見出し画像

八重洲本大賞・受賞あいさつ

以下が3月の八重洲ブックセンターの八重洲本大賞授賞式に寄せた受賞あいさつです。読者の皆様、書店員の皆様に感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございました。

「13歳からの地政学」の著者の田中です。このたびは第5回八重洲本大賞の受賞作に選んでいただき、本当にありがとうございます。身に余る光栄で、感激を新たにしております。また、ウクライナの戦争の対応などで欧州からの一時帰国がかなわず、授賞式に伺えなかったことについて、重ねておわび申し上げます。

八重洲ブックセンターは私が1980年代の少年期から通い詰めた書店でした。当時もそこには洋書を含めたあらゆるジャンルの本がそろっていました。そこは私にとって好奇心の翼をはばたかせることができる場所であり、世界への扉でもありました。幾分かのお金を握りしめて、わくわくしながら一日中、店内を回って過ごしたものでした。

その後、インターネットが台頭し、本をネット書店で買うのも一般的になりました。でも、私にとって自分が知らなかった世界に導いて、視野を広げてくれるのは、いつもリアルの書店でした。

自分とは縁遠いと思っていた分野の書棚に寄って、書店員の皆様のお薦めの本を手に取る。面白そうな本のページをめくってみる。それまで関心を持つ機会がなかった面白い世界が眼前に広がっていく。こんなに刺激的で楽しいことがあるでしょうか。

インターネットにみられる科学技術の進歩は人類にとてつもない恩恵をもたらしましたが、同時に人々の間の分断を深めるという負の側面も深刻になっています。ネットでも自分の興味のあることだけを見る傾向が加速しました。自分と世代、性別や考え方が同じ人々が固まりやすくなり、自分と異なる人々を排撃する現象も広がっています。

異なる世代、性別、国々の人々をつなぎ、無知や無理解、社会の分断を減らしたい。カイゾクと呼ばれる高齢者の男性と10代の少年少女がフラットに対話する「13歳からの地政学」はそうした問題意識から書きました。

古今東西、書店は人々をつなぎ、無理解や偏見、分断を減らす役割を担ってきました。だからこそ分断を広げようとする人々の標的にもなってきました。ウクライナの戦争でも多くの書店が襲撃され、書物が焼かれています。

しかし、私は悲観していません。人間は無知や偏見に打ち克つことができるし、打ち克つことを目指す人々の試みは有史以来、やむことがありませんでした。

今回の大賞のテーマを「つなぐ」とされた八重洲ブックセンターの皆様と志を共にする人間の1人として、投票いただいた読者の皆様の思いを受け止めて、今後も尽力できればと考えております。ありがとうございました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?