〔民法コラム28〕動産先取特権に基づく物上代位と一般債権者による差押えの優劣

 動産先取特権者が差押えをする前に一般債権者が代金債権につき仮差押えをしている場合、動産先取特権者は物上代位することができるかが、一般債権者による仮差押えが「払渡し又は引渡し」(304条1項ただし書)に当たるかと関連して問題となる。

〈論点1〉物上代位制度の本質をいかに解すべきか。
 A説(価値権説)

  結論:担保物権は目的物の交換価値を支配する権利であり、価値代表物は交換価値のなし崩し的表現であるから、担保権の効力は当然にその価値代表物に及ぶと解する。
 B説(特権説)
  結論:担保目的物が消滅すれば担保物権も消滅するのは当然であるとし(物権法の一般原則)、価値代表物に対して担保物権の効力が及ぶのは、法律が特別に定めた政策的判断によるものであると解する。

〈論点2〉担保権者が物上代位権を行使するには、債務者が受けるべき金銭その他の物の「払渡し又は引渡しの前に差押え」をしなければならないが、なぜ、この「差押え」が必要なのか。
 A説(特定性維持説)

  結論:「差押え」は変じた価値代表物を特定するために必要とされる。
  理由:物上代位制度の本質につき、価値権説に立てば、価値代表物にも当然に担保権の効力が及んでいるから、「差押え」は目的物を特定し、債務者の他の財産に価値代表物が混入してしまうことを防ぐために要求されているにすぎない。
 B説(優先権保全説)
  結論:「差押え」は、物上代位を公示して優先性を確保するために必要とされる。
  理由:物上代位制度の本質につき、特権説によれば、担保物権は目的物の消滅により消滅するために、特に物上代位により価値代表物にかかることが認められるのであり、そのためには差押えにより公示して優先性を確保する必要がある。
 C説(最判昭60.7.19百選Ⅰ(第8版)[82])
  結論:「差押え」は、物上代位の目的債権の特定性を保持し、これにより、物上代位権の効力を保全せしめるとともに、第三者等が不測の損害を被ることを防止するために必要とされる。

〈論点3〉動産先取特権に基づく物上代位と一般債権者による(仮)差押えはいずれが優先するか。
 A説

  結論:動産先取特権に基づく物上代位が優先する。
  理由:(特定性維持説を前提として)実際に代位物が債務者の一般財産に混入する以前、すなわち実際に支払がなされるまでは、物上代位の行使が可能である。
 B説
  結論:一般債権者による差押えが優先する。
  理由:(優先権保全説を前提として)既に(仮)差押債権者という第三者が登場しているのであるから、物上代位権の行使は許されない。

[重要判例]
・最判昭60.7.19百選Ⅰ(第8版)[82]

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