見出し画像

『天国、それともラスベガス』のバスターランチャー /eGPUボックス導入から夜間飛行へと至る道

『機動戦士ガンダム』の監督、富野由悠季氏の作品制作論のひとつに、「11、12歳まで好きだったものにこだわれ」という言葉があります。

思春期から大人になると世の中の流行とかスタイルに影響を受けてしまうけれど、11・12歳くらいまではそういったものに影響される前なので、その頃までに好きだったものはその人の本性とか指向性に合致している。それこそが個性の源泉であり、コピーにならないオリジナルの世界を作るときの基礎になりうる、という話です。

僕にとって11・12歳に好きだったもの。そのひとつが「バスターランチャー」でした。ロボットアニメのメカが持っていた、とってもとっても強い武器。憧れました。といっても「バスターランチャー」って何だよって方も多いですよね。順を追って説明しますね。

1. 主役メカが持つ必殺武器、バスターランチャー

僕より少し上の世代のSFアニメやロボットアニメだと、たとえば『マジンガーZ』(1972)のブレストファイヤーや『宇宙戦艦ヤマト』(1974)の波動砲、『勇者ライディーン』(1975)のゴッドバード・アタックのように、必殺攻撃の有り様は武器というより「能力」や「機能」に近いものでした。

でも、僕が子供の頃に出会った『機動戦士ガンダム』ぐらいから、敵も謎の宇宙人から人間同士になり、登場するロボットも量産兵器としてミリタリーに描かれるようになっていて、その流れの中でヒーローの必殺攻撃も「身体についてる能力」から「手に持つ武器」へと変化していきました。

そしてこのあたりは諸説あるかと思いますが、富野由悠季氏が監督し、後の『ファイブスター物語』の作者・永野護氏がキャラクターデザインとメカデザインを担当した『重戦機エルガイム』(1984年)を、僕は「必殺攻撃」がヒーロー本体を離れ、手持ちの「必殺武器」に変わったターニングポイントだと考えています。

本体からケーブルを伸ばして接続された(=いかにもメカ本体のエネルギーを注ぎ込んで必殺のパワーを得るかのような)ひときわ長くて大きい必殺武器。これをエルガイムでは「バスターランチャー」と呼んでいました。

実際にご覧いただきましょう。こちらが、アニメ『重戦機エルガイム』の後期主役メカ「エルガイムmkII」。このメカが両手で持っているいかにも強そうな長い武器が「バスターランチャー」です。鼠径部から伸びた3本の黒いケーブルがバスターランチャーにつながってるの、わかります?

画像1

この「バスターランチャー」は、エルガイムの後番組である『機動戦士Zガンダム』(1985)でも「ハイパー・メガランチャー」という名前で登場し、以降のロボットアニメの主役メカが携える必殺武器のひとつの「型」になっていきます。

そして必殺武器・バスターランチャーの強力さは、当時こどもだった僕を完全に魅了しました。

時は流れ、バスターランチャーへの憧れを魂のボトムエンドに刻み込まれた子供も大人になり、迎えた2020年。自宅デスクに置いたノートPC(ThinkPad T490)に、僕はバスターランチャー的な必殺デバイスを備えたくなりました。そういうものが世の中にあるって、気がついたのです。

2. 2020年のバスターランチャー、eGPUボックス

ThinkPad本体からケーブルを伸ばして接続する、ピーキーな性能を持つ必殺のデバイス。その名は「eGPU」です。

画像2

eGPUとは、すなわちexternal(=外部)のGPU(=グラフィックをプロセスするユニット)という意味です。デスクトップPC用の大きくて強力なグラフィックボードを、ノートPC本体内ではなく外にあるボックスに組み込み、それをノートPCとThunderbolt3ケーブルで接続して、普通のノートPCではありえない必殺のグラフィック性能を得てしまおうというデバイスです。

こうした製品は数年前からあったようです。きっかけは40Gbpsという高速なデータ通信ができるThunderbolt3端子が、MacbookやWindowsノートPCに搭載され始めたこと。デスクトップPCの内部回路に近い高速通信が外部機器と行えるようになったことで、デスクトップPC用グラフィックボードをノートPCにつなぎ、グラフィック性能を向上させられるようになったのです。

本体メカからケーブルでつなぐ、ピーキーな性能をもった外部デバイス。それはあまりにもバスターランチャーに似ています。なんというロマンでしょう。僕の中にある本性的な指向がビキビキに反応しました。

