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SF創作講座、初回講義のための自己紹介

本日はSF創作講座の初回講義。現地出席の予定ですが、仕事終わり次第なので、もしかしたら五反田に着く前に終わっているかもしれない……というわけで、関係者の方々に挨拶を。写真は本文と関係ありません。

今年はSF創作講座に通う!と意気込んでいたのに、申し込みに間に合わず、聴講生に。結局のところ、仕事選びを間違えた結果、講義はいつも遅刻確定なので仕方なかったかもな……と思っています。負け惜しみです。はい。

たまに勘違いされるのですが、SF創作講座は初心者です。ネコ乱にはお邪魔してます。

書きたいものは、日常にやってくる闖入者とか、日常に忍ばせるSFが書きたいですね。コバルト文庫やティーンズハートが大人になった感じの。SFじゃなくてファンタジーとかホラーになりそうだけど、SFが書きたい。トリックが思いつけないのでミステリーはムリです。というわけで、以下聴講生だけど梗概を。

『星屑のフレンズ』(梗概1592文字)

「なんで、ネイルしないんですか?」
 会社の後輩に言われるまで橘エリカは気づかなかった。爪をキレイに飾るということをすっかり忘れていた。バリキャリというわけでもないが、平日は会社と家を往復するだけ、パートナーなし、人付き合いもほとんどない。もう長いこと、爪というのは邪魔になったら切るだけの存在になっていた。ネイルと聞いて、不意に記憶がうずく。そういえば爪の色を頻繁に変えていた時期があった。あれは最初の会社にいた頃だろう。後輩との会話は他愛もない雑談だったのに、エリカは何か引っかかるものを感じた。
 その日の夜。エリカは、仕事帰りの駅ビルにあるコスメショップでネイルコーナーを徘徊していた。ひさしぶりに覗くと初めて見るブランドも多く、ずいぶん様変わりしていた。それでも、当時の記憶を手繰り寄せようと、とにかく見て回る。
 しばらくして、あるブランドのカラーコードが目に留まった。白い箱に小さな黒い文字が箔押しされている。「satsuki-yamabuki」――瞬時に思い出した。山吹サツキという名前。知り合ってからずっと彼女の凛とした表情に見とれていたこと、しばらくすると2人で暮らしたこと。ネイルといえば、彼女はとても器用で、エリカの指先をキレイに染め上げてくれた。決まって、最後の仕上げでエリカの爪に息を吹きかけるのだが、それは何かの儀式のようで、キラキラと爪が輝いて見えたのだった。彼女と離れてから、エリカは爪に何も塗っていない。大切に想っていたを忘れていた事実にエリカは驚いたし、肝心のところは思い出せない。半ば衝動的にエリカは「satsuki-yamabuki」を手にレジへ直行した。
 山吹サツキの連絡先をエリカは知らなかった。別れた経緯も思い出せない。エリカは当時の友人たちに彼女の安否についてメッセージを送ったが、誰も山吹サツキのことを覚えていなかった。エリカのことは覚えているのに、エリカのそばにいたはずのサツキのことを、誰も知らないのだ。
 パッケージを開けてみると、グリーンとイエローの2色が入っていた。このブランドは、色の組み合わせを楽しめるのが売りらしい。そういえば隣は「ao-to-haru」だった。あれはブルーとピンクで青い春なのかもと想像をしながら、エリカ
は白いローテーブルにカラフルな小瓶を並べてみると、懐かしい気分が込み上げてきた。明日は休日だからと、「satsuki-yamabuki」を塗ってみたら、久しぶりにフワフワした気分を味わった。誰も覚えていなくても、確かにあの日々はあったの
だ。
 それ以上は思い出せず、週末に部屋の整理をした。いろんなものがでてきたが、最後には当時のメイクポーチがクタクタの状態で出てきた。ファスナーをおそるおそる開けると、玉虫色めいた金属質の色が入った小瓶が入っていた。だ。そのネイルポリッシュを手に取るやいなや、エリカはすべてを思い出した。
 彼女は遠い星からやってきていて、この液体は彼女の持ち物だ。遠い星では戦争が起きると、子どもを地球に一時避難をさせる風習があるらしい。しかしやがて、戦火激しい故郷へ帰ることになった。彼女は楽しい記憶を持ち帰ると言って避難先で関わった人の記憶を消し去った。最後に塗ったネイル、最愛の人との別れは悲しい記憶だから持ち帰れなかったのか、エリカの記憶は蘇ってしまった。彼女は生きていないかもしれない、もう絶対に会えないのだと思うと涙があふれてくる。泣きながらヌルっとした液体を爪に塗っていく。彼女が一緒に塗ってくれるような不思
議な体験だった。
 それからというもの、エリカの爪は怪しく光っている。伸びてくる爪もその色になっているのか、伸び方が遅くなったのか、まったく変わらない。上司は落としてこないならと肩たたきを始め、あの後輩からはなぜか一目置かれるようになった。「satsuki-yamabuki」を上から塗ってみて除光液を試したが、金属色は変わらなかった。これで良いのだ。エリカは時折、その光を撫でる。遠い暗い星に、その波長は響いている。

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