7:伝承の章
妻からもババアと同様の敵意みたいなものを感じるようになってきた。この所仕事で帰宅が遅くなることが増えてきて、家に着くと家族は就寝支度中、或いは既に就寝後と家族と会話する時間が減ってきている。自分が家族の会話に参加できるのは、朝の支度時間と帰宅後の僅かな時間、稀にババアとつるんで出かけない週末、と非常に少なく疎外感を抱くようになっていった。それならばババアに対する感情を押し殺して積極的に家族といる時間を優先すればよいのだけれど、自分はそこまで大人でもなければ素直でもないと自覚している。父親ともっと多く時間を共有することを望んでいる息子達に申し訳なさを感じつつも自分にはもうどうしようもないと諦めた。であれば家族が揃った週末位はと、外出や食事を提案するのだけど妻がなかなか肯定的でなく、仕方なしに電動自転車に息子達を括り付けて近所の河原や公園に3人だけで出向いて行く。出がけにも一悶着あって、その時の自分の服装なのだけど。所謂オールドスクールと言われている時代の米国人ラッパーがデカデカとプリントされたパーカーに、スウェット地のぴちぴちしたパンツ、有名バスケットボール選手のシグネチャーモデルのバスケットシューズを履いて、反権力的な文言が書かれたキャップを被って出かけようとした自分に妻が
「そんなチンピラみたいなかっこで行くの?みっともないから替えたら?」
休日に自分好みの恰好をしていて何がいけないことがあるのか理解に苦しむ。好みを批判された事に腹を立てた自分は
「何着ようが俺の勝手じゃん。そんなオバハンみたいなセーター着ている奴に言われたくない」
子供に妻との小競り合いを見せてしまったことに若干の罪悪感を感じながら妻を残し家を後にしたのであった。子供たちは贔屓のライオンのワッペンが付いたお揃いのジャンパーを着用して自転車に揺られてはしゃいでいた。
これに至って何がババアをあれ程まで自分に対して嫌悪感や敵対心を露わにさせているのか、今ではその感情が伝染してしまっている妻の不満が顕在化されてきた事に自分は気付いた。それはつまり俺の服装が気に入らないとそういう事なんだろ。くだらない。
その夜、妻と子供達が寝静まってから導きを再開していると。二階の寝室から誰かが降りてくる音が聞こえてきて。やだなと思っていると。上の息子がリビングの扉を開けて入ってきた。
「あれ?どうしたの?」
「おきちゃった」
「起きちゃったのかあ。明日保育園でしょ?」
「パパなにやってんの?」
こちらに来るように言うと。息子は自分の横にちょこんと腰を下ろして食い入るように導きを見学し始めた。
「どれがパパ?」
「あれだよ今真ん中で歩いてるのがパパ」
「かっこいいね」
「うん。そうでしょありがとう」
そうして善と悪とは何かを極力息子にも分かりやすいように説明すると。必死に言葉を理解しようと真剣に聞き入る息子の姿が愛おしくて抱きしめた。
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