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蟻酸 第13話
チャドクガの幼虫のケムシであるボウ坊を迎え入れ、一行はゲンジアリの追跡を再開した。
「おいあんまり近くを歩くな。棘が刺さるだろ」
「ごめんよトクジさん。気を付けるね」
「急に先輩風を吹かす様になりやがったな。こいつにも俺にも「さん」なんて付けずに名前で呼んで良いからな」
「そうかい?わかったよシロ」
「む…やっぱり俺には「さん」を付けて呼んでくれ」
「大人げないやつだな。俺は「さん」なしで呼んでも良いよ」
「ええっと。それじゃあ、シロさんとトクジで良いんだね?」
「ちょっとタンマ。シロだけ「さん」付けするのは気に食わない。やっぱり俺にも「さん」を付けてくれ」
散々に、敬称を付ける付けないで揉めた末に、現在ケムシという幼虫であるところのボウ坊は、成虫であるシロやトクジに対して敬称を付けて呼ぶのが社会の礼儀である、という結論に達した。これに対してボウ坊は、素直に意見を受け入れるのと同時に、一つの可能性に思い至った。
「それじゃあ僕が成虫になったら「さん」を付けずに呼ぶことにするよ」
「もっもちろんだとも」
「君の好きに呼ぶと良いよ」
「早く成虫になりたいなあ。ところで僕の身体は忍術だって言っていたけど」
「そうそうそれね。その毒針は忍術と言って良いだろう。ちなみに毒針を飛ばしたりする事もできるの?」
「うん。体をゆすぶって辺りにまき散らす事もできるよ」
「ふむ。見事なもんだな」
「そうだ!忍術名を付けねば」
トクジは熟考の末に、忍法「ねこじゃらしの巻」と忍法「フワッと御陀仏」と提案したが、「企画の意図に合っていない」「メルヘン調過ぎる」等の理由でシロに却下された。結局、傍らで2匹のやり取りを黙って聞いていたボウ坊が、忍法「剣山装束」と忍法「五月雨毒針毛」を提案したことで、命名の儀は決着を迎えたのであった。
「2つも忍法を操るなんて。すごいことだよ」
「自信を持っていいことだよ」
「うん。ありがとう。なんだか自信が湧いてくるね」
そうこうしていると。ズシーンズシーンと、何やら大きな足音が聞こえてきた。3匹は近くの葉っぱの後ろに身を隠し、息を殺して様子をうかがった。すると姿を現したのは、巨大なカマキリで、どうやら獲物を求めて徘徊しているようだ。
「おほほほほほ。私の視覚にはサーモグラフィック機能が搭載されている可能性が微粒子レベルで存在していると、一部メディアに報道されているのよ。それで隠れているつもりかしら?」
3匹に近づいて行くカマキリである。大きな鎌で葉っぱを掴むと
「ほらここ!」
葉っぱをめくられ、カマキリに見つかってしまい、焦る忍者達である。カマキリはなおも3匹を脅す様に続けた。
「蟻なんて食べてもおなかの足しにならないし。こっちの毛玉はいかにも毒がありますって感じで美味しくなさそう。あら?あなたは?ゾウムシちゃんかしら?」
戦慄が走るトクジである。
「怖がらないで。こう考えるといいわよ。自分はマックで言ったらナゲットみたいな存在だよって。決して主役のハンバーガーには勝てない儚いサイドメニューだよって。んね?気が楽になったでしょ?それじゃいいこと?暴れたりしないでね?可愛い私のナゲットちゃん」
そう言うと、カマキリはトクジ目掛けて、鎌を振り下ろしてきたのだった。
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