Spirのロゴリニューアルの裏側
初めまして、Spirのデザイナー片山 亜弥です。2024年2月にSpirにジョインし、プロダクトデザインとコミュニケーションデザインの両方に携わっています。
Spirでは、まだ私一人が正社員デザイナーとして働いており、プロダクトデザインに加え、ビジュアルアイデンティティ(VI)の構築など、デザイン全般の基盤となるブランディング領域にも取り組んでいます。プロダクトマネージャーの北口と一緒にデザイン全般の土台となるブランディング領域も整えていこうと、あれこれプロジェクトを進めているところです。
Spirと似た状況にいる誰かの参考になればと思い、このnoteではロゴリニューアルの裏側をご紹介します。
Spirブランドの新たな一歩
2024年8月22日に発表した新サービスのリリースに合わせ、Spirのロゴをリニューアルしました。2019年の創業以来、初めてのロゴリニューアルです。
約4ヶ月間のプロジェクトで、ロゴの制作だけでなく、ミニマムながらWebサイトのアップデートも同時に行い、ブランド全体の刷新を図りました。このプロジェクトを通して私がテーマに設定していたのは、次の2点です。
『Spirらしさ』を言語化し、ビジュアルアイデンティティ(VI)に反映すること
お客様にはもちろん社員が納得し、愛着を持てるプロセスを心がけること
なぜこのタイミングでロゴをリニューアルしたのか
これまでのSpirのロゴは創業者の大山が委託先のデザイナーに発注して作られた、創業時から大事にしてきたものでした。
Spirの「息を吸う」という語源を意識して、空気のようなニュアンスを表現したもので、複数の候補の中から直感で選んだものだそうです。
私自身、入社前からSpirのロゴを少し尖った、いわゆる「IT企業らしくない」デザインだと感じていました。このロゴに惹かれて入社した社員もいるほどで、他のサービスとは少し異質な雰囲気を醸し出していたと思います。
これは実際の社員の声です。Spirを選んだ理由の一つに、ロゴなどのビジュアル要素が動機づけとなっていたという、嬉しい事実がありました。
しかし、そんなロゴにもいくつかの課題が浮かび上がってきました。
文字としての視認性が低い
印刷した際に色がくすむ
ミニマムサイズでの視認性に対応できるバリエーションがない
創業から4年が経過し、新たなサービスを開始する今年、姉妹ブランドとして展開することが決まっていたため、ロゴにバリエーションを持たせ、耐久性を高める必要が出てきました。今後のリニューアルを考えると、影響範囲の少ない今が絶好のタイミングでした。そこで、新サービスのロゴリリースに合わせ、Spirのロゴをアップデートすることが決まりました。
Spirらしさについて
Spirにはミッション、プロダクトビジョン、3つのバリューは存在していましたが、デザインの指針となるデザイン原則については定義されていませんでした。
「Spirらしさ」を意識したデザインの要素は多く生まれていましたが、その「らしさ」が何なのかを明確に言語化できていなかったため、デザインのトーンやマナー(トンマナ)にばらつきが生じることがありました。
「Spirらしさ」のぼんやりとしたイメージはあるものの、それをフィードバックに反映させる際には、明確な説得力が不足し、デザインの依頼が感覚的なものに頼ることが多かったという問題もありました。
このままでは、ロゴを作っても中身のないものになってしまうため、「Spirらしさ」を定義するための定例ミーティングやワークショップを実施しました。Spirはまだ規模が小さい会社なので、CEOへのエグゼクティブインタビューを直接実施できたことも大きなポイントでした。
このプロセスを通じて、ミッション、プロダクトビジョン、そして3つのバリューに繋がるデザイン原則のイメージを固めていきました。
プロセス1:Spirとは何者なのか
まず、デザイン原則を固める前提として、Spirのブランド人格、つまり「ブランドパーソナリティ」を定義することから始めました。Spirという企業を擬人化することで、メンバー間で共通の人格(通称「Spirさん」)のイメージを共有できるようにし、言葉遣いやトーン&マナーの設定がしやすくなるためです。
「Spirさんならこの場面でどう振る舞うか?」「どんな服を着ているか?」「困ったときにどう対処するか?」など、一つひとつの問いに対して丁寧に意見を交わし、イメージを具体化していきました。そうしてSpirさんのイメージが完成しました。
最初にブランドパーソナリティを定義したことで、Spirが目指す方向性についての議論が、メンバー間でより納得感のあるコミュニケーションに繋がりました。
プロセス2:Spirらしさの言語化
次に、Spirのブランドコアバリューを考えました。まず、Spirが提供する価値とは何かを言語化することから始めました。Spirが選ばれている理由を、プロダクトの機能価値と情緒的価値の2つの軸で付箋に挙げ、ユーザーインタビューを掘り返しながら、重要なワードをひたすら発散させていきました。
さらに、具体的なビジュアルを用いてムードボードを作成し、Spirの理想的な方向性をメンバー同士で意見交換しながら決めていきました。ムードボードに挙げられたキーワードを付箋に貼り出し、納得度の高いものにはスタンプを押しました。その後、各キーワードの理由についてさらに意見交換を行い、キーワードの絞り込みを進めました。
最終的に発散させたキーワードを収束させ、以下の3つに絞り込みました。これがSpirのブランドコアバリューです。
■ カジュアルシック / Casual Chic
洗練さと親しみやすさを兼ね備えたデザインは、ユーザーに落ち着きと集中をもたらします。
