【勝手に座談会】『デスシアター・ホテル』の反省会

山本清流 さあ、それでは、やっていきましょう。最初で最後の候補作は、『デスシアター・ホテル』です。キャッチコピーは『幽霊屋敷もの×本格ミステリ』です。では、山本清流さん、どうぞ。

山本清流 はい。それでは、まずは、あらすじを。主人公のホラー小説家である駿之介が、文芸評論家である佐知とともに、過去に凄惨な殺人事件があった山奥のホテルへと行きます。そこで駿之介は幽霊屋敷もののホラー小説を書き始めるのですが、その小説の中に書いた出来事が現実にも起こりはじめて……というホラー小説です。荒さが目立ちましたが、ホラーとミステリを融合させようとする意欲は感じられました。テンポがよく、すらすらと読み進めることができたのですが、そのぶん、描写が薄く、あまりに急ぎすぎているような印象を受けました。山本清流さんはどうでしたか?

山本清流 急ぎすぎているというのは、同感です。僕も、正直、厳しいなと感じました。急ぎすぎたせいで、全体にバランスが崩れたのかもしれません。あるところは書き過ぎなくらいに書いているのに、またあるところは描写が少なすぎて、そこになんらかの意図を読み取ることもできませんでした。たとえば、事件映像のくだりはもっと詳しく描写してもよかっただろうし、一方で、主要な登場人物三人がメディアについて語るところはあまりに長々しくて冗長に感じました。勢いで書いたんだな、というのは伝わってきましたが、一度、しっかりと推敲をしてから応募してきてもらいたかったな、というのが正直なところです。

山本清流 僕も、もやもやとしたものを感じました。読みやすいのはそうなのだけれど、説明セリフに頼りすぎているところはどうなのかな、と。地の文が長いセリフを補助するだけの役割に終始していて、小説という形式が持つ可能性を考えたときに、もったいないな、と感じました。

山本清流 なるほど。みなさんの意見を伺いますと、主に文章表現の観点から厳しい評価をせざるを得ないということですね。僕としては、すらすらと読める文章を志したのだな、という理解のもとで一定の評価ができるとも思いますが……。ただ、小説の可能性を狭めているとは言えるかもしれません。表現力のある作家さんだと思うので、自分の強みを存分に生かしながら書いてほしいです。それで、内容面についてはどうですか?

山本清流 キャラクター造形にこだわったんだな、というのは伝わってきました。一部においては、キャラクターの魅力が際立っているところがあるのも事実です。ただ、物語を進めるためにキャラクターを動かしてしまっているのは見過ごせませんでした。このキャラクターがこのシーンでこんなことを言うか? というポイントについて、もう一歩踏み込んで考えるといいかもしれません。

山本清流 毒舌キャラは面白かったですね。

山本清流 同感。笑っちゃいました。しかし、そういうキャラを描くのには慎重に取り組まなければいけないと思いますが、その慎重さがあまり感じられず、見知らぬ他者が読むことを想定できているのかな、というのは疑問です。

山本清流 僕も山本清流さんと同じ意見で、キャラクターの都合がよすぎると感じました。主人公の駿之介が臆病な性格設定なのですが、そのわりにはずかずかと他人の領域に入りすぎていて、性格の設定が煮詰まっていないのかな、という気がします。書き始める前に、キャラクターについて固定的なイメージを用意しておくといいです。その点、山本清流さんはどう思いましたか?

山本清流 僕は、キャラクターは拒絶感なく入ってきたし、佐知と駿之介のふたりのやり取りも面白く読んでいたのですが、解決編へと入っていくところでずっこけました。文芸評論家の佐知が急に「社会的解脱状態」というのになって、急に探偵的能力を発揮しはじめるという設定は、あまりにも都合がよすぎるだろう、と。このような展開は、推理や調査によって徐々に事件を解決していくところを書くのが面倒くさかったのかな、と感じさせてしまいました。

山本清流 僕は、山本清流さんたちが言うように、キャラクターの都合がよすぎるところもあったとは思いますが、都合がいいというのはキャラクターだけに限った話じゃないと思いました。物語が逆転したあとのところはもうご都合主義のオンパレードになっています。それは作者も自覚しているらしく、「ご都合主義だが」とは断っているんですが、さすがに無理がありました。

山本清流 しかし、意欲に満ちていたところは認めてあげたいです。実際、冒頭で提示される幽霊についての設定などはとても楽しく読めましたし、それを基にしてひとつの小説を書き上げたというのは才能を感じさせます。もっと実力を磨いて、そして、もっと推敲をして、急ぎすぎないで、丁寧に作品を書いてほしいです。山本清流さんは、強いプッシュでしょうか?

山本清流 次回作に期待したいです! あまり焦らず、自分のペースで書いていくといいのではないでしょうか。また、自分の強みをどのように生かすのかについて追及してみてください。

山本清流 次はどんな作品になるのか、期待大です。次回作をお待ちしています。


 という、妄想をしていた。