5:業火の章

ババアと自分の関係が悪くなるに連れて週末に留守番をする回数も増えていった。それならそれでこちらにもやらなければいけない事は沢山あるし好都合、ここを先途と人々を導く。

この頃、導きは順調で行く先々で困り事や災難を次々と解消してきた。装いも当初の情けない木こり帽なんかじゃなく、金属製の目出し帽を被り、胸回りは金属製プレートで補強、それだけでも守りは十分そうなのに、念には念を厚い金属製の大盾を持って守りは完璧。更に攻撃面でも剣を新調し、より剣としての性能を高めた高価なものに変更していた。負ける要素が見当たらない。

そんな中、訪れた先は城下町で北側の丘に城が建っている。人々の話ぶりから察するに君主政の王国であると考えられ、目下の課題として戦いの経験豊富な逸材の人材発掘に力を入れているらしかった。そこに需要と供給を見出した自分はいっちょやってみっかの精神でお城に向かった。屈強な番兵に「会いたいで会えるほどウチの王は安くはない舐めるな」と追い返された。更に情報収集を進めると、なんでも西の洞窟に生息している竜を討伐した暁に王と謁見の許可が下りる事が判明した。これと云った悪事を働いていない竜を惨殺する事に違和感を感じた。本来導きとはそういった人々の心の迷いを正しい方向に持っていく事ではないのだろうか。今は深く考えるのは止しておこう。

西の洞窟に向かい奥へと進んで行く。果たしてその最深部に竜はいた。

「人間の分際でこの偉大なる私に何の用がある。即刻立ち去れ塵芥め!」

人語を解する竜の様だ。でもでも今の偉そうな物言いは何でしょうね、この偉い導き手として選ばれたオレに。そんな態度が人々に反感を与えてしまう原因だよ。さっきまでの心の迷いを捨て去って自分は絶叫した

「こいつゼッテー導く!」

どうせこんなトカゲのこと力技でガンガン攻めてくるだけだろうと高を括って挑んだ処。この馬鹿竜がなんとも猪口才な感じで、一度こちらを眠らす。眠ったところを口から火炎放射を放ってくる、と全く油断ならない。立っているのがやっとの状態で傷薬を身体に塗り塗り戦っていたが敵も容赦がない。再度眠りに落ちた自分にとどめとばかりに火炎を放ってきて、自分は業火の中に倒れ込んだ。

「俺は負けた」



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