〔民法コラム4〕占有改定による即時取得の可否
1 占有改定
占有改定(183条)とは、引渡し(178条)の一形式であり、物理的にはこちら側に物が置かれたままの状態で、相手方に渡したことにするというものである。例えば、甲が自分のカメラを乙に譲渡し、同時に乙から借りて使い続ける場合をいう。その趣旨は、いったん現実の引渡しをして、もう一度これを引き取るという無用の手間を省くことにある。
2 即時取得
即時取得(192条)とは、取引行為により平穏かつ公然と動産の占有を始めた者が善意無過失であるときには、即時にその動産の上に行使する権利を取得するという制度をいう。この制度は、権利の外観を信頼して取引をした者は譲渡人の権利の有無とは関係なく権利を取得するという公信の原則の現れといってよい。
動産は不動産と比較して取引が頻繁であり、同一性の判別も難しく、しかも、公示手段である引渡しは占有改定を認めるなど全く観念化しており、必ずしも公示手段として十分といえない。そこで、その不十分な公示制度を補う必要があることが、動産のみに即時取得を認めた趣旨といえる。
3 占有改定による即時取得の可否
即時取得が成立するためには、「占有を始めた」(192条)ことが必要である、この点について、占有改定が「占有を始めた」に当たるか否かについて争いがある。
〈論点1〉占有改定は「占有を始めた」に当たるか。
A説(否定説 最判昭35.2.11百選Ⅰ(第8版)[68])
結論:占有改定では「占有を始めた」とはいえない。
理由:192条が、占有取得を要件としたのは、真の権利者の権利喪失と譲受人の権利取得との利益衡量において譲受人に権利保護要件を要求したものである。そうだとすれば、利益衡量上、占有の移転が外部から認識可能である場合のみ「占有を始めた」といえると解すべきである。よって、譲渡人の客観的占有状態に変化がない占有改定では「占有を始めた」とはいえない。
B説(肯定説)
結論:占有改定でも「占有を始めた」といえる。
理由:①本来、即時取得は、譲渡人の占有に対する譲受人の信頼が保護されるべきであって、譲受人の占有取得の態様にかかわらないはずである。
②真の権利者は当然危険を予期すべきであり、静的安全を不当に害するともいえない。
批判:譲受人の占有改定後、真の権利者が譲渡人から動産を現実に受け取っても、譲受人はなお真の権利者に引渡しを要求できることになるが、これはあまりにも譲受人を保護しすぎている。
C説(折衷説)
結論:占有改定で一応即時取得は成立するが、まだ確定的ではなく、現実の引渡しを受けることにより確定的になる。A説(否定説)との違いは、占有改定で一応即時取得が成立するから、占有改定の時点で善意無過失であれば足りるという点にある(A説によると、現実の引渡しを受ける時点で善意無過失でなければならない。)
理由:否定説、肯定説いずれも、それぞれ本人保護、取引の安全に傾きすぎ、妥当性に欠ける。
[重要判例]
・占有改定と即時取得(最判昭35.2.11)百選Ⅰ(第8版)[68]
「無権利者から動産の譲渡を受けた場合において、譲受人が民法192条によりその所有権を取得しうるためには、一般外観上従来の占有状態に変更を生ずるがごとき占有を取得することを要し、かかる状態に一般外観上変更を来たさないいわゆる占有改定の方法による取得をもっては足らないものといわなければならない」。