見出し画像

ひそやかな抵抗

お休みの日にだけ出すグラスがある。
土曜日の朝に出し、日曜日の夜にしまう。
薄い硝子で出来たそのグラスで飲むと、いつもの麦茶もカフェラテも、なんだか2割増しで美味しくなる気がする。

仕事が慌ただしくなると、体力のない私はみるみる私生活を侵食される。土日が体力回復のみに使われることもしばしば。体調を崩しては回復し、やりたいことがやりたかったことになり、春が過ぎて、気づけば夏が鼻先までやってきていた。夜の風がぬるい。そんな時にこのグラスを出した。

普段使いで傷をつけたくないと思い、せっかく買ったのにしまいこんでいたグラス。ある日の土曜日、久しぶりに丁寧に朝ごはんを作り、せっかくならと出したそのグラスは、久しぶりの太陽を浴びてきらきらと反射した。硝子のグラスは、平日疲れている自分が扱うには繊細だな、と思っていた。どれだけ気を抜いて使っても大丈夫なプラスチックのコップか、マグカップを愛用していた。けれど、週末ならば。

土曜日の朝、楽しい気持ちでグラスを出す。
日曜日の夜、またね、と拭きあげたグラスをしまう。
とても小さな、ひそやかな抵抗。

このひそやかな抵抗を続けるうちに、ようやく少し取り戻された自分を何か形に残したくて、せっかくならとリハビリで日記をはじめてみる。
5月の文フリで友人がワークショップで作った日記の冊子を読んでから、誰かに読まれる日記を書いてみたいな、とずっと考えていた。
誰にも見せない日記とはまた違う、誰かと共有したい日記。

横並びのどこか遠く、もしかしたら誰かも何かに抵抗しているのかも、と、思いながら。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?