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『ハリー・ポッターと賢者の石』の三幕構成

 こんにちは、山本清流です。


 『ハリー・ポッターと賢者の石』の三幕構成を見ていきたいです。

 小説版のほうです。


 三幕構成について勉強したい方は、ウィキペディアをどうぞ↓


 以下、ネタバレするので、ネタバレが嫌な人はご注意ください。


 【オープニング・イメージ】

 オープニングは、ダーズリー氏の日常から始まります。ダーズリー氏の周りで不自然なこと、地図を見る猫や、へんな格好の人たち、ハリーの名を口にする人たちなどが登場します。また、ダンブルドア校長とマクゴナガル先生、ハグリッドなどが登場し、空飛ぶオートバイや、火消しライターなどの魔法も登場します。

 このオープニングで、作品の世界観を提示しています。人間社会の背後に、もうひとつ、魔法社会があるということ。

 魔法社会について取り上げた小説であると、オープニングイメージで宣言しています。


 【セットアップ】

 続いて、ハリーの視点になり、セットアップへと移ります。ダンブルドア校長らがプリペット通りのダーズリー氏の玄関前にハリーを置いていくシーンはセットアップの一部とも言えます。

 その時点で、主人公がハリーであると明かされ、選ばれし男の子であるという運命が伝えられます。

 その後、時間が経ち、十年後のハリーの様子へと移ります。ダーズリー氏の家で、虐待のような生活を続け、ダドリーにはひどい暴力を受けています。また、動物園で蛇と話すことができたり、ガラスを消してしまうことができたりして、ハリーが魔法使いであるという設定も伝えています。

 主人公はどんな人か、どんな状況にいるか、これで読者は理解します。

 また、セットアップの中で、ヴォルデモートがハリーを殺そうとして呪いが自らに跳ね返ったとの説明があります。これはウェルマンの分類による「出会いと挨拶」とも考えられます。

 主人公が敵対者と遭遇する場面です。セットアップの段階で、すでにシリーズ全体の集結地点――ヴォルデモートを倒すことが暗示されています。


 【インサイティング・インシデント】

 セットアップを終えたうえで、インサイティング・インシデントが発生します。ホグワーツ魔法魔術学校から『階段下の物置内』のハリーのもとに入学許可状が届きます。

 これで、物語の方向性が示されます。ハリーは魔法学校に行って、魔法使いになるのだという方向性。

 セントラル・クエスチョンは、『ハリーは魔法使いになれるのか』、あるいは、『ハリーは勇敢な魔法使いになれるのか』といったところです。


 入学許可状をすぐに手にすることはできず、ダーズリー氏が拒もうとして、あの手この手を使う展開が練られています。

 ダーズリー氏らは、ついに海岸の向こうにある無人島まで逃げますが、ハグリッドが現れて、入学許可状をハリーに渡します。ここが、インサイティング・インシデントだと思われます。


 【第一幕後半】

 ハリーに入学許可状を持ってきたハグリッドは、ハリーに対して『例のあの人』にハリーが殺されそうだったことなど、ヴォルデモート関連の話をします。

 このシーンで、『ヴォルデモートを倒せるのか』というシリーズ全体におけるセントラルクエスチョンを提示していると考えることもできます。

 セットアップが終わったあとには主人公に焦点があてられるのがセオリー的みたいなので、ハグリッドがハリーについてあれこれと話すのは、ハリーの状況をより深掘りするためだと思われます。

 やはり、『賢者の石』におけるセントラルクエスチョンは、「ハリーが魔法使いとして成長できるかどうか」に置かれている印象です。ヴォルデモートは、『賢者の石』では、紹介程度です。

 続いて、ダイアゴン横丁で、杖を買ったり、グリンゴッツにお金取りに行ったりするシーンが入ります。これはフォースト・ターニングポイントへの助走付けとして、魔法世界に徐々に馴染んでいくハリーを描いているものと思われます。

 ダイアゴン横丁のシーンなしで、9と4分の3番線からホグワーツ行きの列車に乗るシーンへ移ると、展開が急な感じになるので、いい効果が出ていると思います。


 【フォースト・ターニングポイント】

 そして、ついに、ハリーがダーズリー氏の家を出て、ホグワーツへと向かうシーンです。いままでのダーズリー氏の家から、ホグワーツへと、状況が大きく変化することで、もう引き返せなくなります。

 第一幕が人間世界だとしたら、第二幕は魔法世界です。

 セントラルクエスチョンである「ハリーは勇敢な魔法使いになれるのか」という問いが再び問い直されます。

 また、主人公のドラマ上の欲求が変化します。第一幕では、魔法学校に行きたいという欲求でしたが、第二幕では魔法学校に馴染みたいという欲求です。ハリーは周りについていけるか、周りと仲良くできるか不安を抱えています。


 【第二幕前半】

 第二幕の前半は、物語のお約束を果たすパートであり、ハリーポッターにおいては、魔法世界の楽しさを存分に披露するパートです。大広間での豪華なパーティーや、魔法薬学の勉強など、魅力的なシーンがたくさん登場します。

 ピンチ1を探したのですが、おそらく、「グリンゴッツ、侵入される」というニュースだと思います。

 それだとミッドポイントにつながる気がするのですが。


 【ミッドポイント】

 ハリーらが三頭犬に遭遇するシーンです。三頭犬に遭遇したハリーは、その犬の下に、グリンゴッツに侵入した人が盗もうとしたなにかがあるのだと考えます。

 ここで、主人公のドラマ上の欲求が再び変化します。「魔法学校に馴染もう」から、「なにが起こっているのか、探ろう」という方向性に変化していきます。


 【第二幕後半】

 図書室で調べるなり、ハグリッドに聞くなりして、だんだんとホグワーツで起こっていることを知っていきます。

 そして、スネイプが賢者の石を狙っているという確信が強くなっていきます。

 どんどん深刻になっていきます。


 ピンチ2は、ハグリッドがドラゴンをこっそりと飼っているシーンだと思います。これがきっかけとなって、ハグリッドの三頭犬を落ち着かせる方法が第三者にバれて、ハリーたちが賢者の石を守りに行かねばならなくなります。


 【セカンド・ターニングポイント】

 三頭の犬が守っている奥へハリーらが向かう決意をするところです。賢者の石を守るために。

 ここでまた、ドラマ上の欲求が変化します。「スネイプから賢者の石を守らねば」という感じで。

 

 【第三幕】

 数々の困難を乗り越えて、賢者の石がある奥の部屋へと向かいます。

 ここは主人公のハリーの意志はひとつで、「困難を乗り越え、賢者の石を守ろう」ということです。非常にわかりやすい第三幕です。

 ロンやハーマイオニーの特性を生かした展開になるようにも工夫されています。

 また、実は、賢者の石を狙っていたのはスネイプではなく、クィレル先生だったとのどんでん返しもあり、読者を驚かせます。


 【エンディング】

 ハリーらの活躍で、グリフィンドールが寮杯を手にして、エンディングを迎えます。


 ざっと、こんな感じ。ひとつひとつのエピソードがつながっていくし、登場人物の設定や特性を生かした物語になっていて、すごく考え抜かれていると思いました。

 こんな小説を書きたい。