〔民法コラム13〕194条と占有者の使用収益権


1 194条の意義及び要件

⑴ 意義

 194条は、193条の例外規定である。
 すなわち、盗品・遺失物の被害者又は遺失者が回復請求をするには、通常は代価の支払を要しないけれども、占有者(即時取得者)が、盗品・遺失物を競売もしくは公の市場において、又はその物と同種の物を販売する商人から買い受けたときは、占有者が支払った代価を弁償しなければ、回復請求ができない旨を定めたものである。

⑵ 要件

 194条にいう「競売」には、強制競売、任意競売のいずれも含まれる。
 また、「公の市場」とは、広く店舗を意味する。
 さらに、「その物と同種の物を販売する商人」とは、店舗を持たないで同種の物を販売する商人、すなわち、主として行商人等を指す。

2 194条と占有者の使用収益権

 盗品・遺失物の被害者又は遺失者が盗品・遺失物の占有者に対してその物の回復を求めたのに対し、占有者が194条に基づき支払った代価の弁償があるまで盗品・遺失物の引渡しを拒むことができる場合には、占有者はその弁償の提供があるまで盗品・遺失物の使用収益を行う権限を有するというのが判例(最判平12.6.27)である。被害者又は遺失者は、使用利益に関する不当利得返還請求権又は不法行為に基づく損害賠償請求権を有しない。
 もっとも、この判例の結論に異論はないものの、かかる使用収益権を、193条の回復請求権がある場合の所有権の帰属との関係でどのように説明するのかは問題がある。

⑴ 原権利者帰属説

 この立場からすると、占有者は2年間は無権原で占有していることになり、善意の占有者として果実収取権(189条1項)が認められるにすぎないとするのが原則ということになる。

⑵ 占有者帰属説

 この立場からすると、194条の適用がある場合には、代価弁償の提供があるまでは占有者が所有権を有していることになるから、その間の物の使用は所有権に基づくことになり、不当利得が生じる余地がないのは当然のことになる。

⑶ 判例(最判平12.6.27)

 本判決は、占有者の使用収益権を肯定している。そして、かかる結論は占有者帰属説に親和性があるため、原権利者帰属説を採用していると思われる判例との整合性が問題となり得る。この点、本判決は、所有権の帰属を明らかにしないで、判示の理由から占有者の使用収益権を肯定することができるとしている。これは、原権利者帰属説に立ちつつ、194条の趣旨から特別な権利ないし権能を肯定したものであると考えられている。
 なお、本判決は占有者帰属説に立つものとの理解もあるが、本判決は所有権の帰属には触れていないから、そうとまではいえないであろう。ただし、194条が判示のような権限を定めた規定であると解することは、解釈論的に若干無理があるように思えることや、占有者帰属説からは本判決を合理的に説明できることからすると、占有者帰属説に親和的な判決であるということはできよう。

[重要判例]
・最判平12.6.27百選Ⅰ(第8版)[69]

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