第113回歯科医師国家試験の総括
歯科医師国家試験の結果について、私がはてなブログを閉鎖してしまったが故に、正確なデータが手に入りづらくなっているようです。過去の結果についての要望を頂きましたので、はてなから転載することにしました。
なお、今回の113回歯科医師国家試験の総括については2020年3月に公開したブログを2つ合わせて転載しております。そのため、内容を繋ぐために少し文章を修正しています。文章はあくまでその当時の背景を元に書いている事をご了承ください。
合格率
106~113の合格率の推移を以下に示します。
ここ6年間は63.3~65%という極めて狭い幅で推移してきましたが、今年は65.6%で、107からカウントするとここ7年で最高の合格率となりました。
精々2%ちょっとの幅でしかありませんが、それで合格者数が60人ぐらい変わってしまうわけでその恩恵にあずかった学生はラッキーだったと言えるでしょう。
合格率上昇に寄与したのは浪人と私立現役です。
実際、国公立現役を基準として合格率の差をとってみると
現役国公立と私立の差は110の7.2%に近い8.8%まで圧縮されています。また現役国公立と全体の差に関しても111や112からすると圧縮されています。
おそらくだが、111から始まった新基準に予備校や大学での対策がマッチしてきた事、難易度が低下し思考力が112に比べて求められなかった事が私立現役や浪人の合格率向上に繋がったのではないかと考えられます。
それに比べて大学の対策や予備校の介入などが少ない国公立は恩恵にあずかることが出来ず、難易度も下がったため自分達の長所を殺された可能性があります。
実際、予備校の的中が多かったと国試後のアンケートの結果にも書き込まれていました。そういう意味で114は現行の出題基準最後の年ですが、112のような難易度設定をするか、113を継続するかでどこに有利に働くかが決まりそうです。
(著者注:コロナの影響で115まで特例で出題基準が延長され、116から新しい出題基準に移行しました)
浪人の合格率
合格率の推移をもう一度示します。
浪人の合格率は大きく回復して111と同等に戻りました。112が異常に低かったので元に戻ったと考えた方が良いでしょう。
112はかなり難易度が高く思考能力が問われる問題が多かったため、思考能力に優れた国公立現役に有利で浪人に不利でした。113は112より難易度がかなり下がったので浪人も高得点勝負で戦うことができたと考えられます。
ただし全ての浪人が戦えたわけではありません。
113と112の卒業年次別合格率等のデータを示します。
受験可能回数1回が現役で2回以降が浪人となります。
この2つを比較すると1~3浪に関しては113の方が合格率が高いが、4浪で逆転、後は誤差の範囲と言って良いレベルです。
4浪以降の合格率は大体20%以下、最低は0%という階層もあります。
つまり、浪人の合格率を上げたのは1~3浪がメインで、4浪以降はあまり恩恵を受けていません。つまり4浪以降は難易度に関係なく年に1回のガチャであると言えるでしょう。
現在の国家試験は臨床の手順や使用する器具なども多く出題されるため、多浪で臨床現場から離れる期間が長くなると不利になるのは確かです。しかし、その以前の問題で4浪するには何か理由があるわけで、もうここまで拗らせてしまうと戻ってこれる確率は相当低いということです。
また、3浪までの合格率をみてみると、3浪は今回上がったと言っても34.3%であり3人に1人しか合格していません。
これは現実的な合格ラインと言えるでしょうか?
46.5%合格の2浪までで勝負を決めないと国試10回以上にまで到達してしまう可能性が出てきてしまいます。
浪人生は年々落ちていく合格率を考えると今年で決めなければ、という気持ちをもち、何かを変えないといけないと思いますよ。
毎年漫然と同じ事をしていれば実習でなにやったっけ?と臨床実習の記憶も薄れてしまい現役や1浪の時取れていた臨床実地や使用する器具などの問題の点数が伸び悩むだけではないでしょうか?長い期間やれば成績が上がるというものではないんです。
3浪でも3人に1人合格できるんだからこういう事書くのはどうなんですか?とか突っかかってくる人がいますが、では自分の人生をこの1/3以下の環境におくことができるんですか?
