切り札は遅延だけ
俺の手札には獣が描かれたカードが三枚、それから幾何学模様が描かれたカードが二枚ある。獣のカードには下の方に様々な数字と模様、そして矢印が書かれている。幾何学模様は魔法のカードらしい、任意のタイミングで出すことで効果欄に書かれた効果を発揮することが出来るようだ。
俺は手札を確認して、軽く笑った。
「随分余裕みたいだな、エンペラー」
対戦相手は仰々しく俺をそう呼んでみせた。
エンペラー、最強のプレイヤーに与えられる称号らしい。
「……余裕じゃなかったとしても、同じ顔をしてみせるさ」
実際、俺はどんな手札が来たとしても笑っていただろう。
どんなカードを引いても関係ない、俺はこのゲームのルールが全くわからなかった。
「言っておくがエンペラー、これは神に捧げられた魂のゲーム、敗北すればプレイヤーの命もまた失われることになる……それはわかっているんだろうな」
睨むように対戦相手がそう言った。
なるほど、全然わかっていなかったが……そうか、天井にある無数の棘って、あれ飾りじゃないんだ。
「わかっていないから、帰りたい……そう言ったら?」
「今更言わせるな、離席は降参と同じ……死だ」
「ふっ、わかっているさ。だが、ちょっとトイレに行きたいとか、スマホをいじりたいから席を離れたいって言ったら……?」
「死ぬ」
何がどうして俺はこのテーブルに着くことになったのか。死にたかったのだろうか。これまでの記憶が曖昧だ、せめてルールだけでも覚えていればよかったのに。
「それでは、エンペラー、先行を決めようか」
対戦相手が金貨を取り出す。
「待て、折角の戦いだ、コイントスなんかで先行と後攻を決めたんじゃ面白くないだろう?」
「ほう?」
とにかく時間を稼がなければ、記憶がうっすらでも戻るまで。
「麻雀で先行を決めよう」
「神はカード以外の戦いを認めない」
「フフ……そこをなんとかと言ったら?」
「駄目だ」
駄目らしい。
【続く】