蟻酸_トクジ2

蟻酸 第8話

ゲンジアリの行進。後にも先にも、一切の生命が残らない、「死の行進」である。この行進に巻き込まれた者は、その場で食料にされた。それだけならば、厳しい自然界の中で必然の事象であり、そこに善悪はない。しかし、ゲンジアリを悪と言わしめるに足る、昆虫界の語り種があった。ある有名インタビュワーのテントウムシが、ゲンジアリに突撃取材を試みる話で。

最初ゲンジアリ達は親し気な感じで、噂に聞く極悪なイメージとかけ離れていたという。テントウムシはそれでも用心の為に、土産と称して、数匹のウジムシをゲンジアリサイドに食糧として斡旋し、命の保証を図っていた。悪党である。取材は進み、いよいよみんなが一番気になっている事、即ち「食料調達目的以外に、不要な殺生を行っているという噂は真実であるのか。真実である場合、何故そのような行いをしているのか。」という質問を、街頭インタビュー形式で、たむろするゲンジアリに次々と投げ掛けるくだりに入った。以下ゲンジアリ達の回答である。

「殺し?やってるよー。え?なんで?わかんない。みんなやってるから?みたいな。好きだし」

「もちろん!だって楽しいもん。逆になんで殺さないの?」

「呼吸をするのと同義だから。あるいは生活に必要な行為だから」

「ウウェーイ!今日なんか8匹も!」

「その瞬間、自分の存在を確認できるから」

「マジキモイんだけど。当たり前の事ばっか聞かないでくれる?ぶっ殺すよ」

あまりの凶悪性に、体の震えを抑えられないテントウムシは、そろそろ潮時と、退散する支度を進めて

「本日はお時間いただきありがとうございました。貴重なお話やご意見をお聞かせ頂いて大変感謝致します。それではそろそろ失礼を…」

「え?もう帰んの?まだいいじゃん。来たばっかじゃん」

周りのゲンジアリがクスクス笑いや、ふくみ笑いを浮かべてる。テントウムシは気味が悪くて仕方がない。

「いえいえいえいえいえ、もうほんと、これ以上はかえってお邪魔になりますので」

「ウチらは全然へーきだけど」

「はい。そうしたいのはやまやまですが。はい。私のこの後のスケジュールの関係もありまして、はい。ご迷惑にならないように…」

「迷惑?迷惑つった?」

「いえいえいえとんでもないです。誤解です!」

「あのさウチらも暇じゃないんだけど。忙しい中でアンタの為に時間を割いてんだよ?わかってる?……おめえの都合なんて知らねえんだよ!!!」

「ひい」

沈黙が訪れた。テントウムシの背後から忍び寄る一匹のゲンジアリ。最早これまでか。

「テッテレー!激切れドッキリ大成功!」

大爆笑が巻き起こるゲンジアリの群れ。安堵して崩れ落ちるテントウムシ。

「いやーこんなにユーモアのある方々とは存じ上げなかったです。楽しかった。それでは本当に失礼します」

「はい?これはウチらに向けてのお笑いで、アンタにとっては真実だよ?……ぶち殺す」

「は?ちょっと?!約束が違う!俺は殺さないって言ったじゃないか!」

更なる大爆笑の中、テントウムシは殺されていった。これが今ゲンジアリに大人気の必殺殺法「ドッキリ大殺法」であった。

以上がゲンジアリの所業、世間に悪と言われる所以であった。惨いことをするものである。


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