6: 躊躇いの章

窓の外が白んできたのを感じて。しまった。夜通し導きに興じてしまった。午後には家族が帰ってくるだろう。部屋は散らかっている流しからは変な臭いが漂ってくる洗濯なんかもちろんしてないし、ゴールデンハムスターに餌をやるのも忘れている。いや待てよ、家にハムスターなんておらん。馬鹿にするのもいい加減にしろ。と自分は結構焦っている?なんでだろ?そうそう家事ね。一旦冷静になって。

「まずは部屋をちゃちゃっとかたして」

なんて後の作業効率及び作業工数を考慮すれば、ここは一も二もなく先ずは洗濯機を稼働させる。稼働中に流しを磨く、磨き終わったら部屋を換気しつつ掃除を行う。そうこうしていると洗濯機がビービーと鳴って洗濯物を干して完了という流れが最善であって。そうやらないのは自分と自分の置かれた現状を客観視できておらずに焦っている証拠で。どうなるかというと洗濯機を睨み付け早く終わってくれと神に祈る事態が発生するのである。

へとへとになって時計を見ると短いやつが12を指している。俺は時計の短いやつが大嫌いだ。でもまあ何とか格好はついただろうと安堵の中で眠りに落ちていった。

頬をバシバシ打たれて目を開けると子供達が自分の顔に纏わりついてきて

「パパ起きてよー」

「オッキテヨー」

「うん。わかった起きるから。ほら起きたから」

時計を見ると短いやつはまだ12を指したままで。台所に立った妻が無表情で

「なんで洗濯物取り込んでないの?」

「いや、さっき干したばっかなんだよ」

「どうせ一人で遊んでいたからでしょう」

俺はこれでも気を使っている、あのムカつくババアにも。子供達とのふざけ合いを優先して妻の言葉を聞き流す。


導きとは本来そういった人々の心の迷いを正しい方向に向かわせる助力であるべきだ


「御母さんとこれからまたお昼食べて来るから。どうせ来たくないでしょ?家のことやっておいてよ?」

自分はまた数時間の内は一人きりになれることを嬉しく思い、この時はその感情に一切の恥じらいも後ろめたさも感じなかった。

「パパはお留守番?」

「うん。パパは行けないから行っておいで」

長男のつまらなそうな表情。玄関のドアが閉まり一人きりになって感情が溢れた。

嬉しいし悲しいし楽しいけどとても寂しい。導きを続けるしか選択肢がないことが情けなかった。

あの自分を煩わせた竜はとっくに滅ぼした、もっと高価な剣を購入して。最後に竜は「もっと長くただ生きていたかったなあ、それが幸せと思っていたのになあ」という目をして死んでいった。

目を閉じても涙が止められなかった。



#小説 #書いてみた





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