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第114回歯科医師国家試験の総括

歯科医師国家試験の結果について、私がはてなブログを閉鎖してしまったが故に、正確なデータが手に入りづらくなっているようです。過去の結果についての要望を頂きましたので、はてなから転載することにしました。

なお、今回の114回歯科医師国家試験の総括については2021年3月に公開したブログを2つ合わせて転載しております。そのため、文章を繋ぐため少し改編しています。文章はあくまでその当時の背景を元に書いている事をご了承ください。


合格率

合格率の推移を以下に示します。

合格率推移

107から3年間は63%台でしたが、110以降は112を除いて65%付近の合格率となっています。以前よりもわずかに甘くなっているといえるでしょう。3000人受験すれば、1%違うと合格者は30人違いますから、これでギリギリ助かった人もいるでしょう。
この感じだと、今後も64%台ぐらいの合格率が維持されるのではないかと思います。

合格率推移(図)

現役

国公立現役と私立現役の合格率がの差がかなり圧縮されてきているのは注目点です。

合格率比較

107では国公立現役と私立現役の合格率の差は歴然で15.9%もありました。
また思考力を問われるようになった111からの新基準においても国公立はその強さを発揮し、当初は11%程度の開きがありました。

しかし、114ではもう4.6%しか差がありません。

私立現役の合格率は107→114で10%も上昇しています。
国公立現役の合格率のダウンと、私立現役の合格率アップの相乗効果が起こっていると考えられます。

私立大学の留年休学者率は年々上昇しており、 CBTの合格率基準も上がる一方です。6年生の国試対策の講義は多くの大学で4月から徹底的にたたき込まれます。卒業試験で多量に落とされる大学も多く、卒業できた人達の国試へのチューニングレベルはかなりの高さです。

一方、国公立大学は基本的に放置プレーです。通常なら臨床実習が夏~秋まであり、そこから3、4か月リリースされ国家試験の対策を各自で行います。今年はコロナの影響で臨床実習が殆どできなかった大学もあるようですが、それが国家試験にどれだけ影響したかは定かではありません。

どちらにしても国公立の学生は私立に比べて知識量では絶対に勝てません。しかし、思考力を問う問題では元々の偏差値の高い国公立の学生の方が有利です。
今回の114では、国公立現役の学生レベルの思考力を超えた問題や、結局知らないと解けないような問題が出題されたため、国公立現役にはそれほど有利にはならなかったと考えられます。

この出題傾向が続くようなら軽装備の国公立現役を完全武装の私立現役が食っていく可能性も0ではありません。

浪人

今回合格率を大幅に下げたのが浪人です。

合格率推移

浪人の合格率は新傾向、問題の難化に対して非常に敏感です。出題傾向が変わった年なども合格率が下がる傾向です。

特に最近の思考を問われる問題に対しての相性は悪いと言わざるを得ません。難易度が高かった112と114での浪人の合格率が36.9%と過去最悪な数字なのが実証しています。

114での卒業年次別の結果を以下に示します。

114卒業年次別結果

113での結果と比較してみると一目瞭然です。

113卒業年次別結果

113では1浪は61.5%、2浪は46.5%合格しましたが、114では1浪は55.8%、2浪は33.2%となっています。

4浪以上の合格率はそれほど変わっておらず、1浪から3浪の合格率低下が顕著です。113では2浪まではまだ現実的な合格率であったのに対し、114では2浪から3人に1人しか合格できず、すでに現実的な合格率とはいえないでしょう。

この傾向が続くようなら、1浪でケリを付けない場合、多浪スパイラルを一気に滑り出す事になってしまいます。

2浪以上は非常にリスキーな状況になってきていることに注意して頂きたいです。
1浪でケリをつけることが大事です。
すでに多浪の人は、今すぐにケリを付けることが大事です。