やるしかない。

ASUSやAkitio、Razorなど、グラフィックボードを収めるeGPUボックスを作っている会社は何社かありますが、僕はその中から、静音をセールスポイントにしていたSonnet Technologiesの「eGFX Breakaway Box 550」を選びました。ソネットと行ってもソニーやピンク色の熊とは関係なく、米カリフォルニア州アーバインで30年間こうしたPC周辺機器を作っている会社です。

3. 憧れのグラフィックボードの世界へ

eGPUのボックスを選んだので、次はこのボックスに収めるグラフィックボードを選びます。

ついに僕もグラフィックボードを買う日がやってきたんだ。感慨深い。

もともとグラフィックボードへの興味はありました。80年代には家庭用コンピューターの登場に立ち会い、90年代にはインターネットに出会って、パーソナルなコンピューティングの面白地点を歩いてきた僕にとって、21世紀に入ってからはスマートデバイスとグラフィックボードの進化がとても面白そうな世界に見えていました。

画像3

特にグラフィックボードは、ゲームなどでリアルタイムに描かれるCGの表現力を上げることはもちろん、機械学習(AI)の世界やビットコインのマイニングにも応用されるようになって、その進化のスピードは今でも加速の一途を辿っています。

なのですが、一方で僕はかなり急進的なノートPC派なので、デスクトップPCに組み込むことを前提としているグラフィックボードを実際に手にとることはなかったんですね。自作PCをやってる友人たちはいろいろ盛り上がっていたけれど、それを遠くから眺めているだけでした。

ところが今回、こうしてバスターランチャーのようなeGPUボックスを手に入れたので、ノートPC派の僕でもグラフィックボードの計算力を利用できるようになったのです。さあ、ちょっとそのグラフィックボードとやらを選ぼうじゃないか。

そしていざ調べ始めると、いやー…めっちゃ種類があるんですね、グラフィックボード。正直ちょっと途方に暮れました。

4. グラフィックボードを選ぶ

まずわかったことは、現在市販されているPC用のグラフィックボードには、大きく分けてNVIDIA系(GeForce)とAMD系(Radeon)がある、ということでした。

僕のThinkPad T490には、ノートPC内蔵用の小型GPUとしてNVIDIA MX250が搭載されているので、NVIDIA系で揃えることにしました。同じ機能で2つの会社のドライバーを混在させるとなんだかヤバそう、という野生の勘です。根拠はあまり無いです。

これで検討すべき候補は半分になったのですが、そのNVIDIA製のGPUを積んだグラフィックボードは、NVIDIA社だけでなく、台湾のASUSやGIGABYTE、msi、香港のZOTAC、日本の玄人志向(CFD販売)やELSAなどなど多数の会社が出しています。

そしてそもそも、GPUのチップ自体にも性能違いでいくつものモデルがあります。試しに、現行のNVIDIA製GPUを列挙すると…(以下のリストをざっと流し見してください)

・GeForce RTX 3090
・GeForce RTX 3080
・GeForce RTX 3070(10/29発売予定)
・GeForce RTX 2080 Ti
・GeForce RTX 2080 SUPER
・GeForce RTX 2080
・GeForce RTX 2070 SUPER
・GeForce RTX 2070
・GeForce RTX 2060 SUPER
・GeForce RTX 2060
・GeForce GTX 1660 Ti
・GeForce GTX 1660 SUPER
・GeForce GTX 1660
・GeForce GTX 1650
・GeForce GTX TITAN
・GeForce GTX 1080 Ti
・GeForce GTX 1080
・GeForce GTX 1070 Ti
・GeForce GTX 1070
・GeForce GTX 1060
・GeForce GTX 1050 Ti
・GeForce GTX 1050
・GeForce GTX 1030
・GeForce GTX 980 Ti
・GeForce GTX 980
・GeForce GTX 970
・GeForce GTX 960
・GeForce GTX 950
・GeForce GTX 750 Ti
・GeForce GTX 750
・GeForce GTX 740
・GeForce GTX 730
・GeForce GTX 720
・GeForce GTX 710
(*msi社の公式サイトのラインナップより抜粋)

…こんな感じですよ。毎年のようにモデルチェンジと性能向上をやってるので、性能違いでやたらモデルが多いんです。これには呆然としました。

さらに同じGPUを使っていても、グラフィックボードとしてパッケージする際に各メーカーごとの味付け(冷却ファンの機構や、搭載するメモリの量、オーバークロックという性能向上など)が施され、結果としてお値段も下は数千円から上は30万円近いところまでめちゃくちゃ幅があります。これは悩ましい。