多浪して受かった人の話は出てきても落ち続けて道を諦めた人の話は出てこないから、気軽にこういう事をいうんだと思います。また、多浪した人の生涯年収とか一人前になれるのかとかそういう事も無視しています。
男女差
男女で国試の合格率には明確に差があります。統計とったわけではないが、これは明らかに有意差があるレベルでしょう。
国家試験は一夜漬けではなんともならない試験です。コツコツやってきた努力が問われます。男性は自分も含めて爆発力はあるが持続力がないタイプが多いと思います。女性は男性よりも地道にコツコツと積み上げるタイプが多い印象ですね。そういった差が国試の合格率に顕著に表れていると考えています。
入学者数をみていると女性比率がかなり高くなっており、10年後には国家試験の合格者数も女性の方が多く合格する時代が来るかもしれません。
全体的な人数の推移
人数の推移を以下に示します。
合格者数
合格者数は受験者数が2000人前後に固定された107以降の7年間で最も多い2107名となりました。合格率も65%を超えて例年に比べてやや甘い印象があります。
私は2050~2070人ぐらいがMAXではないか、と試験前に予想していたのだが、それよりも合格者は多くなりました。
しかし、出願者ベースで考えると112では3723名出願、2059名合格で55.3%、113は3798名出願で2107名合格で55.5%でほぼ同じであり、やはりあまり上下しないように意識はされてると思います。
出願者数ベースの合格率を以下に示します。
やはり出願者ベースで50%を切る結果は6年制大学を出ての資格試験ではないだろう、という批判がさらに高まる可能性があると思うので数字をうまくコントロールしているのではないでしょうか?
107から考えても53.2%~55.6%の間に収まっています。
なので114でも出願者数や受験者数によって多少2000枠からオーバーする事は充分あり得ると考えます。
114でも3200人を超える受験者数であれば2050人からそれ以上の合格者であってもおかしくないでしょう。
まあこういった数字は後付けで何とでもいえてしまうわけですが・・・。
受験者数
受験者数は去年よりも微減して3211名となりました。
国公立現役、私立現役に関しては昨年度とほぼ同じ数値をキープしています。
私立現役に関しては、6年生が始まった当初には2091名いたはずであり、その中の1374名が国家試験を受験することとなりました。
その差は717名。
1374/2091*100=65.7%
であり、111、112に引き続き、ほぼ同様の傾向です。
去年も書きましたが、
来月6年生になる私立歯学部の学生の1/3は国試を受験することはできないでしょう。
これは推定ではなく、ほぼ確定した予言であると言って良いと思います。
浪人生
国試前の受験者予想をしましたが、こういう予想でした。
国公立現役 615名
私立現役 1386名
浪人 1278名
合計 3279名
実際は
国公立現役 612名
私立現役 1374名
浪人 1216名
合計 3211名
国公立現役と私立現役はかなりいい線いってたと思うのだが、浪人の人数が予想より60名ほど少ない結果でした。
浪人はまさかこんなに大きくずれるとは思っていませんでした。
もう一度112の年次別結果をエクセルに必要な所だけ抽出して表にしてみました。
113では1つずつ受験可能回数が増えるわけですが、受験可能回数2回目に関しては卒業保留者が合流するため、413人より実際は多くなります。
112での卒業保留者は色々解析した結果105名程度と考えられました。それをプラスして表にしてみると
各階層で諦めてしまったのか、未受験者がちらほらと目立ちます。
受験回数2回に関しては105名が確実に卒業保留だったという確証がない所もあるので、この17名の誤差はやむを得ない所ではないかと思います。
10回以上の学生は112でのトラウマなのか1割以上未受験となっています。
まあ、98人中8人しか合格してない(それでも例年より高い)ので受けても落ちた可能性の方が遙かに高かったと思いますが、それほど112の難易度は厳しかったといえるのかもしれませんね。
合格基準
合格基準や個々の問題についてはプロの方々が私よりも遙かに詳しく解説してくれると思うのでこちらでは詳細に関しては述べません。というか個人レベルでは無理です。
113の合格基準ですが削除問題は12問でした。
112の合格基準は以下の通りで、削除問題は17問でした。
難易度が下がり高得点勝負になったため、ボーダーも必修以外の領域で上昇しています。
