〔民法コラム27〕動産譲渡担保権と動産売買先取特権の優劣


1 総説

 動産先取特権者が動産先取特権の行使により債権の満足を得るためには、動産先取特権者の動産売買の先取特権が動産譲渡担保権者の動産譲渡担保権に優先しなくてはならない。そこで、動産譲渡担保権と動産先取特権の優劣が問題となる。

2 集合物譲渡担保権と動産売買先取特権の優劣

 動産先取特権は、その動産が第三者に引き渡されるともはや行使できなくなる(333条)。これは、動産先取特権には公示性がないから、第三者は先取特権が付いていることを知らずに動産を譲り受けてしまうことが多く、かかる第三者を保護して動産取引の安全を図る必要があるためである。したがって、かかる333条の趣旨から「第三取得者」とは所有権取得者のことをいうと解されている。
 そこで、まず、譲渡担保権者が「第三取得者」に当たるのかが譲渡担保の法的性質と関連して問題となる。
 次に、譲渡担保権者が「第三取得者」に当たらないとした場合、集合物譲渡担保権と動産売買の先取特権の優劣をいかに判断するかが問題となる。

⑴ 譲渡担保の法的性質

 譲渡担保権設定契約により所有権が譲渡担保権者に移転すると考えれば、譲渡担保権者は「第三取得者」(333条)に当たると解することになり、動産売買先取特権はもはや譲渡担保権に対抗できないことになる。
 これに対して、譲渡担保権の設定があっても、譲渡担保権者は目的物の上に担保権を取得するのみであり、所有権は譲渡担保権設定者の下に残ると考えると、譲渡担保権と動産売買先取特権は同一目的物の上に競合することになる。
 そこで、譲渡担保の法的性質が問題となる。

〈論点1〉譲渡担保の法的性質をいかに解すべきか。
 A説(所有権的構成 判例)

  結論:目的物の所有権は譲渡担保権者に移転する。
  理由:所有権移転という外形を採る以上、その法的性質も外形どおり所有権の移転とみるべきである。
  批判:譲渡担保権者が完全な所有権を取得し、第三者は悪意でも有効に所有権を取得できる反面、設定者は譲渡担保権者に債務不履行責任を問い得るにすぎず、設定者にあまりに不利益である。
 B説(担保的構成 有力説)
  結論:譲渡担保権者は担保権を取得するにとどまり、目的物の所有権は設定者の下に残る。
  理由:譲渡担保の担保としての実質を重視すべきである。また、このように解することが譲渡担保権設定契約の当事者の合理的意思に合致する。
 C説(設定者留保権説)
  結論:設定者の下に所有権マイナス担保権の物権的権利が留保される。
  理由:所有権移転の形式を一応尊重しつつ、担保の実質も考慮すべきである。

⑵ 集合物譲渡担保権と動産売買先取特権の優劣

〈論点2〉集合物譲渡担保権と動産売買先取特権の優劣をどのように決するか。
 A説(333条説 最判昭62.11.10)

  結論:(所有権的構成を前提に)譲渡担保権者は「第三取得者」(333条)に当たるため、動産売買先取特権の対抗を受けない。
  理由:譲渡担保権者に目的物の所有権が移転すると解する以上、「第三取得者」(333条)に当たると解するのが自然である。
 B説(334条類推適用説 有力説)
  結論:(担保的構成を前提に)334条を類推し、譲渡担保権は330条1項の第一順位の先取特権と同一順位の効力を有すると解されるため、原則として動産売買先取特権に優先する。ただし、譲渡担保権者が担保権取得時に先取特権者のあることに悪意の場合は動産売買先取特権者に劣後する(330条2項前段)。
  理由:譲渡担保権者は担保権を取得するにすぎず、「第三取得者」(333条)に当たると解することはできない。そうすると、譲渡担保権と動産売買先取特権が同一目的物の上に競合することになり、両者のいずれを優先するかが問題となる。この点については、動産譲渡担保権に最も近い法定担保物権である動産質権についての334条を類推適用して決するべきである。
 C説
  結論:先取特権の即時取得に関する319条を拡大解釈し、目的物が債務者の占有使用下にあり、かかる使用関係につき先取特権者が善意無過失である場合には、動産売買の先取特権を保護すべきである。
  理由:先取特権の拘束を受ける物権が譲渡担保に供されても、当該動産の占有使用関係に変更がないのであるから、それにもかかわらず、先取特権が事実上消滅するとするのは、動産売買の先取特権者に酷である。
 D説
  結論:権利の成立の順序に従って優劣を定めるべきである。
  理由:集合物譲渡担保権と動産売買の先取特権の優劣を定める明文の規定がない以上、物権の優先的効力に関する一般原則に従うべきである。

[重要判例]
・最判昭62.11.10

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