もし宇宙からやってきた人が初めて地球に降り立ち、いっちょ地球でクルマでも買おうとしたら、こんな感じでメーカーやモデルの多さにクラクラするのかな…なんて考えつつ、予算と相談しながら考えに考え、最終的にミドルレンジの性能を持つGeForce GTX 1660Tiを搭載した、台湾msi社の「GeForce GTX 1660 Ti Gaming X 6G」を選びました。

注文からややあって、ついに手元にグラフィックボードが届きました。

画像4

箱を開け、グラフィックボードを取り出します。

画像5

画像6

どうですこのメカメカしさ。ある意味Apple的な美意識とは対極にあるような、CUDAコア1536基搭載のコンピューティングパワーの化身です。テイストも有り様も、ちょっとゾイドに似てるかも。商品写真を事前に見ていたのに、実際に箱から取り出して、このメカメカしく2つのファンが並んだ姿をみたら、思わず笑ってしまった。

こんなにもイカツい、いかにもゴリゴリにゲームしちゃうぞって感じの「Gaming X 6G」ですが、GPUの温度が60℃以下になるとファンの動きが止まる静音機能(Zero Frozr)を持っていたのが購入の決め手でした。ゲーム中ならともかく、ブラウザでネットをみたり音楽きいたりくらいの低負荷時にはファンが止まって無音になって欲しかったので、これはありがたい。

5. 組み込み、そしてさらなる静音カスタマイズ

画像7

こうして僕のデスクの上で、米カリフォルニア州アーバインから来たeGPUボックスと、台北から来たグラフィックボードが出会いました。早速ケースの蓋を開け、グラフィックボードを組み込みます。ここは特に難しいことはないです。スロットに差して、ケースとボードの間の電源ケーブルをつないで、あっさりと組み込み完了。

画像8

静音性を謳っているSonnet TechnologiesのBreakaway Boxですが、ここでさらなる静音化を図るために、写真の奥側にあるケースファンをオーストリアRASCOM社と台湾Kolink社が共同開発している静音追求ファン、NoctuaのNF-A12x25 ULNに換装しました。

モデル名末尾の「ULN」はUltra Low Noiseの略で、静かさMAXのモデルです。スペックシートによれば、その動作音は実に7.6デシベル。ささやき声より小さいらしい。

画像9

届いたNoctuaのパッケージから、すでに静けさのオーラが漂っています。自作PC用のパーツといえば、LEDが七色に光ったり、ドラゴンだレイザーだエイリアンだと強そう怖そうなド派手スタイルが多い中、Noctuaのファンには「可憐」「清楚」ともいえる気品がありますね。色もシック。

画像10

画像11

設計したRASCOM社があるのが「音楽の都」ウィーンっていう鉄板のバックストーリー。そしてブランド名のNoctuaはラテン語で「フクロウ」という意味で、ノクターンが夜想曲であるようにラテン語由来の接頭辞noct-は「夜」を意味します。フクロウをあしらったロゴマーク、すっきりとした製品サイトのデザイン、あらゆる要素が「絶対これ静音だわ」と信じさせます。

なんという説得力。Noctuaの静音ファンは自作PC派の友人達にもファンが多いのですが、僕も一発でファンになってしまいました。

仕上げに、「全ての回転体の下には防振処置を施す」という我が家の家訓に則り、eGPUボックスに家具用の静音防振ジェルを貼り付けました。

画像12

これで準備完了。あとはアメリカ・マサチューセッツ州にあるCable Matters社のThunderbolt3ケーブル(2m)をとりだし、ThinkPadからeGPUボックスへとつなぎます。

画像14

本体側。右手前に差込んでいるのがThunderbolt 3端子。

画像25

電源ON。青く光るSonnet TechnologiesのSの字マークが美しい。

画像13

…こうして僕のThinkPad T490に、バスターランチャーが装備されました。

画像15

(*写真はイメージです)

6. 解き放て、バスターランチャーの威力

さて、装備したバスターランチャーの威力はどれくらいでしょうか?

実は、事前にいろいろと調べていた時には「あまり効果無い」みたいなレビュー記事やYouTube動画もたくさんあったのです。

とはいえ、そもそもeGPUについて語られてる事例のほぼ9割がMacBookを使ったケースだったり、レビュー動画の日付が2年前だったりして、果たして自分の環境にあてはめていいのか判断できず、結局子供の頃からのバスターランチャーへの憧れだけを頼りにここまで揃えてしまいました。

効果が出てくれ、頼む!

3DグラフィックなどPCゲームに必要な性能を評価するベンチマークソフトの定番、フィンランドの首都ヘルシンキ郊外にあるUL Benchmarks社の「3D Mark」を起動し、その性能を測ります。

計測の結果がこちら。左がバスターランチャー装備前、右が装備後です。

画像16

バスターランチャー装備前に127点だったスコアが、4015点に伸びました。えっと、だいたい32倍ってことだよね? 32倍の性能向上? これって大成功では? やったー、いえーーーーーーーーーい!

