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スポーツアナリストになるためには? ラグビーアナリスト木下倖一さんに聞いてみた

今や日本のプロのスポーツチームにとって欠かせない存在となっているスポーツアナリスト。チームを勝利に導くために、データを活用した戦略が必要となっており、その役割を担うスポーツアナリストの認知も広がりつつあります。

一方で、スポーツアナリストが実際にどのような仕事をしているのか、またはスポーツアナリストになるためには何をすればいいのか、は広く知られていません。今回は、過去にサンウルブズや海外のクラブチームなどで分析に従事し、現在はNTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ浦安にて、ヘッドオブアナリシスを務める木下倖一さんにアナリストの役割やアナリストを目指すために必要なこと、アナリストとして働くうえでの難しさについてお話をお伺いしました。

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木下倖一。2016年、大学3年生の頃からNECグリーンロケッツ東葛(当時はNECグリーンロケッツ)でアナリストを担当。2017年からサンウルブズ、2019年からニュージーランドNPCのベイ・オブ・プレンティ州代表(愛称スティーマーズ)にジョイン。2020年からNTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ浦安に所属し、ヘッドオブアナリシスを務める。


ーー今日はよろしくお願いします。そもそも木下さんは、どういうことがきっかけでアナリストになることを決めたのでしょうか?

木下さん:
高校の頃からラグビーを始めたのですが、大学入学後は金銭面的な理由などで、部活には入りませんでした。それでも、将来はラグビーに関わる仕事をしたい。そう思って、とりあえずレフェリーをやってみたり、コーチの資格をとってみたり、アナリストが使う機材を買って使ってみたり、そういったことを大学生のときにやっていました。

この3つを並行して取り組んでいる中、大学3年生の春休みのタイミングで、たまたまNECでアナリストを探していると紹介してもらい、そこからアナリストの道を進むことになりましたね。


ーー選手以外の方法で、ラグビーに関わり続ける中で最初に芽が出たのがアナリストだったということですね。その後、サンウルブズ、海外チームであるベイ・オブ・プレンティ、そして今のシャイニングアークスへとチームを移ってきています。チームごとにそれぞれのカルチャーがあると思いますが、どういう風にフィットしているのでしょうか?

木下さん:
チームの文化は監督が形成するので、アナリストは監督が何を求めているかに合わせることになりますね。もちろん、監督によって性格は異なりますし、アナリストに求めるものはそれぞれ変わってきます。

試合後のレビューについて、アナリストにどこまで意見を言ってほしいのか、対戦相手のレビューをどこまでアナリストに求めるかなどは監督次第です。また、アイデアマンの監督でミーティングの30分前にこのデータが欲しいという人もいます。

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海外チームでアナリストを経験した木下さん(画像左)


ーートップリーグのアナリストは普段どういう業務を行っているのでしょうか?

木下さん:
基本的には、スタッツをつけた定量的な分析と映像を見て行う定性的な分析です。それ以外だと、チームのIT環境を整備するヘルプデスク的なこともやっていたりします。

あと、これは私に限ってかもしれませんが、ミーティングのとりまとめを行うようにしています。ミーティングの構成をしっかりと立てないと、話す内容があいまいで冗長なものになってしまうので。アナリストとして、伝えたいメッセージを簡潔に伝えて、スタッフサイドとしてちゃんと準備している姿を選手に見せないといけないと思っています。


ーー単なる分析だけではなくて、それを如何に伝えるかもアナリストの重要な役割ですね。

木下さん:
そうですね。数学的な背景をコーチや選手たちが持っているわけではないので、複雑なデータを出しても理解されないこともあります。やはり、できるだけシンプルな方法とシンプルな数字にいろんな情報を落とし込まないと伝えることは難しいです。一方で、表面的な数字に囚われると、本質的ではないものを追ってしまうことになりかねません。

スタッツは試合という複雑なものをある角度から見ているに過ぎません。例えば、円錐は上から見ると円、横から見ると三角形に見えますが、円錐は円錐として理解してもらうように伝えないといけません。しかし、そうなると伝える難易度が一気に上がります。アナリストの分析もこれと同じ課題を抱えています。様々な要素を複合した、より正確なデータを伝えたい一方で、それが理解されないと意味がないのです。この課題は各国のナショナルチームのレベルですら、持っている課題だと思います。


ーーアナリストとして働くうえで、そういった課題に取り組んでいく必要があるのですね。一方で、木下さんがアナリストとして手ごたえを感じる瞬間はどのような時でしょうか?

木下さん:
アナリストは過去に起こった事象から未来を予想していくことが求められます。そう意味では相手の戦術やプレーを予想して、その対策が試合で効果を発揮した瞬間ですね。こういうと簡単そうに聞こえるのですが、試合の中ではあらゆる事象が複雑に絡み合っているので、あるところを変えると全く別のところも変わってしまいます。そういったことを加味した上で予想してくのは難しいところだと思います。

あと、基本的には辛いことの方が多いです(笑)。忙しい時期は、深夜までスタッツをまとめていたりします。それでも、やっぱり自分の戦術予想が上手くハマって、チームの勝利に貢献できたと思える時は、何ものにも代え難い瞬間ですね。


ーーチームの勝利に貢献するというのは、やはりスポーツアナリストとしての醍醐味ですよね。アナリストはどのように評価されるのでしょうか?

木下さん:
アナリストを評価するのは監督です。定量的な評価指標などはなく、監督が持つ評価軸で評価されます。結局、評価も監督次第というわけです。言われたことだけ素早く対応することを求める監督もいれば、クリエイティビティを求める監督もいるので。そこはアナリストと監督の間で合う合わないはあると思います。

また、監督が評価することを加味して忖度する瞬間はあると思います。アナリストは客観的に分析したデータに基づいて正論をいうべき役割の人間ですが、評価の兼ね合いで本音を言えない瞬間は誰しもあります。


ーー本来の役割と、評価の面での葛藤のようなものは、サラリーマンと同じような悩みなのかもしれませんね。木下さんから見て、優秀なアナリストはどういう人なのでしょうか?

木下さん:
コーチとのコミュニケーションが上手で英語が話せる人ですね。英語を話せるかどうかは、本当に重要です。今のトップリーグの監督は外国人が主流ですし、どのチームにも外国人のコーチはいます。通訳がチームにいるとしても、直接伝えられた方が絶対にいいので、英語は重要なスキルの1つです。


ーー「英語」という要素を挙げていただきましたが、学生の頃から木下さんと同じようにアナリストを目指していく場合、どういうことから手をつければいいのでしょうか?

木下さん:
第一段階として、普段の生活でいろんなことに興味を持って、様々な事象の理由や原因を突き止める癖を付けておくといいと思います。次に、分析ソフトを実際に使ってみる。そこで分析のスキルを身に着けた上で、自分のことを知ってもらう活動も行っていくべきだと思います。

トップリーグでアナリストのインターンをしている学生もいますが、そこのポジションは公募ではなく知り合いの紹介経由がほとんどです。そのため、自分がどのような人間でどういうことができるか伝えていく必要があります。今の時代はSNSなどでの発信もできるので、そういったところで自分をアピールしていくことも重要になっていると思います。

アナリストは、強い忍耐力が必要になる仕事です。それでも「ラグビーが好き」「チームの勝利に貢献したい」という強い気持ちを持って、継続していける人が優秀なアナリストとして活躍しています。


ーーありがとうございました。