「新しいぶどう酒は新しい革袋に」

面白い話を見つけたので便乗して。

コンテンツ「パクり」を考える二つの前提|塚本 牧生|note

noteはまるで、福井健策さんの「全メディアアーカイブ構想」の超縮小版 | TATA-STYLE

著作権法の第1条にはこう書かれています(ちなみに著作権法自体には著作権はありません。ここ重要ですよ)。

「著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする」

つまり「著作者等の権利」を守ることは「文化の発展に寄与する」ことだと言ってるわけですね。以って「著作権法」は「インセンティブ法」である,という説明がなされています。よく聞く話ですね。でもこれ,果たして自明なのでしょうか(反語)

著作権はもともと著作者と出版社との間で交わされた約束事なんです(著作権が copy(=出版)right(=権利)と呼ばれるのも,ここに起源があるわけです)。著作者から見て出版社は非常に強い相手です。というか実際に著作者は「搾取」の対象です。そこで両者のバランスをとるためのルールが(長い時間をかけて)作られたのです。(refs 山田奨治著『〈海賊版〉の思想』)

これってスポーツのルールと同じなのですよ。「スポーツマンシップ」というのは「公正なルール」に宿ります。「文化の発展」も同じく「公正なルール」が必要なのです。間違ったルールに「文化の発展」はありません(ここ,覚えておいてね)。

実は「文化の発展」と「公正なルール」に私たち〈消費者〉はつい最近(少なくとも20世紀半ば)まで含まれていませんでした。著作権は著作物の「使用」に関して基本的にノータッチです(ここが特許権や商標権といった他の知的財産権と違うところです)。まぁぶっちゃけて言うなら,私たち〈消費者〉は著作者と出版社の両者にとって「搾取」の対象なのです。そして私たち〈消費者〉もそれをよしとしてきました。「消費は美徳」なんて広告もありましたね。

著作者と出版社との間のパワーバランスは今も昔も変わりません。今も出版社にとって著作者は「搾取」の対象で(実際にそういう話は今もチラホラ聞きます),そのバランスをとっている「著作権法」は現在も有効に機能しています。でも著作者と〈消費者〉との関係はどうなのでしょう。そもそも私たちはもう単なる〈消費者〉ではないのです。

私たちは著作物をただ「使用」するだけでなく,それ(Activity)を他者と共有し,更に何かを創ろうとします。つまり今や私たちも「文化の発展に寄与する」存在です。「文化」というステージに「プレイヤー」がもうひとり増えたのです。なのに著作権法(ルール)は「文化の発展に寄与する」私たちプレイヤーを今も無視し続けています。それは例えば文化庁審議会の議事録などを見ても如実に現れています(彼らはいまだに私たちを〈消費者〉としか見ていません)。

こうした不公正な状況に最初に楔を入れたのが Gnu Project および Free Software 運動です。Free Software 運動の秀逸な点は GPL を使った「法の hack」により「著作者」と〈消費者〉を法的に同一視してしまったことです。結果的にそれは Linux という事例を得ることで大きな成功へと導かれます(まぁでもそれはほとんど運みたいなものですが)。「著作者」は〈消費者〉を味方につけることで(搾取され続けた)コンピュータ企業に対して大きな力を得,〈消費者〉は自らを「文化の発展に寄与する」プレイヤーにクラスチェンジできます。これが Free Software 運動およびそこから発展した Opensourse Software 運動の本質です。

Creative Commons Project はそうした FOSS 運動から着想を得た fork と言えます(て言ったら RMS に怒られるでしょうが)。ソフトウェアの分野でそれができるなら,もっと大きなくくり,「文化」全体についても同じようにできるのではないか。

現在 Creative Commons Project は Free Culture 運動へと昇華しています。Creative Commons および Free Culture 運動の生みの親である Lawrence Lessig 教授は新しいステージへと旅立ちました。私たち日本人もそろそろ(「無料のビール」ではなく)本当の「自由な文化」について議論すべきです。

これは新しい事態です。過去に例はありません。プレイヤーが変わりステージも変わりました。従ってルールも変わらなければなりません。「新しいぶどう酒は新しい革袋に」入れるべきなのです。

てなことを10年以上前に書きました。10年前も今も同じような議論がグルグル回ってるのは遺憾ではありますが,致し方のないことなのかなと最近は諦めています。そうそうクリエイティブ・コモンズ・ライセンスについては最近改訂版をリリースしました。今回は実用をメインに整理してますので,よろしかったら参考にして下さい。

クリエイティブ・コモンズ・ライセンスについて