【小説】ウラシマタロウ

 あるところに、ウラシマタロウという青年がいました。

 ウラシマタロウがネットサーフィンをしていたときのことです。


 ひとりの美しい女性が炎上していました。

 どうやら、後輩に暴言を吐いたらしく、パワハラだとして騒がれているようでした。


 全員が女性を責める中、ウラシマタロウは、その女性を擁護する意見を投稿しました。

 ウラシマタロウは弁論術に長けていたので、感情的になった人たちを次々と論破していきました。


 やがて炎上は収まり、ウラシマタロウは、ちょっとした有名人になったのでした。

 すぐのことです。


 ウラシマタロウのもとに、かつて炎上していた美しい女性からダイレクトメッセージが届きました。

『このご恩は一生、忘れることができません。よろしかったら、私の竜宮城へお連れ致しましょう』


 はて。ウラシマタロウは、考えました。いったい、竜宮城とはなんだろうか。

 ウラシマタロウは清廉潔白の青年でしたから、高度に文学的な表現を理解することができませんでした。


『すみません。竜宮城とはいったいなんでしょうか』

 ウラシマタロウが疑問を返すと、美しい女性は答えました。


『私と海と、あなたの山が、重なり合うということです』

 なるほど。ウラシマタロウは納得しました。フォークダンスのお誘いのようです。


 しかし、どうしてフォークダンスに誘われるのか、意味がわかりません。

『申し訳ありませんが、そのようなお誘いには乗れません』


 ウラシマタロウが断ると、美しい女性は力説しました。

『いままでにない快感を約束しましょう。海の舞のような鋭い動き、けだかき亀のような素早い蠢き。それを無償でプレゼントするのです』


 ウラシマタロウは、意味がわからず、『なんのことですか』と問いました。

『ですから、その、あれですよ、あれ。おわかりでしょう? わたしが裸になって……』


『裸踊りをするんですか?』とウラシマタロウは問いました。

 美しい女性が裸踊りをすることの、どこが面白いのか、わかりません。


『勘弁してもらえませんか』とウラシマタロウが突っぱねると、美しい女性は逆切れしました。

『私が脱ぐと言ってるんですよ!』


『脱いで、どうするんですか?』とウラシマタロウは訊きました。

『脱いだときにやることなんて、ひとつしかないでしょう!』


『垢の削り合いですか?』

 ウラシマタロウは、純粋な心の持ち主なので、なにひとつピンときません。


 ウラシマタロウは、竜宮城に行く気にはなれず、そのまま美しい女性をブロックしたのでした。


 ふと気が付くと、自分の身体が小さくなっていることに気が付きました。

 子供のサイズに縮んでしまっています。


 まあ、しょうがないか。とウラシマタロウは思いました。