富山の桜は雪を吸って咲く

高校の頃、「催花雨」という言葉を知った。

春先に開花を促すように降る雨のことらしいが、私の住む三月の富山は、吐く息が白く漂い、時にはふくらはぎを冷やすほどに雪が積もり、立山連峰は青白く静かに冷えて、とても花が咲くに適した街とは言えなかった。

それに、富山の雨はしつこい。毎日しとしととまとわりつくように降り、息をすれば口に露が溜まる。木々はずっと寒中水泳をしているような心地だろうに、こんな中で咲け、と降られても嫌だろう、と思ったのをぼんやり覚えている。

だから、富山の桜は腹いせに、雨じゃなくて雪を吸って咲くのだと思う。路端の雪が日ごとに薄くなる中、冷たい雨に濡れながら桜は黙って立っている。そして、雪が全て溶けてしまうと、待っていたように一気に蕾をふくよかに育て、雪の代わりに白い花びらを新しく積もらせる。

そして雨は、花見の見物客を追い返すように毎日降り続いて、やっぱり憎たらしい雨だ、と思うのだった。

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