ちなみに後述するが3浪以上から諦める人が普通に出てきます。1人、1人、同士が減っていく事は最終的に自分もそうなるかもしれないと言うことを意味しています。

男女差

性差は明確であり、女性の方が確実に合格率が高い結果が続いています。統計とっても絶対有意差出るレベルでしょう。

男女別

合格者の男女差は年々縮小しており、今年の女性比率は44.5%となっています。

学生全体の女性比率が50%を越えている大学もあるので、将来的に歯科医師国家試験合格者の男女比が50:50になる日も遠くないと考えられます。

なお、これが歯科医師削減の最も効果的な方法であるという事をいう人がいますが、私は特に男女について考えを持っていません。実力差通りに学生を選抜している結果がこれなんだから、それで良いと思っています。

人数の推移

全体的な人数の推移を以下に示します。

人数の推移

受験者数

出願者数、受験者数共に107~114では最大となりました。
私立現役の増加+減らない浪人が受験者数増加の原因と考えられます。

私立現役の6年生の数は全ての大学が公表しているわけではないですが、一応私が集めた数からすると

112回   6年生総数 2064名 国試受験者数 1386名
113回         2091名        1374名
114回         2099名        1453名

となっており、6年生の総数自体は毎年殆ど変化がないようです。
114では国試受験を許可された学生が例年より多かったわけですが、これが1年だけの傾向なのか、今後も続くのかはまだよくわかりません。

合格者数

合格者数は受験者数が2000人前後に固定された107以降で最も多い2123名となりました。おそらく受験者数の増加と合格率のバランスを考えてこういう合格者数になっていると思われます。
3280名も受験者数がいて2000人しか合格者がいなかった場合、合格率は61%となってしまいますからね。厚労省はここまでの合格率にする気は現段階ではないということかと思います。

出願者数ベースの合格率をみてみると3年連続で55%前半に収束しており、おそらく厚労省はここら辺が現段階での妥協点だと考えているのではないでしょうか。

出願者数ベース

115で出願者数が3800人を越えるようなら、115でも合格者数は2100人ベースぐらいが予想できるでしょう。

出願者数は大体マッチングの参加者数から予測できます。
113では3832名参加で国試出願者は3798名
114では3853名参加で国試出願者は3852名
となっており、国試出願者数と合格者数まである程度のレベルで予想できるのではないかという仮説を立てています。

マッチング結果

合格基準

合格基準であるが、これに関しては予備校や専門職の先生方が私よりも遙かに詳しいとおもうので、そちらの方を参考にして頂きたいと思います。

第114回と第113回の合格基準を以下に示します。

第114回合格基準
第113回合格基準

114の領域Bだが、総点は113と変わらない167点なのにボーダーは15点も下がっています。他の領域も軒並み10点程度下がっており、114は異様に点数がとれない試験だったことがわかります。

削除問題は前代未聞の20問、そのうち必修が14問という意味不明な試験です。ちなみに113は削除は12問ですから、その酷さがわかります。
114では明らかに練度不足の問題が認められ、出題委員は反省するべきです。

削除問題

合格者数のラインが決まっているのに、低レベルの問題も多数削除しないといけないので帳尻合わせるの大変だったでしょうね。

コロナの影響でブラッシュアップ不足という話もあるようだが、それ以前の問題でしょう。

国試をろくに知らない出題委員が多すぎるんじゃ?

来年はこうならないことを祈りたいです。
最終的に相対評価なんだから、難易度を上げる必要があるんでしょうか?
ひねりすぎて、識別指数ボロボロになった問題も多かったんじゃないかと思います。そういった問題を世間ではクソ問といいます。

大学別の結果

114の国家試験の結果を示します。

114大学別結果

浪人生

いつもは現役しかみないのですが、今回は浪人生もみてみます。

大学によって既卒の合格率が絶望的な事になっている所がありますね。
岩手医科大学は18名受けて2名しか合格していません。
奥羽大学は66名中12名
福岡歯科大学122名中27名
鹿児島大学、九州大学17名中4名
などが目立つが、私の注目ポイントはちょっと異なっています。

多浪が溜まっている大学ほど合格率は悪くなると考えられます。
そういった意味で既卒の受験者数が多い大学は1浪や2浪が多いと考えられるため、受験者数が多い割に合格率が壊滅的な大学の方が危険です。
福岡歯科大学や朝日大学、鶴見大学、明海大学などが該当します。
こういった大学出身で浪人することは多浪のリスクが高いです。

