〔憲法コラム16〕法律と条例の関係


1 条例

 条例:地方公共団体がその自治権に基づいて制定する自主法
 ・形式的意味:議会が自治事務及び法定受託事務について定める法規
 ・実質的意味:形式的意味の条例に加えて、長の制定する規則や各種委員会の制定する規則をも含む。

2 条例制定権の根拠

〈論点1〉条例制定権の根拠をどのように解すべきか。
 A説

  結論:憲法の保障する自治権の一つとしての条例制定権の根拠は、既に92条に含まれており、94条はこれを受けて条例制定権を保障している。
 B説
  結論:条例制定権の根拠じゃ、94条である。
  理由:日本国憲法の下では、国会が唯一の立法機関であるから(41条)、地方公共団体が条例を制定するためには、特にその例外を認める規定が必要であり、94条が創設的に条例制定権を付与するものである。
 C説
  結論:条例制定権の根拠としては、92条と94条が並列的に挙げられる。
  理由:92条の「地方自治の本旨」が国の立法権を制約し、94条が41条の例外を具体的に規定している。
 D説
  結論:条例は委任立法であり、地方自治法14条1項が条例制定権の一般的授権条項である。
  理由:(地方自治は国が承認する限りで認められるものとする伝来説の立場から)条例制定権も当然に国家権力に由来するものであり、条例の基礎は法律にあるから、条例を法律に基づく委任立法の一種と解すべきである。
  批判:憲法自身による自治立法権保障の意味、憲法原理の転換に伴う地方公共団体や条例の地位の変化等の認識に問題がある。

[重要判例]最大判昭37.5.30百選Ⅱ(第6版)[215]
 「地方公共団体の制定する条例は、憲法が特に民主主義政治組織の欠くべからざる構成として保障する地方自治の本旨に基づき(同92条)、直接憲法94条により法律の範囲内において制定する権能を認められた自治立法に外ならない」として、上記論点1のB説ないしC説の立場に立っている。

3 範囲と限界

 地方公共団体は、①自治事務・法定受託事務に関するものにつき、②「法律の範囲内」(94条)において、条例を制定できる。

⑴ ①自治事務・法定受託事務に関するものであること
  自治事務・法定受託事務に関するものであれば、住民の基本的人権に制約を課すことも許される。

⑵ ②「法律の範囲内」であること(94条)

〈論点2〉国の法令で定める規制基準よりも厳しい基準を定める「上乗せ条例」や、法令の規制対象以外の事項につき規制を行う「横出し条例」は、「法律の範囲内」(94条)といえるか。
 A説(法律先占説)

  結論:国の法令が明示又は黙示に先占している事項については、法律の明示的な委任がない限り条例を制定し得ない。
  理由:「上乗せ条例」等の可否は、地域社会における具体的必要性と規制の合理性、利益の比較衡量と比例原則、技術進歩の程度、国の法律に定める罰則との関係等を総合的に考慮して個別具体的に判定すべきであって、全く無条件・無限界に許容されると単純に解すべきではない。また、国法体系全体の統一性、地方議会の立法能力、条例の実効性等も考慮に入れなければならないから、条例が国法より厳しければ厳しいほどよいという考え方には賛同できない。
  批判:この見解が、国は法律をもってしさえすれば任意に地方の事務を国の事務に吸い上げることができるという発想に立脚しているのは疑問である。
  A'説(成田)
   結論:法律先占説の立場に基本的に立ちつつも、先占領域の範囲は法令が条例による規制を認めていないことが明らかな場合に限る。
 B説(多数説)
  結論:92条の「地方自治の本旨」と人権保障の趣旨から94条の「法律の範囲内」を再解釈して、一定の事項については「上乗せ条例」や「横出し条例」の合憲性を認める。
  B①説(原田)
   結論:「固有の自治事務領域」については、「上乗せ条例」や「横出し条例」の合憲性=合法性を認め得る。
   理由:地方自治行政の核心部分については、「地方自治の本旨」を保障した憲法の趣旨より、いわば「固有の自治事務領域」としてその第一次責任と権限が地方公共団体に留保されるべきであり、これにつき国が法律を制定して規制措置を定めた場合には、それは全国一律に適用されるべきナショナル・ミニマムの規定と解すべきである。なお、この説では、具体的に何が「固有の自治事務」に当たるかが重要な問題になるが、少なくとも、住民生活の安全と福祉に直接不可欠な事務(公害防止、地域的自然環境の保護、土地利用の計画化等)は含まれるとされている。
   批判:国会の憲法上の地位や地方議会の立法能力等を考慮すれば、このように解するのは妥当でない。
  B②説(兼子)
   結論:地方自治にかかわりをもつ法律を条理解釈により、「規制事項の性質と人権保障に照らして、当面における立法的規制の最大限までを規定していると解される法律(最大限規制法律)」である「規制限度法律」と、「全国的な規制を最低基準として定めていると解される法律(全国的最低基準法律)」である「最低基準法律」とに分類し、「規制限度法律」については、「上乗せ条例」は法律に違反するが、「最低基準法律」については、「それ以上の規制を各地方における行政需要に応じて自治体に委ねる趣旨であるから」、「上乗せ条例」は法律に違反しないと解する。
   理由:地方公共団体の自主立法権の意義を尊重すべきである。

[重要判例]
・最大判昭50.9.10百選Ⅰ(第6版)[88]徳島市公安条例事件
・最判昭53.12.21判時918号56頁

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