【詩】オサンポ、タノシイナ

ささやきに身を任せて、半ば自力で心臓のポンプを動かす。焦げたトーストを握り、舌に届く前に平らげる。誰かが。あるいは、自分が。呼んでいた。川沿いの歩道をイメージしながら玄関の引き戸を開けると、ゴールデンウィークの公園があった。磁石のように爪先が引っ張られ、後付けしようとする思考を検閲される。足を止めることができない。イヤホンを外すことができない。好きだったはずの音楽を、いまはただ、聞かされていた。ファミリーのスマイルが、芝生の上に転がっている。手が制御できなくなり、表情が嘘になり、擬態しなければいけなくなる。歩くという高度な数式を暗算で解いていく。帰りたい。視線が羽音を立てて飛んでいた。帰りたい。公園のまわりを囲んでいる車道が有刺鉄線よりも鋭く尖っているのは自業自得か。でなければ、中央にそびえているメタセコイアのせいだ。あまりに強い引力で、こころごと引き寄せている。二分割にされた意思を一色に塗り固めようとしているのはこの僕ではない。弁解させてくれ。口の筋肉が動かないから、わざと息を吐く。ぐるぐると肩を回してみる。見られている。これ以上、動いたら出血する。帰りたい。両目がまだ遊具のほうを向いている。子供時代に遊び忘れてしまった。戻れない。帰りたい。なにか悪辣な言葉がこみ上げてくるのを、寛大に許そうとしたら、その寛大さを見られている。彼らと接触してはいけない。ボールが飛んできてはいけない。あの、お前は誰だ、という宣戦布告のメッセージを、無意識に右手に握っている人たち。イヤホンを引き抜いた。ギャアギャア、と純粋な子供の声が心臓を刺激する。わざと笑顔を浮かべてみると、気持ちが悪くなり、ベンチを見たが、赦しが出なかった。「また、逃げるのか」と一度目から言われていたときのことを、鮮やかに思い出していた。長く手を伸ばし、未来を塞いでいた。すべての温かい言葉がゴミの臭いを発しだして、利己的なカラスが群がっていく。空に響く笑い声が聞こえた。

ウワア、オサンポ、タノシイナ

公園をようやく抜け出したときに、心に焼き付いていたのは、ハイボクだった。彼らが競争意識など持っていないことを自覚しておきながら例外にだけ激しく反応する心をもう何年間も持て余していたことを、やはり鮮やかに思い出した。帰りたい。でも、どこに? 人生が始まったときから並走していた現実は、どこにも安全地帯を用意していなかった。飢えた期待を胸に歩きながら、信号で立ち止まったとき、ふと顔を上げると、自宅の方向から煙が上がっていた。