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【執筆の裏技】人間の注意力は段落の冒頭と文の冒頭で最大になり、それ以後、低下する【冒頭・連続の裏技】

 こんにちは、山本清流です。


 今回は、小説執筆の裏技について。

 ちょっとしたテクニックですが、よければ、チラ見していってください。


 今回の要約は以下のとおり。

 人間の注意力は基本的に、低下していくもの。注意力が強く維持されているのは、段落の冒頭と、文の冒頭。つまり、いちばん強調したいものを冒頭に持って来るという書き方をしないと、読み飛ばされてしまう危険性がある。これを意識しておくだけでも、プラスなはず。

 以下、詳しく解説していきます。


 【そもそも、注意力とはなにか?】

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 まずは、これについて。

 僕は認知心理学を勉強したことがあるので、その観点から注意力を述べたいのですが。


 人間の注意力というのは、提示された知覚情報の中から一部を切り取る能力のことです。

 人間は、目に入ってくる情報のすべてを情報処理しているわけではありません。


 すべての中から一部をわざと選び抜いて、それを詳しく情報処理するように脳が進化してきています。


 【たとえば】

 以下のふたつの文章を読んでみてください。

 憂鬱な気分だ。世界が塞ぎこんでいるように感じられる。なんてったって、とても眼球が痛い。痛すぎて堪らない。早く眼科に行きたいのだけれど、生憎、かかりつけの眼科が今日はやってない。ああ、憂鬱だ。
 眼球が痛い。痛すぎて堪らない。早く眼科に行きたい。私は、そのことをばかりを考えまくっているのだけれど、生憎、かかりつけの眼科が今日はやっていない。だから、とにかく、憂鬱だ。

 さて、このふたつの文章、どちらも、「眼球が痛くて、憂鬱な人」の文章なのですが、

 ニュアンスがちょっと違います。


 僕の主観も入ってくるのですが、明らかに、後者のほうが痛そうです。

 そして、前者は、後者よりも憂鬱そうです。


 なぜ、そうなるのか。

 冒頭に提示した情報のほうが、より強く情報処理されているからに外なりません。


 【大事なのは、情報を伝える順番だったりする】

 人間は、それぞれ独自の言語・イメージのネットワークを持っています。


 なにかの文章を読んだとき、その部分が「発火」して、じわりとネットワークが網目状に拡大していきます。

 たとえば、次の文章を読んでください。


 古池や蛙飛び込む水の音

 有名なやつだと思いますが、これは爆音でしょうか? それとも、ちゃぽん、という寂しげな音でしょうか?


 おそらく、ちゃぽん、のほうだと思いますが、この文章、どこにも、ちゃぽん、とは書かれていません。


 つまり、人間は、書かれていない情報を「発火」させて、勝手に感じ取っているのです。


 そして、その、書かれていない情報を「発火」させるには、人間が情報処理をしなければいけませんが、

 情報処理をするためには、注意を向けてもらわねばなりません。


 そして、その注意がいちばん集まるのは、冒頭だったりするので、

 「冒頭でなにを提示するか」によって、「人間の脳内でなにが起こるか」が変わってきます。


 【発火を連続させよう】

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 さて、冒頭がとりあえず重要かもしれないということはご理解いただけたと思います。

 強調したいものは冒頭に置けばいい、という、ある意味当然のお話しでしたが、以下では、ちょっと応用編をやりたいと思います。


 【人間は似たような情報に注目する】

 お話ししたように、人間は、すべての情報に注意を向けているわけではありません。

 むしろ、特定の部分だけ、きわめて詳細に情報処理をしています。


 冒頭というのもひとつ、注意力が集中するところですが、それだけではなく、注意が向けられるものがあります。


 それは、「発火の連続」です。

 同じ脳の部位が連続的に発火すれば、そこにはより注意が集まり、情報処理が進みます。


 どういうことかというと、似たような情報を違う言葉で提示すれば、その情報についての注意が集まるということです。


 たとえば、憂鬱な感じを表現したかったとします。憂鬱な気分だ、と書いたとしても、よほど情報処理を進めない限りは、憂鬱な気分という情報を読者は受け取りません。

 そこで、「憂鬱」という情報に近い情報をいくつも提示することによって、婉曲的に、回り道をして、憂鬱を表現するのです。


 【たとえば】

 以下に示すのは、へたくそですが、僕の作例です。

 べたべたと汗がまとわりついてくる。僕の身体は賞味期限切れの腐った刺身みたいだ。いやに臭うぞと、ずる、ずる、と鼻をすすると、その原因が右手にあるのを思い出した。右手には、汚い水で濡れたザリガニがいる。僕の右手の中で、かちゃかちゃと身体を揺すっているそれは、つーんとする下水道のような悪臭だ。下校途中に、田んぼの脇で見つけた。胸がしめつけられるような臭いのせいで、一瞬、息が止まりそうになった。頭が重石のような気がして、その重さに潰されて、身体ごと地面に崩れていきそうだった。

 「憂鬱」という情報を婉曲的に発火させるように、「べたべた」とか、「腐った」とか、「汚い」とか、「悪臭」とか、「重さ」などという情報を提示しています。

 しかし、ちょっとレベルが低いかもです。


 これはセンスの問題であり、「腐った」とか「汚い」とか出てきている時点で、僕にはセンスがないかもしれません……。

 それはともかく、

 

 大事なのは、自分が表現したいものを的確に発火させる言葉を探し、上手に配列することです。

 まあ、それがとてつもなく難しいんですけどね……。


 以上。裏技の紹介でした。