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第116回歯科医師国家試験の総括

令和5年3月発表

令和5年1月に試験があり、3月に発表された第116回歯科医師国家試験。新しい出題基準、採点基準による初めての試験でした。合格率が60%前半しかない試験ですから不合格だった人も1000人以上いるわけです。
今回は116回がどういう回だったのかを私なりに総括していきます。

私は予備校ではないので、詳細な1問1問の正答率や領域の振り分けなどのデータを持ち合わせていません。あくまで公に公表されてるデータを基に、自分が持っている情報を上乗せして書いております。自分の情報は、裏を取ったり色々と正確性を検証しておりますが、絶対に正確である、という保証はできません。また、主観的な解釈が入ってる所もあります。

なお、このブログは全て読むためには有料となりますが、無料でもある程度は読めるようにしてあります。課金された場合、返金等には応じませんので、ご了承ください。
また、オリジナル図表の無断転載は厳禁です。


全体の結果

合格率の推移

合格率の推移を以下に図表で示します。示します。

歯科医師国家試験合格率推移

全体の合格率は過去最低だった前回(115)の61.6%よりも2%ほど回復し、109や112と同等のレベルとなりました。ただし、その中身はやや異なります。

国公立現役の合格率は112の87.5%から毎年徐々に低下しており、今回は過去最低の80.9%となりました。それに比べて私立現役は75.5%と前年とほぼ同等の合格率をキープしています。私立現役は110から大体75%付近で安定しています。

浪人はここ2年は合格率が40%を大きく下回り、かなり厳しい結果でしたが、116では42.2%と大台を回復しています。今回の合格率の回復の主要因は浪人の合格率が上がったことによると考えられます。

歯科医師国家試験合格率推移

現役国公立を基準として現役私立と全体の合格率の差分を取った数字を示します。こういった差分はあまりお勧めできるものではないのですが、一応ちょっとした参考として捉えてください。

これをみると、国公立現役と私立現役の差は以前は10%を越える年も多かったのですが、ここ数年は5%程度しか差がありません。また、全体の合格率との差は大体20%程度開きがある年が多かったですが、今年は17.4%となっています。

111から115まで続いた出題基準では思考力が問われるようになり、単なる暗記では解けない問題が増えました。最初は偏差値の高い国公立の学生の合格率の上昇に寄与しました。しかし、そこから私立や予備校の教育がアジャストした事により私立現役の合格率は上昇したと考えられます。
116では後述しますが、今までより難易度が下がって高得点勝負になったと考えられます。得点を伸ばすことができた浪人、私立現役とは対照的に国公立は点数を伸ばすことができず、ボーダー以下になってしまった学生が多かったんでしょう。

殆どの国公立大学は、国家試験に対するノウハウを持っていません。いままでは学生のポテンシャルだけで合格率を保っていましたが、おいつかなくなってきているようです。コロナで臨床実習が縮小されたりした影響もないとはいえませんが、それは私立も一緒です。そのため、今後も国公立、特に国立現役の合格率はジリジリ下がっていくのではないかと予想されます。

合格基準

116からは新しい合格基準となりました。今までは領域A、B、Cと必修の4項目でしたが、領域A、Bと必修の3項目となりました。今までの領域BとCが統合された形になります。

114~116までの合格基準を以下に示します。116の領域Aのボーダーは96点中63点であり、115の99点中59点、114の100点中53点と比較すると、ボーダーが高くなっています。116の領域Bは373点中257点で、115の領域B+Cの371点中237点、114の領域B+Cの373点中236点と比較すると、こちらもボーダーが高くなっています。

前述通り、領域A、Bとも合格するための得点が上がっていることから難易度はいままでより低く、高得点勝負になったと考えられます。

116合格基準
115合格基準
114合格基準

削除問題数

削除問題については、以下に115と116について示します。

116削除問題
115削除問題

削除問題数をまとめると
112 17問 (必修9問)
113 12問 (必修4問)
114 20問 (必修14問)
115 19問 (必修9問)
116 15問 (必修6問)

114の必修14問は異常ですが、それ以外でも毎年5~10問ぐらいは必修が削除されています。複雑な問題が多い難易度が高い年度は削除が多くなりやすく、難易度が低い年度は削除は少ない傾向です。

今年は難易度の割に削除が多くなりました。内訳をみてみると必修問題の削除理由は全て「問題として適切ではあるが、必修問題として適切ではない」でした。これは毎年同じで、正答率が凄く悪かった必修は削除されている事の裏返しです。他の問題では「設問の状況設定が不十分で正解が得られない」という理由の削除が多く、問題製作のレベルが低い事が露呈してしまっています。このレベルでこねくり回した難しい問題が多かったら大混乱になったかもしれませんね。117ではどれだけ出題委員が交代するかのチェックが必要でしょう。まあ新しく入った委員が問題製作できるという保証は全く無いわけですが・・・。