毎回高得点が要求される領域Bは、112と比較するとMAX点数が171点から167点に減ったにも関わらずボーダは122点と6点も上昇しており、領域Bは73%必要でした。ただし、これは111と同じぐらいです。
111の合格基準を以下に示します。
111と112では殆ど変わらなかったのですが、今回は領域Aのボーダーがだいぶ上がりましたね。基礎的な一般問題を舐めると領域Aでやられる可能性もあるということなんじゃないかと思います。
どちらにしても領域と必修という縛りがあり、どの教科でもコンスタントに点数が求められます。
基礎系は歯医者には必要ない、教官が嫌いだからこれはやりたくない、とかそういうのは最後の関門には通用しません。
6年生になってから、基礎がわからん、あれがわからん、なんで低学年の時もっと真面目にやらなかったのか、という後悔を口にする学生は腐るほどいます。基礎系なんて6年の数ヶ月でなんとかなるほど甘いものではないです。
こういった忠告は、自分がやられるその時まで、重要性に気付かない事が多いです。特に成績中位から下位層の学生には口酸っぱく言っても響きません。残念なことです。低学年から積み上げられる人は最初から成績上位者なんですよね。
大学別の結果
ここからは大学別の結果をみていきます。
厚労省が発表した学校別の状況を以下に示します。
毎年書いていますが、浪人はすでに大学の手から離れていることも多いため、浪人の合格率や浪人が含まれる全体の合格率からは大学の実情をリアルタイムに把握することは難しいです。ということでやはり現役の成績を注視していくことになります。
国公立現役
国公立の公表されたデータを以下に示します。
やはり今年も東高西低の傾向が強く出ています。
徳島、九州、長崎、鹿児島が合格率70%台となっており、国公立全体の足を引っ張った形になっています。
国公立のトップは医科歯科
ここ最近ずっと成績がよく、去年成績が下降してどうなるかなと思っていましたが、成績を戻してきました。1人落ちの97.7%は立派でしょう。
ここにさらに元々の6年生の実数が分かっている大学のデータを組み合わせます。
学生数(a)が実際の6年生の実数となります。大体は5月時点での6年生の数です。なお、岡山大学、鹿児島大学、九州歯科大学に関しては実際の学生数の情報を入手できませんでした。
黒字は大学のサイトに公式情報として掲載されていたもの、赤字はブログに情報として頂いた数字で100%正しい数字かどうかはわからないものですが、赤字と出願者数は一致しており、今回は正しいと考えられます。
最近は国公立も出願前に学生を留年させる大学が複数あり、学生数(a)を分母とする合格率で比較しないと不公平感があります。そのため、学生数(a)を分母とした合格率を当noteでは、闇の合格率として扱っています。
徳島大学は11月までに卒試が終了するため出願者数自体が圧縮されています。よって闇の合格率は63.0%となり、国公立では圧倒的な最下位・・・と思ったら案外長崎も元々の学生数と出願者数で4名開きがあり、闇の合格率は65.3%となります。
とりあえず、徳島と長崎は出願前に数名(と言っても1割ぐらいにはなる)絞っているのに、それでも国家試験の表の合格率も低いという残念な結果になってしまいました。
近年、この2校の合格率は奮わず、大学のシステムに問題があるのかもしれません。
国公立大学は、私立のように6年生1年間を座学に費やしたり予備校が入ったりしていませんので、合格率は安定しない大学が多いです。しかし、それでも全体的にみれば東高西低のような傾向はあります。
私立大学現役
表の合格率
厚労省が発表した私立現役の結果を別にまとめました。
厚労省は合格率順に並べるなというお達しを出していますが、そう言われるとやってしまうのが人間というものです。
なんと、東京歯科を岩手が抜いてしまいました。
そして東京歯科に肉薄するのが朝日大学です。
で最下位は福岡と奥羽、鶴見、神奈川にプラス愛知学院でほぼ私の予想通りな結果となりました。
勿論だが、この数字はあくまで表の数字であり、私立には裏があります。
私立は出願者数、そして受験者数を予め絞り込むことにより数字を偽装しているため、この表の数字だけの比較は全く意味がありません。
この合格率は、数字が良かった大学が来年度の学生募集のために使う数字であり、当然良ければ釣られる学生が出てきますが、騙されてはいけません。
闇の合格率
私立大学は留年や休学によって受験者数を大幅に絞っています。11月の国家試験の出願後に落とした数が、b-cとなります。
