3:流浪の章

そういえば起床してから何も物を食べていない事に気付いた。家族を見送った今、自分一人なら栄養管理などに気を遣ったりせずに適当に済ませてしまおう。コンビニに行って「豚味噌らーめん」とかいう即席麺と「チキンボール」なる鶏挽肉を丸めて揚げたやつを購入する。家族の居ないところで一人で食べる即席麺はどうしてこんなにも美味いのだろう。5分程でこれらを喰らい導きに戻る。世界を導かなければ。

次に立ち寄った先で住民に話を聞いてみると。どうやら住民のライフラインに必須の井戸が枯渇していて日常生活がままならないと口を揃えて訴えてくる。酷いと井戸の下まで降りて行って様子を見てこいと言い出す者も現れて。様子も何も井戸は枯渇したのだ、違うところを掘って新しく井戸を拵えたら良いではないかと言う自分の意見を聞き入れる者もいなく。渋々ながらひゅるひゅる井戸の下まで降りていった。

足元は泥濘んでいて、これもうちょっと下に掘り進めれば水湧くんじゃねえかと伝えに戻ろうと思ったがどうせ誰も聞く耳持たないに決まっている。目を凝らして周囲を確認しているとどうやら井戸の底は自分が考えていた以上に広く、奥に行くにしたがって僅かながら水かさが増してくる。気配を感じて前を見ると、人か獣か判断に困る生き物がブツブツ何事かを喋っていた。要約すると此処は地底湖で讃えられた水は中央部の湧き水のヘソから永遠に湧いていてそのヘソに蓋をする事によって住民の生活用水を断絶させて困らせようという意味内容だった。

自分はそんな事をするのは良くない事すぐにやめた方がいい事、何故ならみんな水がなくって困っているからと生物に伝えると

「うるさい!誰だ貴様!八つ裂きにする!」

と井戸の底でも取り合って貰えずいきなり自分に襲いかかってきた。

死闘だった。すんでのところで木こり帽を着用していたことも幸いし勝利する事ができた。ヘソの蓋を外して地上に戻った。

妻からの着信で今日は遅くなりそうだからこのまま実家に泊まって明日帰宅すると連絡がきた。自分は子供達に会えない事を少し寂しく感じながら其の実嬉しさを感じている自分を少しだけ恥じて目を閉じて祈った。



#小説 #書いてみた

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