見出し画像

みんなが大好きなもの 好きになれなかった

「スミスは最近、なんの音楽聴いてるの?」

流行りの音楽が流れるごはん屋で、上司が私に聞いてきた。こういうとき、どう答えるのが正解なんだろう。彼が知らないバンド名を言ったって会話に詰まるだろう。でも生憎私は、国民的ヒット曲を愛聴していない。

***

14歳でロックバンドに傾倒しはじめてから、私は徐々に流行の波に乗れなくなってしまった。もともとそんなに乗りこなすタイプでもなかったけれど、「流行ってなくても自分の好みのものがある」ことを知ってから、そちらを探すことに心血を注ぎはじめた。

最初のうちは「こういう音楽がすごい良くてさ」と、自分の発見について話したりもしたが、友人はイマイチ乗り気じゃない様子。こういうことが増えていった。

それをさみしく思うこともあった。
流行りモノは「万人の心」をつかむ力があるのに、その「万人」の中に私は入らなかったんだなぁ、と。右向け右と言われているのに、ひとりだけ左を向いてしまったようなちいさな違和感。
それを特別に思うこともあったけれど、そんなのは好きな曲を聴いて強気になっているときだけ。中学生の私はだんだん、「みんな」に染まれないことに劣等感を抱くようになった。

***

では、最近の私は?
最近はというと、しがらみなんかもすっかりなくなり、好きなものを自由に愛している。所属していた学部・専攻の影響もあってか、大学生にもなると周囲にはディープな文化的知識を持った人がたくさんいた。それによりすこしずつ心が溶けた。

社会人になってからは、より多くの音楽を聴き、映画を観、本を読むようになった。そしてついに気がついた。

レビューサイトでどれだけ低い点がつけられた作品でも、意外とおもしろかったり、心に響いたりするものがある。大勢の意見よりも大事なのは、実際に目で見て耳で聴くことだと。

***

流行りの歌はすごい。
映画も小説も漫画も、流行っているものはすごい。それらに触れて、「あぁ、流行るのもわかるな」と思うものも多くある。でも、自分に響くかどうかはまた別の話。

私は私で、好きなものを好きと言う。
それを極めすぎると、上司や取引先との会話で困るかもしれないけれど(笑)、まあもう、別にそれでいい。

***

ちなみにタイトルは、スピッツの“グリーン”という曲の歌詞だ。
「唾吐いて みんなが大好きなもの 好きになれなかった」のあとに、「可哀想かい?」とつづく。

かわいそうだと思うこともあったけれど、いまは胸を張って、「これがしあわせだ」と言える。

でも悩みの時代を経て 久しぶりの自由だ
ときめきに溺れそうなんだ 最速で
どこへでも行くよ

グリーンの歌詞が、さらにこうつづくように。



最後まで読んでくれて、ありがとうございます!