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かつてゲーム開発者を目指した先生が天童アリスに泣かされた話
この記事にはスマホゲーム『ブルーアーカイブ -Blue Archive-』に登場する天童アリスの絆ストーリーの重大なネタバレが含まれています。
これはかつてゲーム開発者を目指し現在ゲーム会社で働いている私が文字通り天童アリスに泣かされた話です。
天童アリスについて
天童アリスは学園都市キヴォトスに存在する、ミレニアムサイエンススクール所属のゲーム開発部の部員です。
メインストーリーVol.2『時計じかけの花のパヴァーヌ編』で登場しました。
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廃墟で発見された彼女は出自も年齢も一切不明の少女でした。
出会って間もない頃は記憶もなく機械的な喋り方でしたが、彼女を見つけたゲーム開発部の生徒やプレイヤーの分身である先生と交流し、そしてゲーム漬けの日々の中で感情豊かに育ちます。
副作用として発言の殆どがレトロゲームのセリフで構成されるようになってしまいましたが……
アリスの冒険
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さて、アリスの絆ストーリーは彼女がさながらRPGに登場する勇者のように冒険に出ると宣言するところから始まります。
とはいえそれは冒険という名の散歩であって倒すべき魔王はいません。
世間知らずな彼女を心配しついて来た先生のことは歓迎してパーティに迎え入れるも、「戦闘には役に立たない」「武器も装備してない」「体力も1ぐらい」と悪気なくこき下ろします。
それでも彼女が自身の冒険の仲間に先生を加えたのは、ただテンションが上がるから。
パーティの仲間を幸せな気分にすることは誰にでもできることではない、だから先生は素晴らしいとアリスは語ります。
その後は街中で絡んできたチンピラを蹴散らしてドロップアイテムを漁ろうとした結果怒られたり、怪しい恋愛シミュレーションゲームの選択肢に本気で悩んだり、猫と仲良くなろうとしたり……
冒険というよりは日常と呼ぶのが相応しい、そんな日々を送ります。
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アリスの魔法
ある時アリスは一緒にゲームがしたいと先生をゲーム開発部の部室に呼びます。
「遅くなってごめんね、何のゲームをやっていたの?」
「レトロチックなRPGです。やはりRPGが一番楽しいです。他のゲームも楽しいですが、RPGはまるでアリスの心の故郷のような感じがします」
「剣と魔法、だね」
「はい、RPGには付き物ですね」
「現実には無いロマンがあるし」
「……そう思いますか?」
アリスが遊んでいたのは古典的なRPGでした。
先生はRPGには現実にないロマンがあっていいよね、とアリスに言いますがアリスの考えは違うようです。
アリスはキヴォトスに…魔法がないとは思えません。
魔法は存在しています。だって先生は今、アリスを幸せにしてくれましたから。
先生が自分を幸せにしてくれたから魔法は存在すると主張するアリス。
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ゲームが面白い理由はそこに、世界の美しさが込められているから。
これは、先生を通じてわかったことです。
アリスはゲームと現実を同一視しているわけではありません。
ただ、どちらも楽しかった、そう言っているように思いました。
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ゲームも、猫も、友達も…そして今この瞬間も。
この世界には美しいものがたくさんあります。
RPGで冒険している時も、現実で散歩したり猫と仲良くしようとした時も、その無垢な心で世界を感じ、両方の面白さを彼女なりに「世界の美しさ」と呼称したのだと理解しました。
魔法使いとしての私
さて、本題の私が泣かされた件について触れていきます。
大きく泣いたタイミングは上述のセリフの時でした。
面白いゲームを作ろうとした時、その面白さは虚空から生まれるものではありません。
有り体に言えば現実から着想を得ています。
例えば庭いじりの中からピクミンの存在を見つけたことのように。
現実を再解釈し何が面白いのかを見出す、それはまさに世界の美しさを込めると言い換えられるものです。
そしてできたゲームはプレイヤーを幸せにする魔法そのものとも言えます。
……私はここ最近自分の仕事に自信を持てなくなっていました。
面白いゲームを作りたい、これは多くの開発者が考えていることだと思います。
私も最初はそのように考えていました。
しかし働き続ける中、気付けば作っているはずのゲームのことを「携わっている」と言い換え始め、目の前のものをただの工業製品のように取り扱っていたのです。
私に魔法は唱えられなくなっていました。
このことはこの瞬間まで自覚していませんでした。
ただ漠然と上手くいかないことが苦しく、器用に生きる他人が妬ましく、何もできない自分の将来への不安を抱いていました。
ですがアリスは言ったのです。
「ゲームが面白い理由はそこに、世界の美しさが込められているから」
アリスにとってゲームは面白いものです。
かつての私も同じだったはずなのです。
私が失ったものを彼女は見つめていました。
それに気づいた瞬間、私の目からは堰が切れたように涙が流れました。
数年ぶりに声を上げて泣きました。
何故私はゲーム開発者を目指したのか?
