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星の道を旅するあなたへ

アラスカに20年近く暮らしていた、星野道夫さんの著作です。
清らかな湧き水のようにシンプルな文章は、私をはるか雪原に、深い森の中へ、いともたやすく連れて行ってくれます。
これほどまでに、読むたびに自分の世界がジンワリと広がっていく感覚をあじわえる一冊も珍しいと思っています。

この本に描かれる空間と時間は、とてつもなく大きいけれど、ひるがえって、私たち人間を含めた動物たちの小ささはどうでしょう。

小ささと大きさ。
狭さと広さ。
「旅をする木」は、一見相反するこのスケール感を、作者の体験を通すことで、見事に調和させ、描き出しています。
めまいがするほどに、広大な森と氷河。
手のひらでそっと包みたいトウヒの種。
私の日常では体験できないことばかり。

好きな本の多くは、いつのまにか自分自身とリンクしていくことがありますが、今回は、子どものころ住んでいた、北海道の冬の景色とつながりました。
茜色に染まる暁の空の下で、雪かきにあけくれた早朝の凍てつきは冷たいというよりも痛かった。
マイナス20度にもなる冬の国道の地吹雪はこの世の果てからの叫びのように聞こえた。
むろん、アラスカとは比ぶべくもありませんが、そんな昔のことどもを「旅する木」はありありと思い出させてくれます。

星野さんも、昔の日記帳を見つけた場面で、こう書いておられます。
「ふと1ページめを開いてみると、遠い昔の自分に出会ったように懐かしさがこみあげてきました」
ええ、本当に。
「旅する木」を読み終えたいま、私は、3年前に亡くなった父のことを懐かしんでいます。生前の父と、きっかけは忘れたけど、「死」について会話した記憶がよみがえりました。

父は言っていました。
「お父さんは、生まれる前に、みんなで一列になって野原を降りてきて、そうして生まれてきたんだ」「だから、死ぬのは怖くないよ」と。
スピリチュアル要素0%に思えた父の前世の記憶めいた話にも驚いたけれど・・・そうか。死ぬのは怖くないのか。
子ども心に、父はなんと勇敢なのかと感心しました。

星野さん。
あなたも相当に勇敢な方に、私には見えます。
そしてとても、優しい方だと感じます。
じゃないと、アラスカに移住するなんて考えもつかないでしょうし、はからずも星の彼方へ一人去られるような状況も生まれないように思うのです。

多くの人々の「生きる」を勇気づけ包み込んでくれる「旅する木」。
この世の誰もが、一本の木。
一人ひとりがツリー・オブ・ライフとして、自分の道を旅し続けています。

私の旅路はどうだろう。
いままでひとつのところでずっと生えてきた私。
でも、近々、あたらしい旅立ちが決まりました。

ちょっぴり怖れがあるのは間違いありません。
でもね。「旅する木」のように、自然にまかせて。
その時その時の気持ちを大切にして。
私も進んでいくとおもう。

自分の人生を重ね合わせることのできる、旅する本です。

#読書の秋2022 #旅する木 #星野道夫


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