国公立現役

国公立大学の今回の結果は以下に示します。

114国公立(表)

113の結果を以下に示します。113と114を比較してみると、90%を越えた大学が113では3校あったのに対して今回は北大の1校のみとなってしまいました。
では下はどうかというと、113とそこまで変わってはいない印象を受けます。114のような難易度は国公立の合格率も下方へ押し下げる力があるのは間違いないようですね。

113国公立

表の合格率をソートしてみます。

114国公立(表)ソート

北海道大学はいつも合格率が良いですね。
ここ数年上位だった医科歯科は合格率がかなり下がってしまいました。
九州四国勢の低迷は今に始まったことではありませんが、徳島は2年連続で最下位となってしまいました。

昨年までは東高西低の傾向が強く出ていましたが、今年はそこまでではないようです。ただ、それでも西の方の大学の合格率の悪さが目立ちます。

国公立全データ

徳島と長崎は実は国家試験出願前に卒業が決まるため、国家試験出願者数自体が毎年圧縮されている事が分かっています。
去年5月時点での6年生の実数(a)に関しては黒字が各大学のサイトからのデータで、赤字は受験サイトから頂いてきたものです。

これをみると、徳島は3名、長崎は2名出願前に落とされているようです。去年までと比べると少なくなっています。
阪大は卒業試験はないはずですが、3名出願前にいなくなっています。これは実習で落ちたということでしょうか。
九大も2名いなくなってます。

出願前の圧縮などを踏まえた合格率を以下に示します。
闇の合格率は6年生の実数aを分母、合格者数(d)を分子とした合格率となります。出願前に学生を圧縮する大学の合格率を比較するにはこの合格率しかありません。

.闇の合格率

国公立で唯一徳島は70%を割ってしまいました。九州大学や長崎も70%台中盤であり芳しくありません。
徳島大学は入試時の倍率もかなり高いですし、偏差値もある程度のレベルは確保されているはずです。しかし、毎年国家試験の合格率は国公立でほぼ最下位です。同じ事は長崎大学にも言えます。
毎年言ってますが、教育システム等に問題があるのではないでしょうか。

私立現役

表の合格率

まずは厚労省が発表する表の合格率について検討していきます。多くのニュースサイトに転用されるデータも以下の数字となります。

114私立合格率(表)

この状態だとよくわからないので、合格率順にソートしてみます。

114合格率(表)ソート

東京歯科が貫禄のトップ!やはりこの大学は凄いですね。
国家試験出題員が1人もいなくてもこの成績で、漏洩してるとかわけのわからない噂を完全に吹き飛ばしました。

その次が松本、大阪歯科大学、日本歯科大学新潟と続いていきます。

日大・・・・はどうしちゃったんでしょうか

113の結果と比較してみると日本歯科新潟は去年はかなり悪かったのですが、今年は上がってきた、という形になるようです。

113合格率(表)ソート

なぜこの表をみてこんなに冷ややかなのか、盛り上がらないのか、という話なのですが、当然こんな合格率を信用することはできないからです。

私立歯科大学では、6年生に上がるまでにある程度の学生が留年休学退学といったイベントの対象となります。大学によっては3割以上の学生が挫折を味わいます。

そうやって選抜されてきた6年生でも全員を受験させると合格率が崩壊することが予想されます。合格率があまりにも悪いと入学者の数や質に影響する可能性は否定できません。

そのため、様々な手段で6年生(卒業予定者)の数を削減します。純粋な留年の場合もありますし、早々と休学を勧告する場合もありえます。最近は除籍も多くなっています。6年まできているのにです。国家試験受験をさせずに卒業だけさせる場合もあります。

