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「言葉」でなく「心」で理解するエイリアスノイズとオーバーサンプリング

嘘です。「心」では理解出来ません。ですが、かなり直感的に理解できる動画を撮ったのでまとめておきます。

前提知識として、基音や倍音について知っている必要があります。音を歪ませていくと、基音に対して整数倍音が足されていくよ~くらいの知識があれば大丈夫です。

あと自分で調べた限りの知識なので「ここ間違ってる!」とかあればご指摘いただけると助かります。

エイリアスノイズを「見る」

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こちらの画像は1kHzのサイン波を鳴らし(Waves eMo Generator)、その後に歪みを加えて(IK Multimedia Saturator X)、最後にアナライザを通したものです(fabfilter Pro-Q2)。

奇数倍音が付加されるタイプの歪みのようで、第三倍音の3kHzから始まり、5、7、9kHz……と山が出来ており、倍音が出ているのが分かります。

では、このサイン波を10kHzにしたらアナライザには何が表示されるでしょうか? ちなみにプロジェクトファイルのサンプリング周波数は44.1kHzです。

44.1kHzという事はこのプロジェクトファイルではその半分の22.05kHzまでしか鳴らす事が出来ません(ナイキスト周波数って言うらしい)。
一方で、10kHzのサイン波に対してまず第三倍音が足されるのですから、最初に出てくる倍音は30kHzということになります。
30kHzというのは、22.05kHzよりも高いわけですから鳴らす事が出来ません。余裕で可聴域外ですし、このアナライザでも表示出来ません。第五倍音以降は更に上の音域なので言うまでもありません。

……ということはアナライザに表示されるのは元の10kHzのサイン波だけのように思われますが、

実際に見てみましょう。

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!!?!?!?!!!?

実際には10kHzの他にも山が出来ています。百歩譲って10kHzより高い部分で何かしらの音が鳴るのは許せるとして、何故か低いところにも山が現れます。

これがエイリアスノイズだとか、折り返しノイズだとか呼ばれるものです。

正体は高すぎる音

このエイリアスノイズの正体は何かと言うと、ナイキスト周波数よりも高い音です。

実は、ナイキスト周波数よりも高い音は消えて無くなるのではなく、はみ出した分だけそっくりそのまま折り返して曲の中に表れます。

「言葉」では理解しにくいので「心」で分かる動画を用意しました。先ほどと同様にサイン波に歪みを加えアナライザを通したものですが、今度はそのサイン波の周波数をどんどん上げていってます。
※スイープは耳に良くないらしいので無音の動画です

面白いですね!!!!!

アナライザの右端付近(22.05kHzです)で見えない壁にぶつかったかのように山が折り返しているのが分かります。そして折り返した山は今度は下端にぶつかってまた右へ……これは確かに折り返しノイズだわ……

と、こんな感じでナイキスト周波数より高い音を鳴らしてしまうと、それよりも低い音域にノイズとして現れます。しかもノイズと言いながらしっかり音高のある楽音です。元々は倍音だったはずなのに、ナイキスト周波数を超えてしまったばっかりに、折り返してきたこれらの音は基音に対して不協和となる事が多く、濁りを生みだします。

おまけ算数タイム
※計算しやすいように 22.05≒22 ということでナイキスト周波数は22kHzで計算します。

さっきの10kHzのサイン波
第三倍音の30kHzはナイキスト周波数の22kHzを8kHzオーバーしてしまったので

22-8=14

として14kHzの音として現れています。
第五倍音の50kHzは28kHzもオーバーしています。

22-28=-6

として6kHzになっています。基音より低い音が出る訳も分かりました。

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オーバーサンプリング

ではこのエイリアスノイズ、どう対処すればいいのでしょう?

先ほどからずっとナイキスト周波数を22.05kHzと言っていましたが、それはこの曲のサンプリング周波数を44.1kHzで作っているから。
単純な話、サンプリング周波数を上げればどんどんナイキスト周波数も上がっていく訳ですから、アナライザ上でぶつかってた「壁」の部分を右にずらす事が出来ます。

例えば僕の使っているDAW、cakewalkの場合サンプリング周波数を最大で384kHzにする事が出来ます(!?)

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するとその半分のナイキスト周波数が192kHz。こうなるとちょっとやそっと倍音が出過ぎた程度では一向に壁に当たりません。仮に当たったとしても、折り返しで現れるエイリアスノイズも可聴域の遥かに外側です。

…………しかしこれはマシンパワーとのトレードオフです。プロジェクトのサンプリング周波数を上げれば確かに解決するのですが、それ相応にマシンパワーを消費します。これで作編曲やらミックスやらに支障が出ては本末転倒。DAWが落ちた日には泣いてしまいます。
(384kHzは流石に極端ですが、これらの理由からプロジェクトのサンプリング周波数を96kHzや192kHzにして作業する方は一定数いると思います)

そこで上記の操作をプラグインの中に落とし込んだのがオーバーサンプリングという機能です。「音が濃密になる」「音が良くなる」とふんわりした表現がよくされますが、その本質はエイリアスノイズの低減です。倍音を付加するサチュレーターやエキサイター、プリアンプ、コンソールといったプラグインでしばしば見られる機能です。

百聞は一見に如かず。IK Multimedia Saturator Xはオーバーサンプリング機能があるので、これをオンにした状態で先ほどのスイープ動画を撮ってみました。

壁にぶつかった山が折り返す事なく、吸い込まれるように消えていきました。先ほどの動画と見比べると、どちらの方が余計な音が少ないか、一目瞭然かと思います。「心」で理解できる。

この動画ではオーバーサンプリング2倍なので、プラグインの中では実質的にサンプリング周波数が88.2kHz、ナイキスト周波数が44.1kHzとして動いていた事になります。10kHzのサイン波を鳴らしても30kHzはそのまま倍音として現れ、50kHzは壁にぶつかるけども、折り返して出てくるのが38kHz付近……といった風に、可聴域でのノイズの出現を減らす事が出来ます。

最後に20kHzあたりのローパスフィルターで上をバッサリ切って解決です。

さらっと書いてしまいましたが、このようにオーバーサンプリング機能を持つプラグインは、オーバーサンプリングをオンにすると自動的に超高域をカットするためのローパスフィルターが一緒に動作します。
これがないまま音をプラグインの外に出してしまうと結局また元のプロジェクト本来のナイキスト周波数にぶつかってエイリアスノイズとして曲の中に出てきてしまいますからね。

これはDDMF Plugin DoctorでSaturator Xの周波数特性を計測した画像です。

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↑オーバーサンプリング無し

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↑オーバーサンプリング有り

ちなみにcakewalkはDAWの機能としてどんなプラグインもオーバーサンプリング2倍で動かすことが出来ます。Saturator Xは元々4倍までいけるので、乗算するとオーバーサンプリング8倍までいけるはずです。

このハチャメチャに暴れ回るエイリアスノイズも…………

ここまで綺麗になりました。

まとめ

実際に耳で聞いてみるとそこまで気になるもんでもないし、何なら気付かないレベルということもよくあります。俺の耳がバカなのか?

ついでに言うとエイリアスノイズを意図的に発生させるビットクラッシャーやサンプラー(SP1200等)シミュのプラグインもあります。悪いことばっかりでもありません。

結局オーバーサンプリングも重くなるのでバシバシ使える訳ではないんですが、やる意味を理解することで使いどころの見極めに貢献できればなと思いました。

参考


やっぱブチャラティ対プロシュート兄貴が好きすぎるぜ。

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