男女差

合格率の性差は毎年発表されています。合格率をみれば一目瞭然ですが、女性の方が大体10%ほど合格率が良い結果が維持されています。115では男性の合格率が57.4%と過去最低になりましたが、今回は59.2%まで回復しています。現役と浪人の比率が公開されていませんが、おそらく浪人、特に多浪は圧倒的に男性の方が多いだろう事も、男性の合格率が低い結果に影響しているでしょう。

女性の受験者数は年々増加しており、116では受験者の42.1%となっています。入学時に女性の方が多い大学も増えており、男女比がほぼ50:50になる日も遠くなさそうです。

116男女別合格者数の推移

浪人

浪人の全体の合格率は今年上昇しました。しかし、多浪になればなるほど合格率が下がるのはデータを見れば一目瞭然です。このデータも毎年発表されています。

116卒業年次別結果
浪人合格率推移

114、115では50%半ばだった1浪(受験可能回数2回)の合格率が63.8%に上昇しているのが、浪人の合格率上昇の大きな要因だったと考えられます。その他にも2~4浪(受験可能回数3~5回)も合格率が上昇しています。

しかし、5浪以上は低下、もしくはほぼ同等であり、115でも116でも5浪以上はかなり厳しい結果というのは間違いなさそうです。4浪は113と比べると10%ぐらい合格率が上がってますが、それでも30%です。
どこまでが1年に1回しかない試験としての合格率として現実的か、は人によって違うと思いますが、私個人の考えとすると114、115なら2浪まで、116なら3浪までが許容範囲かなと思います。4浪はかなり微妙、5浪以上は非現実的です。

受験者数、合格者数

受験者数、合格者数の推移を以下に示します。

受験者数推移

合格者数は2006人であり、2000人枠(仮説)が維持されました。合格者数2000人枠(仮説)は107回からでこれで10年連続となります。当然ですが、厚労省は合格者数を2000人にするとは公表していません。なので、毎年1800人枠になるんじゃないかとか噂が飛び交います。

出願者数は3669人であり、115とほぼ同数でした。出願者数は114の3852名から減少しています。出願者を分母とした合格率は53.2~55.5%と大体2%ぐらいの範囲で推移しています。これは受験者数を分母とした合格率が4%程度の範囲なのに比べてかなり狭い範囲です。

出願者数ベースの合格率

出願者数はマッチング結果で大体予想ができます。参加者数から少し減らした数が出願者数になります。ただ、どれだけ減るかは年によって違いますので正確な予想は難しいです。ここから来年急激にマッチング参加者数が減少するとは思えないので、おそらく117でも合格者数2000人枠(仮説)の継続が濃厚です。

マッチング結果

国公立現役の推移をみてみると、115で591人とはじめて600人を割ったものの、116では638人と回復しました。国公立は大体620~640人の受験者数で安定しています。留年休学者率が低い事、殆どの大学で6年生のほぼ全員卒業であることが原因であると考えられます。

受験者数推移

私立現役は国公立現役と違って大きな変動が認められます。出願者数は114の1962人をピークに大幅に減少し、116では1741人となりました。たった2年で200人も減ったことになります。2016年頃からある程度の大学で定員割れを起こしており、元々の学生数自体が減ったことと後述しますが、115よりも卒業判定が厳しかった事が原因と考えられます。

国家試験の合格率を表向き良くするため、私立大学は卒業者数を制限しています。出願後に留年などで人数を絞るのが最もメジャーです。出願者数と受験者数の差について以下に示します。

私立現役出願者数と受験者数の差

110を除くと、出願者数の70%~77%ぐらいが国家試験を受験しています。逆に言うと23~30%ぐらいがこの段階で落とされています。116では73.5%でした。115は111から続く出題基準の最後の年だったので、例外的に卒業判定が甘かった可能性があります。数年間出題基準が維持されること、合格者数2000人枠が継続されそうな事、116の難易度が低く117では難しくなる可能性がある事から、117では116と同等レベルかやや厳しい卒業判定が予想されます。

浪人の受験者数ですが、毎年ある程度の割合が受験を諦めてドロップアウトします。115で不合格だった数を116の予想受験者として設定し、実際の受験者数と比較したのが以下の表となります。

浪人受験者数

受験可能回数2回(1浪)の受験者数が予想よりも遙かに増えているのは、後述しますが、卒業させるが国試を受験させないという裏から卒業させるシステムを採用している大学が複数あるためです。そのため、この階層では未受験者数がわかりません。
2浪からは未受験者数を算出していますが、トータルで50人ぐらいドロップアウトしています。これは毎年大体同じぐらいの傾向です。受験可能回数6回(5浪)以上は合格率が10%未満になる事を提示しましたが、8浪まではあまりドロップアウトしていません。別の道を選択する、という人はあまりいないようです。
115を受験して不合格になった9浪以上が全国で100人いるはずでしたが、実際に受験したのは83人と17人未受験となっています。さすがに9浪以上となると諦める人も多くなるようです。

116を不合格になった浪人は1151人で、去年より減少しました。国試未受験卒業組がプラスされて、ドロップアウト組がマイナスされることで、大体毎年この人数よりも少し多い数が次の国試を受験します。そのため、117の浪人は1180人ぐらいの受験者数になりそうです。

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