何故ゲームを遊ぶ側では駄目だったのか?
何故自由に遊べる筈だった時間を犠牲にしたのか?
それは私が過去にたった一度だけ魔法を起こせたからでした。
魔法が起きた瞬間
当時高校生だった私は友人とTRPGをすることになりました。
動画サイトではリプレイ動画が流行っていて、それの影響でした。
ふんわりとTRPGについて説明しますと、テーブルの上で紙と鉛筆、乱数代わりのサイコロを使って遊ぶRPGです。
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遊んだのはクトゥルフ神話TRPG。
やはり動画の影響でした。
参加者は私と2人の友人です。
私はKP(キーパー)と呼ばれるゲーム進行を担当する役を担当しました。
三人は初心者です。
遊び方は動画で知っていますが実際にプレイするのはこれが初めてでした。
そして私は意気揚々と自作のシナリオを作り持っていったのです。
普通はルールブックに付属しているシナリオで遊んだり、あるいは他の誰かがテストプレイを経て完成させたシナリオをお借りして遊ぶものなのですが……
参加者全員初心者だからこそ起きたことかもしれません。
しかしズブの素人とはいえ何も考えずにシナリオを作ってはいけないと感じてはいました。
そのためプレイヤーが2人ならあまりスケールの大きいことをやっちゃいけないと思い、こじんまりとした、でもそこそこ病床のある広いか狭いか分からない病院にしました。
加えて友人の好きそうな美少女のNPCも追加しておきました。
そうして遊んだ結果、隠す予定だった神話生物の名前をうっかり口走ったりなど初心者特有のグダグダ感はあったものの無事にプレイを終えることができました。
こうすればよかった、ああすればよかったとプレイ後に感じていたのですが、友人からの一言が吹き飛ばしました。
「面白かった!」
これが私の初めて成功した、とても小さな魔法でした。
先生としての私
その後私は進路を選ぶ時、ゲーム開発者になることを決めました。
あの時成功した魔法が忘れられなかったからです。
そして私はゲーム業界に入り、現在ゲーム開発者として生きています。
一方アリスはゲーム開発部に所属こそしていますが、ゲームを作る側ではなくプレイする側の視点に立つキャラクターです。
私は最初、同じゲーム開発部の他の生徒の方に注目していました。
同じ道を辿った者として共感しやすかったからです。
しかし、私のゲーム開発者としての原点はアリスのように「面白かった!」と言ってくれたプレイヤーにあったのです。
それを理解した瞬間、己の不甲斐なさに泣きました。
面白いと思ってほしくてゲームを作った。
遊ぶ側ではできないことだから作る側に回った。
遊ぶ時間を犠牲にしたのは不器用な自分をゲーム開発者にしたかったから。
全部忘れていたことです。
大切なことを全部忘れてしまった私ですが、アリスは私に魔法は存在すると言いました。
先生はアリスを幸せにする魔法を使ったのだと。
もしかしたらまだ私にも魔法を唱える力が残っているかもしれません。
ゲーム開発者は面白いと思ってほしくてゲームを作っています。
世界の美しさを見つけて、それをゲームという魔法に変えています。
そして世界にはまだ魔法の呪文が眠っていて、それを掘り起こすために日々頑張っています。
現実は本当は面白いのです。
少なくともそう私は信じています。
私はもう一度魔法を唱えたい。
アリスのように純粋にゲームが好きな人のために。
アリスが魔法の存在を信じているのなら、先生としてそれを証明しなければいけません。
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この世界のことをもっと学びたいです!
私は不甲斐なく不器用で自分に自信のない駄目な大人です。
ですが魔法があったことを知っています。
世界には美しいものがあることを分かっています。
だからこれからの私は彼女の前では先生でありたいと決心しました。
絆ストーリーの最後にアリスはちょっとした疑問を投げかけます。
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どうしてダンジョンには宝箱があって、その宝箱の中にはアイテムがあるのでしょうか?
誰かが入れておいてくれたのでしょうか……?
どなたかは知りませんが、その人はとても優しい人ですね
アリスも、そんな人になりたいです
ここは一つ、先生としてアリスにヒントを上げましょう。
そのほうが面白くなるからだよ。
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