大学によって様々ですが、殆ど全ての6年生が卒業できる大学と、5割近くの6年生が国家試験を受験できない大学があります。

そういった内情は厚労省が発表した合格率やそれを転載したニュースサイトを眺めるだけではわかりません。

圧縮された学生数

さて、今年もかなりの数の6年生が休学、留年、退学、卒業保留で国家試験を受験することができませんでした。

以下に私立大学の実際の学生数込みの表を示します。今年も皆さんのお陰で全ての大学の実数を入手することができました。有り難うございました。

114学生圧縮

多くの大学では、11月の国家試験出願後に卒業試験を行い、留年などが決まるため出願者数(b)と受験者数(c)の間に差ができます。
しかし、厚労省が出願者数を公表するようになったため、一部の大学は出願確定前に一度卒業を判定し、出願者数自体を圧縮するようになりました。

6年5月当時の学生数(a)に関しては、黒字が大学のサイトで公開されているもので、赤字はサイトに記載されておらず、私が独自ルートで入手した人数となります。

なので赤字に関しては信頼性は100%ではないので注意をお願いします。

唯一、日本歯科大学のみ卒業試験によって復学卒業を許される元々の6年生ではない特殊な聴講生を追加しています。

最終的な学生圧縮数はa-cということになりますが、数字が大きいのは以下の大学になります。

明海大学 66名 146→80
日本大学松戸歯学部 61名 149→88
日本歯科大学 63名 189→126
鶴見大学 44名 127→83
神奈川歯科大学 52名 124→72
日本歯科大学新潟 50名 120→70
松本歯科大学 54名 119→65
朝日大学 51名 151→100
大阪歯科大学 57名 144→87

と平然と50名、いやそれ以上学生をぶった切る大学が続出です。

こんな事をしている大学とほぼ全員卒業する大学の合格率を同じ土俵で語る事など出来ないわけで、そこで闇の合格率を使うしかありません。

闇の合格率

私立歯学部の合格率を正確に判定するには、現状闇の合格率以外にはありません。

114闇の合格率

勿論これだけではよくわからないので、ソートしてみます。

114闇の合格率(ソート)

いつもの東京歯科と昭和のワンツー

次はジリジリと合格率を下げていた愛知学院が久々の3位です。
ほぼ全員卒業でよく踏ん張りましたね。凄いです。
最近安定感のある北海道医療大学が4位となっていますが、すでに4位で闇の合格率は60%を切っていることに注意が必要です。

日本歯科新潟、大阪歯科はいつもの出願前留年で大幅に数字を偽装しているから表から大幅にランクダウンしました。

この2校を筆頭に偽装が酷い大学結構あるから注意してほしいです。
松本もどこいったの?というぐらい下がってます。

下の方をみてみるが、いつものメンツが並んでいます。
鶴見 33.9%
福岡 44.3%
奥羽 44.6%

奥羽は今年から待ちに待った特待生集団が受験したはずなんですが、これ合格率にどんだけ寄与したんでしょうか。特待生がいなかったらほぼ壊滅だったということでしょうか?

後1,2年みてみないとわからないが、奥羽の特待生待望論は崩れ去ったのではないでしょうか。

鶴見は指定席にお帰り、って感じの最下位です。
表も裏も最下位で真の最下位となってしまいました。
6年生の上位4割にいても国試に合格できないんだから厳しいです。

114のまとめ

114の総括として

1 難易度の上昇は浪人を再度虐殺しました
2 出願者数、受験者数にあわせてある範囲内で合格者数の増減は操作されています
3 8年連続で合格者数2000人枠は維持されました
4 無装備の国公立学生が対応できない国試になりつつあります
5 まともに戦える浪人は1浪、ギリギリ2浪まででした
6 私立の卒業は今までより甘くなりました
7 合格者の女性比率は45%まで上昇で男女同数も近いかもしれません 
8 私立の国家試験へのチューニングは効果があります

卒業が甘かったのに合格率が上がっているわけだから、私立現役の国家試験へのチューニングは効果があるといわざるをえないでしょう。ただし、10か月教室に缶詰にして知識をたたき込む方法が歯学教育として適切かどうかは私にもなんとも言えない所です。
勿論、歯科医師免許をまず取得できなければ潰しが効かない所であることは重々承知しているわけですが。

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