〔民法コラム23〕工作物責任


1 総論

 工作物責任(717条1項)とは、土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があり、これにより他人に損害が生じた場合に、工作物の占有者又は所有者が負う損害賠償責任をいう。
 この責任は、占有者・所有者の故意・過失が加害の事実そのものにつき存在することを要件としていない。しかし、占有者には防止措置において過失のあることを要件としている。そして、その過失の立証責任を転換していることから、中間責任であるといえる。また、所有者には何ら免責事由を認めていないことから、完全な無過失責任である。
 占有者・所有者に、瑕疵の作出の有無に関係なく責任を負わせる根拠は、他人に損害を生ぜしめるかもしれない危険性をもった瑕疵ある工作物を支配している以上は、その危険につき責任があるとする危険責任に求められる(通説)。

2 要件

 ①土地の工作物であること
  かつて、大審院は、土地の工作物とは、「土地二接着シテ人工的作業ヲ為シタル二依リテ成立セル物」をいうと解し(大判昭3.6.7)、土地に接着していないことを理由に、工場内の機械を「土地の工作物」に当たらないとした。しかし、今日では「土地の接着性」を緩和し、土地の工作物であるか否かは「土地の工作物としての機能を有しているか否か」によるものとされている。717条の工作物概念を土地に接着しているか否かで区別することは、工場内での機械のもつ危険性を無視するもので妥当でないからである。特に工場内の大きな機械は、実際には工場の建物と一体をなしており、かかる工場の建物を基礎とした企業設備の全てを全体として土地の工作物と解すべきであるとする裁判例が少なくない。
  また、工作物は、一個の物に限らず、一定の目的のための付属設備の全体を一つの工作物として捉えるに至っている。例えば、判例は、踏切道は本来列車の運行の確保と道路交通の安全とを調整するために存するものであり、必要な保安のための施設が設けられて初めて踏切道としての機能を果たすことができるものであるから、土地の工作物たる踏切道の軌道施設は、保安設備と一体としてこれを考察すべきものとして、717条の適用を認めている。
 ②土地の工作物の設置・保存の瑕疵によること
  土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることにより損害が生じたことが必要である。
  「瑕疵」とは、工作物がその種類に応じて通常備えているべき安全性・設備を欠いていることである。最近の判例では、危険な工作物に対して、損害発生を防止し得る設備を有しないことを瑕疵ありとしているものが多い。
  この瑕疵は、工作物の築造から存在するときは「設置」に瑕疵(原始的瑕疵)があるものであり、その後に生じたものであるときは「保存」に瑕疵(後発的瑕疵)があるものである。
  瑕疵は、客観的に判断すべきもので、瑕疵が生じるに至った理由が占有者・所有者の故意・過失によることは必要でない。これに対して、近時、瑕疵を義務違反と捉え、瑕疵による責任の有無を決するのは損害発生の回避可能性にあり、行為者の負う安全確保義務から具体的な防止義務を帰結し、これを前提として必要かつ適切な防止措置の不実施を義務違反とみて瑕疵を捉える考え方が有力に主張されている。
 ③工作物の瑕疵により損害が生じたこと
  工作物に瑕疵がある以上は、これに自然力又は第三者・被害者の行為が競合して損害を生じさせた場合でも、全くの不可抗力による場合でない限り、事実的因果関係は肯定される。
 ④占有者に免責事由の立証のないこと

3 賠償義務者

⑴ 占有者

 第一時的な賠償義務者は「占有者」である。「占有者」には、直接占有者だけでなく間接占有者も含まれる(判例)。
 717条1項にはただし書があり、占有者の免責が認められている。つまり、占有者の責任は、立証責任の転換された過失責任(中間責任)である。

⑵ 所有者

 所有者は、占有者が免責事由を立証した場合に限り二次的な責任を負う。
 この点、日が者が所有者の責任を追及するために、占有者に免責事由が存することの立証責任を被害者に負担させることは酷であるから、所有者の側に占有者の免責事由が存しないことの立証責任を負担させるべきである。
 なお、占有者から所有者に対して工作物責任を追及する場合には、自らの免責事由を立証することが必要となる。

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