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新藤兼人監督の「三文役者」を観た

「銀心中」を観て重苦しい気分になったので、気分転換できそうだと思って、新藤兼人監督の「三文役者」を観た。「楽しいかな」という期待があった。

この映画は、新藤映画の常連だった殿山泰司の役者人生(主にプライベートだが)を描いた半ドキュメンタリー映画だ。半ドキュメンタリーと書いたのは、殿山役は竹中直人が務めるなど、芝居の配役にはなっているが、新藤や音羽信子が本人役で登場しているほか、「裸の島」など殿山が出演した(新藤が撮った)過去の映画のシーンが挿入されているほか、今村昌平監督などへのインタビューも挿入されているからである。

期待通り楽しい映画ではあったが、むりにドラマ映画にしている感じがした。新藤がかつて撮った溝口健二のドキュメンタリーのように、普通にドキュメンタリーとして撮った方が、良かったのではないかと思った。例えば、映画のシーンを交えながら、殿山を起用した監督や共演した役者のインタビューを入れ、最後に新藤が登場して締めるとかだ。

と言うのも、時代設定と映像が全く合っていないと感じたからである。例えば、おそらく1950年代ごろのシーンなのに、明らかに現代風の町並みだったり、現代風の学生が歩いていたり、現代風の自動車が走っていたりしていた。あまりにわかりやすいので、意図的にやっている可能性はあるが、もしそうだとしたら、それは完全な失敗である。

役者にも違和感があった。竹中は、殿山を演じていると言うより、変なテンションで、変なキャラを演じているとしか思えなかった。あと、竹中は殿山の30才ぐらいから70才ぐらいまでを演じていると思うが、見た目も喋り方もがほぼ変わらない。まったくと言って良いほど、老けないのである。「せめて髪ぐらい白くしろよ」と思った。

乙羽が、本人役でたびたび出てくる演出はおもしろかった。映画が公開されたのは2000年だが、このとき乙羽は、すでに他界(1994年)している。殿山の追悼映画だが、乙羽の追悼とも考えられるわけだ。すでに亡くなった乙羽が、乙羽より5年ほど早く他界した殿山を演じる竹中と語り合うという演出は、よく考えついたものだと思う。さきに乙羽のシーンを撮っていたので、それに合わせて映画を組み立てた可能性はあるが。

この映画では、殿山は、酒と女に明け暮れながら、たまに役者をやっているマザコン野郎として描かれている。「三文役者」という言葉に引きずられ過ぎている感じがある。役者としてどうだったかがあまり描かれず、破天荒なプライベートばかり強調されている気がする。役者を追悼する映画なら、役者としての殿山の魅力を引き出すものにしてほしかった。