デジタルでのタイムマネジメントが当たり前になったビジネスシーンにおいて、上品でありながらも、ユーザー同士がリラックスして気持ちよくコラボレーションできる世界を目指しています。
■ シンプル / Simple
シンプルでメリハリのあるデザインは、多忙なビジネスパーソンが本当に必要な情報にすぐに辿りつくことができます。
Spirは、一貫性のあるすっきりとした表現を通じて、ユーザーが限られた時間を有効活用することをサポートし、創造的な時間を最大限に引き出せると信じています。
■ シームレス / Seamless
絶妙なバランスで強さと繊細さをつなぐデザインは、周囲の感覚や世界観と調和し、ユーザーにより良いコミュニケーションを促します。
個性を保ちながらも、ユーザーの感覚に違和感なく滑らかに寄り添うことで、Spirを使う際には快適でストレスのないコミュニケーションが実現できる世界を目指しています。
この過程で決まったブランドパーソナリティや3つのコアバリューは、すべてのタッチポイントで社員全員に意識してほしいと考えています。そのため、社内の全体定例でアナウンスし、誰でも見られる場所にドキュメントを整理し、周知を図りました。
コアバリューをもとにロゴを検討
Spirらしさが言語化できたところで、ロゴやWEBサイトへのビジュアルの落とし込みが始まりました。まずは最優先であるロゴのデザインから取り組み、試行錯誤を繰り返しました。
フォント選びについては、語源の普遍性からクラシカルな雰囲気が合っていると考え、サンセリフよりもセリフ体がSpirらしいとスムーズに決定しました。一方、タイプフェイスとセットで使用するモチーフの選定には苦労しました。日程調整サービスであるため、カレンダーや時計をモチーフにする案や、覚えやすくするために「S」をグラフィカルに表現するアイデアなど、ゼロから作り直す提案も多くありました。
色々と試してみましたが、意味を重視すればするほど、Spirの「息をする」という語源のオリジナリティから離れていくというジレンマに直面しました。
結果的に、旧ロゴの良さをアップデートする形で再検討することになりました。もともと手書き風の丸いシェイプや、繊細なグラデーションが特徴だった旧ロゴに、より明確な意味を持たせることで、Spirらしさを強調できると考えました。これにより、Spirの「息をする」という普遍的な活動のコンセプトを表現できるのではないかと考えました。
方向性が固まった後は、以下の制約も考慮しました。
新サービスの名前を追加しても展開しやすく、耐久性のあるデザインにすること
横長と正方形の両方に対応できるバリエーションを作成すること
最小サイズを考慮したデザインにすること
印刷してもくすまないカラー設定(RGBおよびCMYKを考慮)にすること
シェイプの微妙な違いやグラデーション、横積みや縦積みなどのバリエーションを検討し、最終的には社員全員からフィードバックをもらいました。みんなの反応も確認しながら、最終的な方向性を決定しました。
新しいロゴに込めた想い
試行錯誤の末に新しいロゴが完成しました。
性別や国籍などあらゆる背景を持つ人々に自然に使われる世界を目指したい
Spirの社名は「息をする」という意味です。誰もが生きていく上で欠かせない、当たり前の行為ですが、その重要性に気づくことは少ないかもしれません。今回のロゴリニューアルでは、「Spirのプロダクトが、性別や国籍などあらゆる背景を持つ人々に自然に使われる世界」を目指すという想いを込めました。
旧ロゴから受け継いだ丸のモチーフは、Spirの「i」のドットであり、同時に「息」や「魂(spirit)」、「アイデア」を象徴しています。この丸は、有機的でパキッと割り切らない形で、人の温かさを表現しています。まるで宙に浮かぶ息のように、軽やかで型にとらわれない自由さをイメージしています。
カラーについては、従来のブルーにホスピタリティを表すピンクを加えました。これは、Spirが単なる日程調整ツールにとどまらず、「人と人とのつながりを円滑にする存在」でありたいという願いを込めています。
このロゴは、私たちの企業理念である「創造性を解放する」無限の可能性を象徴しています。まるで息をするように、Spirのプロダクトが人々の生活に自然と溶け込み、より良いコミュニケーションを生み出すことを目指しています。
シンプルでありながら、少しだけパーフェクトじゃない可愛げのある丸には、ブランドコアバリューの「カジュアルシック」「シンプル」が内包されています。また、冷静さと柔らかさを感じさせるブルーとピンクのグラデーションは、ブランドコアバリューの「シームレス」に通じるものがあります。
Spirのミッションやビジョンと繋がるブランドコアバリューを内包したロゴは、長くブレることのないものにしていきたいと思います。
社員にも愛着を持ってもらいたい
今回のロゴリニューアルでは、お客様にはもちろんですがリリース前の段階で社員にも愛着を持ってもらうことも目標としていました。デザイン原則の共有から、ビジュアルの途中経過に対するフィードバックまで、すべての過程で社員に情報をオープンに共有することで、納得感や共感を得ることができました。
Spirは、ブランド認知を作り始めたばかりのスタートラインに立っています。リブランディングとしてはまだ対応しきれていない面もありますが、今後はプロダクトやマーケティング側のデザインにも展開し、実際の運用や反応を見ていく予定です。新しくなったSpirと新サービスを、どうぞよろしくお願いします。
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