〔民法コラム11〕悪意の転得者

 夫婦の「日常の家事」の範囲内であると信じるにつき正当な理由があるとして110条の趣旨の類推適用を受ける者から、上記の点につき正当な理由のない者が権利を譲り受けた場合において、その者(悪意の転得者)は権利を取得できるか。110条の趣旨が取引の安全にあることからすれば、悪意の転得者を保護する必要はないとして、権利の取得を否定すべきとも思えることから問題となる。
 この点について、110条の趣旨の類推適用を相対的に考えれば、転得者自身に正当な理由がない限り、転得者は権利を取得できないと考えることもできそうである。
 しかし、一般に、無権代理行為の相手方からの転得者は、110条の「第三者」に当たらないとされている(最判昭36.12.12)。そのため、110条の適用については、相対的構成はあり得ないと解されている。
 そして、一般に、110条により保護される相手方からの悪意の転得者は、相手方が取得した権利を承継取得できるとされている。
 以上のことから、悪意の転得者は、110条の趣旨の類推適用を受ける前主から、権利を承継取得できると考えられる。

〈論点1〉無権代理行為の相手方からの転得者は、110条の「第三者」に当たるか。
A説(最判昭36.12.12)
 結論:「第三者」は無権代理行為の直接の相手方に限られ、転得者を含まない。
 理由:有効な代理権が存在する旨を信頼するのは、代理人と直接取引をする相手方に限られる。

〈論点2〉110条により保護される相手方からの悪意の転得者は、相手方が取得した権利を承継取得できるかが問題となる。
A説(通説)

 結論:110条により保護される相手方からの悪意の転得者は、相手方が取得した権利を承継取得できる。
 理由:①相手方は110条により確定的に権利を取得するから、転得者は主観を問わず相手方が取得した権利を承継取得可能とするのが論理的である。
    ②法律関係の早期安定と簡明さの観点からは、転得者の主観を問わないほうが望ましい。

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