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過去から未来へ Vol.2 ~書籍『物語 日本のハンドボール』をもとに~

スポーツイベント・ハンドボール本誌で現在も連載中の「過去から未来へ」。日本のハンドボールの歩みを紹介した書籍『物語 日本のハンドボール』をもとに、ハンドボールの生い立ち、歴史に触れ、未来を切り開いていってほしいという願いをベースに、書籍に記された事象や時代背景をより掘り下げてお伝えする当連載を無料公開していく。

Vol.1はこちら
著者:杉山 茂(すぎやま・しげる)スポーツプロデューサー。
元NHKスポーツ報道センター長。慶應義塾大学卒。オリンピック、主要国際大会などのテレビ制作のかたわら、スポーツ評論の著述を手掛ける。近著に『物語 日本のハンドボール』 

ハンドボールの起源

――ハンドボールをはじめ、球技の起源をたどっていくと『ハルパストウム(ハルパストン)』という球技に行きつきます。

スポーツの枠を超えて、人類学の話になってしまいますが、誕生以降、人類は生存していくために、手足を使ってほかの動物を狩ったり、木の実を取って食料としてきました。

長い時間を経て、余暇の時間が生まれ、狩りや採集に使った手足を遊びごとに使うようになる。この流れは、本能的なものだったと思います。

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長年現場で取材を続けてきた著者だからこそ書けた、日本へのハンドボール伝来から現在までを追った力作。(杉山茂著、グローバル教育出版発行)

果物や野菜を投げたり、蹴ったりしたこともあったでしょう。やがて牛の膀胱に鳥の羽毛などを詰めて、球状の用具を作って遊ぶように。

これは牛や鳥が死なないとできないことです。遊ぶために牛や鳥を殺すわけではなく、食糧としたあとに、膀胱や羽毛を使ったわけです。

球状の用具、つまりボールを投げ、持って走り、蹴って遊ぶ。それが古代ローマ時代のハルパストウムと呼ばれる球技です。

投げる=ハンドボール、持って走る=ラグビー、蹴る=サッカー。

ハルパストウムは、多くの球技の起源とされています。近代スポーツの中でも、いちばんハルパストウムの要素を残しているのが、狩猟に直結する「投げる」動作がメインのハンドボール。

ハンドボールは「帝王球技」という人もいます。

ハルパストウム=ハンドボール=帝王球技、と言い切れるまでの歴史的な根拠は持ち合わせていませんが、非常に古くからある遊びが、ハンドボールの原型となっていることは、誇りを持っていいと思います。

下の写真のように、ローマの前、古代ギリシアでも球状のものでたわむれる人々の姿が壁画に描かれています。

ハルパストウムを「家元」のように考えてはどうでしょう。ハルパストウムから、いろいろな「流派」の競技が生まれていったイメージです。

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アテネで発見された壁画(紀元前500年ごろ)の中に描かれた球戯
《国際ハンドボール連盟50周年誌より》


――同じ競技からさまざまな方向へ分かれていき、独自の発展をしていくのは興味深いですね。

人間にとって遊びほどおもしろいものはなく、どんどん熱中していく。次第にルールを整え、競技化されて近代スポーツへ。

サッカー、ラグビー、アメリカンフットボールといった、足を使って「蹴る」フットボールとハンドボールが分かれたターニングポイントも、どこかの時代にあるのではと思っています。

足を使うサッカーやラグビーが、競技化を進めた大英帝国の植民地政策とともに、世界に広がっていき、現在の姿があるのに対し、ハンドボールがその流れに乗り遅れたのは確かです。

大英帝国の影響が色濃いサッカーやラグビーと違い、ハンドボールは国際ハンドボール連盟(IHF)が発祥の地としているデンマークだけでなく、ドイツ、ウクライナ、チェコスロバキア、カナダなど各国に起源があります。

調べ切れませんでしたが、1923年7月に南米のウルグアイとアルゼンチンがバルーン(バロン)というスポーツの国際試合を行なっており、これがじつはハンドボールで、ハンドボール界史上初の国際試合、という説もあります。7-3でウルグアイが勝ったとスコアまでわかっています。

現在、本場とされているヨーロッパだけでなく世界中に、ハルパストウムから生まれたハンドボールにつながる萌芽があった、と言っていいでしょう。フットボールが盛んになり、それに刺激を受けてハンドボールが始められたわけではないのです。〈Vol.3に続く〉

今回のキーワード
「ハルパストウム」
ハルパストンとも言われ、古代ローマ時代の球技。牛の膀胱に鳥の羽毛などを詰めて球状の用具を作り、2つのチームがそれを相手の陣地に持ち込んで得点を争ったとされ、ハンドボールの有力な起源の1つとされている。


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