さらに複数の大学では国家試験出願前に学生を留年、休学させることによって出願者すら偽装しています。
そのために、当noteでは、5月当時の6年生の実数(a)を分母とした合格率を闇の合格率として採用しています。なぜ闇かというと、大学の6年生の実数は全ての大学で公開されていないからです。
大学の6年生の数(a)は大学のサイト等に公表されているものを黒字、サイトに載っていないため独自のコネクションを使って集めたのが赤字にしています。
なので赤字の大学に関しては信頼性は100%ではありません。
唯一、日本歯科大学のみ卒業試験によって復学卒業を許される元々の6年生ではない特殊な聴講生を追加しています。
学生数(a)と出願者数が同じであった大学は奥羽と昭和の2校しかありません。
出願前に学生を多く絞った大学は多くの聴講生を抱えていた日本歯科大学と日本歯科大学新潟校、つまり日本歯科グループです。
日本歯科大学は出願前に38名、出願後に54名を絞った計算であり、元々193名国試受験可能対象者がいたが、実際受験できたのは半分程度の101名に過ぎません。
また、大阪歯科は出願後に70名、朝日も71名とクラスの半分を落としています。
以下の大学は実際の学生数の実数と受験者数が大きく乖離しています。
明海 142名→82名
日大松戸 150名→82名
日本歯科 193名→101名
神奈川 137名→79名
日本歯科新潟 105名→56名
松本歯科 93名→47名
朝日 145名→73名
大阪歯科 155名→68名
闇の合格率は以下のようになります。
やはり東京歯科と昭和は強いですね。
他校を圧倒的に引き離して肉薄する2校。
その下に久々の復活日大が60%を回復しました。
そしてここ最近躍進めざましい北医療、岩手の2校
愛知学院もなんとか粘りました。
闇の合格率50%以上はこの6校で、後の11校は50%未満となります。
朝日、明海、松本歯科ときて鶴見・・・
絶対王者鶴見が大躍進!!!と思ったんですが、確認したら去年も40.8%だったので、あまり変わっていませんでした。他の大学が勝手に沈んでいっただけでした。
最下位奥羽は予想通りとしても
大阪歯科
日本歯科新潟
日本歯科
と下から続くこの闇の合格率を信じるか信じないか・・・
それはあなた次第です。
日本歯科は聴講生を30人以上も溜め込むからこういう数字になるんですよ。6年と聴講生が溢れすぎて教室2つ使ってるとか、学生をちゃんとした進級基準で上げてないんじゃないかと思わざるをえません。
しかし毎年出願前と出願後に学生を落としまくる大阪歯科は合格率偽装大学と言われてもおかしくないと思いますよ。だって表の合格率が85.3%で闇が37.4%ですからね。
また、6年生の実数としての学生数(a)をみてみると傾向が見えてきます。
奥羽をのぞくと学生数が多い大学の方が下に固まってきています。そして、下位層の多くの大学では一年時の募集人員よりもかなり多くの6年生を抱えています。
昭和、北海道医療大学、岩手、松本歯科などの元々の募集人員が少ない大学の方が上の方に来ており、しかもこれは今年だけではなくここ数年間の傾向です。
教官の削減や臨床研究業務の負担増により、100名~128名という定員はキャパオーバーで手が回っていない大学が多い、ということかもしれませんね。
こういった学生を最後の最後で落とすことでしか合格率を作る事ができない大学達は、まず自分達のキャパシティにあった規模にスリム化しろ、という指摘は免れないのではないでしょうか?
また、闇の合格率下位の大学ほど出願前に学生を切って数字を偽装する傾向が強いです。出願前に学生を切るようになった大学は数字を操作することに慣れしまい、教育システムの改革など本質的な事が遅れてしまうのかもしれません。
113のまとめ
113の総括として
1 難易度の低下は国公立現役にやや不利になった可能性があります
2 出願者数、受験者数にあわせてある範囲内で合格者数の増減は操作されています
3 7年連続で合格者数2000人枠は維持されました
4 111に変わった出題基準への対応が進んでおり、情報は大事です
5 まともに戦える浪人は3浪まででした
6 私立6年の1/3が国試を受験できない傾向は数年同じです
7 東京歯科以外は一学年128名を教育できる能力はもうないのかもしれません
リンク
ここから先は
歯科医師国家試験の結果
第112回歯科医師国家試験から現在に至るまでの結果についてまとめたマガジンになります。結果をまとめてみたい方向けです。直近2年分は有料でそ…
サポート頂いた場合、自分の活動資金とさせて頂きます。