くなるのか、それとも動かしてはダメな痛みなのかを知ること、感じとることだと思うのです。

年齢を重ねると、どうしても身体に諸々問題が出てくるわけです。だからといって動かさなければ、それこそどんどん悪くなって動けなくなってしまう。そうではなくて、脚が痛いなら上半身の腕振りのトレーニングをする、という方法もある。体幹だって鍛えられますよね。

痛みや調子に敏感になると同時に、それに対する対処法をもっておくことが、永くスポーツを楽しむために必要なことなのではないでしょうか。

ラン (1)

――改めてなのですが、谷川さんがスポーツ医学検定を知ったきっかけ、そして受検を決めたきっかけを教えていただけますか。

谷川:以前、一般社団法人スポーツ医学検定機構の代表理事でおられる大関信武先生と食事をご一緒させていただく機会があったのです。そこでスポーツ医学検定のお話をうかがって、すばらしい取り組みだと思ったのです。「医学」と聞くとハードルが高いように感じられる方もいらっしゃると思います。しかし実際には身体の知識とか、ケガを予防する身体づくりやリハビリの方法、競技に復帰するための道筋とか、スポーツをする方なら知っておいたほうが良い内容が中心です。それに、実際はそこまで難しすぎるものでもありません。スポーツに携わる人間として、知っておいたほうが良い知識を学ぶことができるのならと思い、チャレンジすることを決めました。それに、大関先生にとても背中を押していただいたこともあります。(笑)

――今回合格されたスポーツ医学検定の3級、2級を谷川さんは今後、どのように活用していこうとお考えですか。

谷川:今、さまざまな場所でランニング教室をさせていただいているので、まずはそのランニング指導に生かしていきたいです。みなさんに正しい身体の動かし方や、身体の知識を伝えていきたいと考えています。

あとは、今回すごく駆け足で勉強してきたので、もう一度テキストを復習して勉強し直して、知識をしっかりと自分に浸透させていきたいと思っています。

――谷川さん、ちなみに1級は受検されますか。

谷川:3級と2級に合格したことをSNSにアップしましたら、皆さんから「おめでとう!」って言ってもらえました。今回、そういう声をたくさんいただけて、マラソンで結果を出したときとはまた違った達成感を味わいました。皆さんの反響がすごかったので、勢いで「1級も受けちゃおうかな」って思っています。実はテキストも、もう手元にあるんですよ!

少し勉強してみたのですが、それがとっても難しいんです!  2級よりも細かく身体が分析されていて、さらに専門性が高くなっているのでもう大変です。(笑)

それこそ、身体模型が本当に必要になるくらいの難しさです。受検して受かったら素晴らしいと思いますけど……ちょっともう少し勉強してから考えますね(笑)。

――ぜひ頑張ってください! 最後になりますが、この先、スポーツ医学検定にどのようなことを期待されますか。

谷川:多くのスポーツ指導者だけではなく、アスリートの方やスポーツ愛好家の方々も含めて、ひとりでも多くのスポーツに関わる方々にスポーツ医学検定を受検していただき、身体の正しい知識を知ってもらいたいと思っています。リハビリの参考になることもたくさん学べますし、もちろんケガの予防になる運動の基礎を学ぶこともできます。

そして、この知識を利用した人たちが、今まで以上にスポーツを楽しく、長く継続できるようになっていってほしい。たくさんの方々がスポーツを健康に、安全に楽しむ環境が広まっていけば、そこからゆくゆくは世界大会で活躍できるような選手が増えていく。スポーツ医学検定が、そういった環境を広めるきっかけになってもらえたらうれしいですね。

<編集後記>
取材中、終始明るく、楽しく、笑顔でお話ししてくださいました。勉強も大変だったとおっしゃっていましたが、それすらも楽しまれていた様子。そこに生涯マラソンランナーとして、元気に活躍される谷川さんの強さを感じました。そして、アスリートとして世界で戦ってきたから分かる、正しい身体の知識の必要性。だからこそ、スポーツ医学検定が指導者やアスリートだけではなく、愛好家も含めたスポーツに関わる多くの方々に広まってほしい、という思いが伝わってきました。笑顔いっぱいの1級の合格発表、お待ちしていますね。

(文 田坂友暁、構成 田口久美子)

◇プロフィール◇

谷川真理さんの顔写真

谷川真理(たにがわ・まり)
1962年生まれ。福岡県出身。東京・武蔵野中学校・高等学校時代は陸上部に所属し800m中心の中距離選手だった。800mで2回、関東大会に出場。高校卒業後はツアーコンダクターを目指し、一橋スクールオブビジネスに進み、陸上競技からも離れた。専門学校卒業後は大手町でOL生活を送っていたが、友人と花見に皇居に行った際に、皇居周辺でジョギングを楽しんでいる市民ランナーに刺激を受け、翌日から皇居を走り始め、24歳からマラソンを始める。その後、東京マラソンの前身である東京都民マラソンで上位入賞を果たし、シドニーのシティトゥーサーフマラソンに東京都代表として派遣され、これがきっかけでさらに走りに没頭し、1988年3月に名古屋国際女子マラソンで初のフルマラソンに挑戦。その後、昭和情報機器(現・キヤノンプロダクションプリンティングシステムズ)に転職し、さらに1990年に資生堂に入社。1991年東京国際女子マラソンで国際大会初優勝。さらに資生堂から良品計画に移籍した1994年にはパリ国際マラソンで優勝。その後も数々の大会で活躍。
2014年には株式会社MariCompany設立。現在は各マラソン大会へのゲストランナー、講演会、ランニング教室、テレビ出演などの活動を精力的に行っている。
2000年~2015年まで谷川真理ハーフマラソン「地雷ではなく花をください」をテーマに地雷廃絶のチャリティマラソンを開催。社会貢献活動が評価され、2009年には「外務大臣表彰」を受賞。



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