ひらめき☆マンガ教室・第4期の最終講評について

8月最後の土曜日に行われた「ひらめき☆マンガ教室」の第4期最終講評作品とイベントについて、個人的にまとめてみる。卒業生だし、しかも聴講生なのに……と思うこともあり、後半戦の課題は読むだけだったものの、最終講評会がとてもよかったので、思わず書いてしまった。

思うに、出そろった作品には「祈り」について考えさせられるものが多かった。それは今の世の中と不可分ではないはずだ。とはいえ、受講生の成長というスクールの役割に関して言えば、あまりその影響を感じさせない。提出作がハイレベルが故に、選考中にやむなく賞が増設されたり、複数名が選出されたりしている。

作品のレベルが高かったというだけではなく、講評会自体がドラマのように……というより、めくりが止まらないマンガのように、かた時も目が離せない展開だった。


ただ、必ずしも受賞した人だけが凄い!のではなく、実は提出しないのは外に向かっているから、という場合もある。それでもやはり、受賞作が受賞作であることは紛れもない事実。ぜひとも読んでいただきたい。

ひらめき☆マンガ大賞/くたくた『UFO FOR YOU』

https://school.genron.co.jp/works/manga/2020/students/qutakuta/22713/

くたくたさんの作品は他にも……無力感の描き方がいいです。『どうせゾンビ』『コンビニメイド』『七・五・四コマ どっちつかず』など、どこか冷めた目で無力感を描きつつも、攻撃的ではない作品は、なかなか出せない「味」だなと思う。個人的には、ラストがそのような救いで本当に救われたのだろうか? と感じる部分はありました。

優秀賞/コバヤシ『思春期モンスター』

https://school.genron.co.jp/works/manga/2020/students/kobayashi1/22077/

コバヤシさんは(個人的な主観ですが)女性の目線でも違和感なくセクシーだと思えるライン上を攻めてくれます。以前の作品も、『ラスト・サキュパス』『ブルー・メッセージ』は、本当にかわいい。ネーム作は詰め込み過ぎかも、と思ってたので、この作品が読めて良かったです。わたしは最初「あれ?続きは?」と思ってしまった側なので、ラストのコマで「おわり」が明示されてたので安心しました(なかったら「アップロードのミス?」と思ってしまうところでした)。

優秀賞/片橋真名『決断できないおんな』

片橋さんは、心の機微を捉えるのがうまい。『梨沙と梨奈』とか、『癒しをください!』も然り。人の裏側もちゃんと見えている。観察眼が鋭いのだと思う。加えて「おいしいもの」「かわいいもの」という道具立てが使えるのが強い。この武器を最大限発揮したということかと。個人的に、記号としては理解しているが思うところのある「胸が大きくて脳の小さい天真爛漫キャラ」だが、本作では小気味よく覆るので救われる。個人的には、自分のことが決められないタイプなので、タイトルと主人公に好感を持ちました。

武賞(選考委員特別賞)/motoko『空の蟹に乗って』

motokoさんの作品を1年間読ませてもらって、特に印象に残るのは、内面を具現化するために「ファンタジー」を選んでいるものでした。『おむかえ』にしても、ネームのみですが『危険なマイゴ』もそんなところから生まれたのかなと思います。この作品は、その集大成のような感じがしました。ただ、つぐみについてもっと知りたい。とても大事なことが描かれている作品だけに、奏はいてもいなくてもどっちでもいい存在だったのか、なくてはならない存在だったのか、どちらにでも取れてしまうのはもったいないように思いました。

富賞(選考委員特別賞)/ahee『メンタルミスステップ』

https://school.genron.co.jp/works/manga/2020/students/ahee/22312/

aheeさんの描く所在のなさ、やり場のない感情はクセになります。『生まれてこのかた』とか『ホリ・ゲノム』とか。本作における後味の悪さを届ける範囲をさらに広げるなら……というわけで気になったことが2つほど。いじめの描写や親との葛藤などがもう少し強く読み取れると、最後の救われなさが引き立つのでは。また、現れるイマジナリーフレンドは3形態必要なのではと思いました。例えば【ピエロの姿(たかし「誰だ?」)→けいすけがメガネなどで扮装した姿(たかし「あれ…どこかで?」)→けいすけの姿(たかし「!!!!」)】みたいな。ただ、個人的に思うのは、実際のところ、けいすけは「ありがとう」ですらなく、もっと残忍な対応をするかもしれないけど…。

ブルボン小林賞(選考委員特別賞)/藤原白白『美容室探偵-ショートヘアの花嫁-』

https://school.genron.co.jp/works/manga/2020/students/fuji46/22379/

藤原さんの作品には少女マンガのルーツを色濃く感じて、勝手に親近感がわいてしまう。ヒロインが定期的に通える美容室探偵は便利ですが、情報過多になるので、マイナーゲームに沼なのはヒロインだけにした方が凸凹コンビっぽさが出るような気がします。ネームだけ公開ですが『カエルの王子さま あるいは ヒトのお姫さま』『結婚前夜』など。後半にかけて画が安定してきたところに、努力の跡を感じます。太い線で描き分けた『ゆきのひ おひさま』もかわいいのでぜひ。

金城小百合賞(選考委員特別賞)/なないつ『球』

https://school.genron.co.jp/works/manga/2020/students/nanaitsu7/22014/

なないつさんの取材が作品に生かされていると思いました。それだけに、この「球」については、超常現象なりのリアルさがもっとあると、もっと引き込まれるものがあったかもしれません。単に職業倫理と生命倫理の間で揺れ動くということだけではないので、日頃の思想を越えて読んでもらえそうです。ネームだけですが『高石先輩は多趣味』を読むと、取材することが得意(好き)なのでは?と勝手に思っています。『彼女たちの本音』とか『ラスボスは最終回で死ぬ』も、取材していくと、さらに深みが増しそう。

さやわか賞(選考委員特別賞)/こぐまあや『風鈴の人』

https://school.genron.co.jp/works/manga/2020/students/kgmaya/22058/

こぐまあやさんの作品は、貞節観念がほどよく色っぽい。別の女が詩織とまったく違う感じの服を着てるところにリアリティを感じます。『はたらく女』『顔』でも、小物の扱いや細やかな設定が効いていますが、本作はブラッシュアップを重ねたことで、より作品の解像度が上がっています。技術的なことを言えば、大ゴマを使ってメリハリが身に付けば、そのディテールがどんどん光っていくのでは、などと思いました。

ひらめき☆特別賞/kuzikuzira(シギハラ)『きっと親友になれるよ』

https://school.genron.co.jp/works/manga/2020/students/kuzikuzira/22506/

扉が出オチにならず、最後に本当に「オチ」があるのがすごい。この作品は面白いだけではなく、作品のアピールポイントがすごい。昨年から引き続いての受講なのですが、この作品が最終課題で提出できたこと、心から拍手です。自分のマンガに向き合って取り組んだからですよね、きっと。哀しくて面白いマンガをこれからも読みたい。『ウッカリさん』『洞川スズ』『救い』でも片鱗が見られるように、今年はオチをどうするのかを優先的に探ったのかと思います。前年、同人誌を作ったチームのメンバーだったので余計に感慨深いです。(余計なお世話ですね……)

イベント動画は配信中です

長丁場ですが、(本編の始まりは15分後です)以下よりアーカイブが観れるようです。※なお、会場で発表された点数に誤差があったようですが、イベントの後、当日に再度選考委員による検討が行われ、結果に変更なしとの結論に至ったとのことです。

本当に、みなさまお疲れさまでした!来期も続くといいですね。


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