早速、普段使っているグラフィック系のソフトを実際に立ち上げて、動作を確認していきます。

①写真のRAW現像ソフト「Capture One」の動作が速くなった。バスターランチャーの装備前だと、たとえば露出とか色温度といったパラメータをちょっと調整すると、プレビューが表示されるまでにクルクルクル…と待たされていたところが、クル、くらいで済むようになった。めちゃくちゃ嬉しい。

②「Photoshop」の動作も軽快になった。

③3Dモデリングソフト「Fusion 360」も軽くなった。3D空間でカメラをギュンギュン動かしてもちゃんとついてくる。3Dを扱うソフトにはかなり効いてる感じがする。

④動画編集ソフト「PowerDirector」の動画書き出しが劇的に早くなった。動画の実時間の何倍もかかっていた書き出し時間が、むしろ実時間より短くなった。すごい助かる。

⑤YouTubeで4K60fps動画を見ても動きが滑らかで、カクカクしなくなった。いままでネットの遅さがボトルネックになってるのかと思ってたけど、まさか描画性能だったとは。

…ということで、めっちゃ効果ありました。大満足です。

しかも将来、もっとパワフルでお値打ち価格のグラフィックボードがでてきたら、僕はeGPUボックス内のグラフィックボードだけ変えればその恩恵にあずかることができます。すなわち、ThinkPad本体の製品寿命を延ばせます。これも嬉しい。

画像17

動作音も静か。デスクの下に潜り込んでファンの真横に耳をもっていけばさすがに音がきこえるけれど、デスクの上でふつうに作業している間は全く気にならない。素晴らしいぞ、Sonnnet TechnologiesとNoctua!

7. いよいよ空へ

普段使いのCaptureOneやPhotoshopといったソフトの動作が快適になってくれるのがバスターランチャーの第一目的なら、第二の目的はゲームでした。今年の8月に発売されて、僕のPS4では遊べないけど絶対絶対やりたかったゲームがあったのです。

それは、「Microsoft Flight Simulator 2020」です。

例のウイルス以降、飛行機に乗って世界を旅することが不可能になっている中、こうして世界中の地図データを使った(Microsoft Bing Mapsのデータがベースになっています)、ざっくり言うと「飛べるgoogle earth」の意義は大きいです。天候も時間帯も自由自在にコントロールできて、でも8時間の航路を飛ぶには8時間のプレイ時間がかかる、ガチの実寸感も嬉しい。

そしてよくある話で、僕も子供の頃にはパイロットに憧れていました。子供の頃にあこがれたバスターランチャーの力で、子供の頃の夢だったパイロット気分を楽しめる。最高じゃないか。

ということで、バスターランチャーを携えたThinkPad T490でMicrosoft Storeにアクセスして購入。90GBを超える巨大なダウンロードのあと、早速ゲームを起動します。

羽田空港を出発地に選び、よく晴れた早朝の時間帯を設定…。

画像18

画像19

22番滑走路から、横浜方面に向かって離陸!

画像20

180度旋回して、東京の都心方面に向かいます!

画像21

画像23

画像24

いろんな意味で子供の頃の夢がかなった瞬間です。たーのしー!

8. 『Mixed Flight』、搭乗を開始します

Microsoft Flight Simulatorを手に入れたら、さらにやってみたいことがありました。それは、深夜から夜明けの東京上空を飛ぶ映像をバックに、大好きなハウスミュージックのDJミックス動画を作ること。あれですよ、音楽の定期便ですよ。ジェットストリーム2020、なんてね。

ということで、5年前からやってるハウスミュージックのイベント『秋葉原住宅』の名義で公開した、1時間のハウスミックス動画をご紹介します。題して、『Mixed Flight 2020』。どうぞお楽しみください。

さすがにFlight Simulatorを動かしながら録画も回すと、処理が重すぎるのか、動きがカクカクしちゃってますね。もっとパワフルなグラフィックボードがズンズン欲しくなる…。なんという沼。

とまれ、今回装備したバスターランチャーの力で、自宅デスクから世界中の空へとつなげることができました。

世界を感じ、世界とつながることをテーマにしている僕のデスク「天国、それともラスベガス」からお送りする『Mixed Flight』。秋の夜長にお酒なんか楽しみながら、ゆっくりと夜間飛行におつきあいいただければ幸いです。

いやー、これが、こういうことが、やりたかったんですよ!!!

良かったら、100円サポートおねがいします!