【日記】『ホクロ男』に対する現在の心境を徒然なるままに。
こんにちは、山本清流です。
11月になりました。
メフィスト賞の受賞発表は11月だとされているので、明日、発表になってもおかしくありません。
しかし、いまのところ、連絡がない。
僕の親しき兄弟、『ホクロ男』はどうなっているのだろう。
僕の頭はもう『拷問投票』に切り替わっていているのですが、
心の隅のほうで常に、『ホクロ男』のことを考えています。
ミステリではないけど、不気味な空気感は確保されているはずです。
気味の悪い作家・山本清流というイメージを確立するのには適している作品であると思います。
ジャンルはどうあれ、今後も不気味な作品を書いていくと思われるので、
『デスシアター・ホテル』のようなポップな作品に比べたら、僕の書きたい世界観のわりと中心に近いところに接近した作品であるのではないか、と。
そういうことを思うと、この作品でデビューするのも悪くはないと思っているのです。
ただ、『死者の瞬き』の衝撃を超えられていないという可能性は濃厚で、
あの作品に目が止まった編集者の方々が、果たして『ホクロ男』のような(少し軽い)作品を求めているのかどうかとなると、疑問ではあるのです。
『死者の瞬き』は小説としては欠点が多かったとはいえ、
あのときは、放送大学も含めて14科目を同時受講しながら、毎日ひとつ1000文字程度のショートショートを書きつつ、バイトもしつつ、就活していた兄のためにエントリシート作成に協力したりしていて、
その合間を縫って執筆していたので、かなり精神的に追い詰められていました。
しかも、あのときはまだ適切な薬の量に調整していなかったので、
生来からの過敏性(著しく感情が敏感で、対人感受性があまりに強すぎ、重度の被害妄想的な状態)が維持されたままでした。
あのとき書いた『死者の瞬き』は、そういう切迫感というか、迫力みたいなものが出ていて、
読者の襟首をつかまえて引きずり込むような、インパクトの強い濃密な世界観になっていたのだろうと思うのです。
その点、いまの僕はちょうどいい薬の量を見つけることができて、日常生活に支障がないレベルに落ち着いています。
はっきり言って、いま、人生を通して、いちばん楽です。
そうなってくると、作品に迫力をもたせるために自分の状態を利用するというような、
基本的に若者に認められた特権を行使する立場にもなく、
僕はすでに老後を謳歌しているような気分で生きていて、いま死んでもこれといって後悔はないという状況にあり、若さを武器にはできないのです。
いまの僕は、せっかくの人生なのだから楽しく過ごせたらいいね、みたいな考え方に近づいてきています。
小説も、楽しく、書いていたい。それは残された人生を楽しむための活動のひとつです。
そういうわけで、『死者の瞬き』を書いていたころに比べると、
いまの僕は、内側から込み上げてくる衝動に身を任しているわけではなく、
細々とした技術的な問題にも丁寧に対処しながら、総合的にもよい作品を書いてみようというような、放牧された牛のような穏やかな意欲に支えられています。
いま、『拷問投票』の構想をしているのも楽しいです。
専門書を読みながら、作品設定を考えているだけで、充実している。
受賞しなくても、僕の人生は安泰なのかもしれない。
けれど、人間というのは悲しいもので、承認欲求というのは尽きたりしないらしいのです。
誰かに認められるのと、誰にも認められないのとでは、前者のほうが気持ちがいいに違いない。
やはり受賞はしたい。
ただし、受賞したとしても、僕の人生の平穏を他人に侵害されたくはないです。
読書メーターは読まないだろうし、身元も明かさないでしょう。
もしも受賞したとしたら、なによりも、
一時的な高揚感に流されることなく自分の人生の平穏を確保しつづけることに尽力しなければいけません。
承認欲求や自己顕示欲、そして、いままで僕を見下してきた膨大な人々を見返してやりたいというエゴなどとの関係改善に取り組み、
静かな生活を希求しつづける努力と、ある意味で禁欲的な姿勢が必要になります。
そういうことを考えると、受賞しないほうが心は穏やかなのかもしれないと思ってしまうときもあり、
落選したらしたで、ホッとするのではないかとも思います。
こんなことを書いたら、真剣に受賞したいと思っている人に失礼かもしれないとは思いましたが、
そこは安心してください。僕もちゃんと受賞したいとは思っています。
社会の基準の外側で独自の平穏を築ける人など、そうそういないのです。
そこからは逃れられない。多かれ少なかれ、誰もが、社会の中で、そのどこかで、認められたいとは常に思っている。
人間というのは不自由です。
いまの僕はたぶん、多くの人と比べるとちょっと自由なほうです。
2回も座談会に残れて、もしや本当に作家になれるかもしれないぞという可能性を抱けるなんて、
そんな贅沢な人生を享受させてもらっているので。
これは贅沢だ。
本当にすごい贅沢。
お酒は飲めないけど、たぶん、こんなに素晴らしい肴は、なかなかない。