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ギトギト火曜日と朝日のあたる家~音楽の旅New Orleans 後編

 さて後編である。前編ではニューオリンズのお祭りマルディ・グラから、有名な女郎屋「朝日のあたる家」とそこの女主人マリアンナ・ル・ソレイユルヴァンについてふれた。ローリング・ストーンズに出てくる「女主人」(Lady of the house)は彼女のことか?

♪ゴールドコースト(黄金湾)から出航した綿畑行きの奴隷船
 ニューオリンズの市場で売られるんだ
 顔に傷ある売人は、いいゼニになるとエビス顔だ
 夜中にそいつが女奴隷に鞭を振る音が聞こえるぜ
♪ブラウン・シュガー お味はサイコー
 ブラウン・シュガー 若い娘はこうでなくちゃ

♪ドラムの音が響くと 英国人の冷たい血がカッと熱くなる
 女主人はいつ終わるのか心配になる
 下働きの若造もおすそわけを期待している
 夜中になれば またあの声が聞こえてくるんだ
♪ブラウン・シュガー お味はサイコー
 ブラウン・シュガー 若い娘はこうでなくちゃ

黒人奴隷といえば、綿畑。今、中国ではウィグル人が同じ境遇にいる。

 ギニアの黄金湾に集められたアフリカ人奴隷は船に乗せられ、ニューオリンズの港に向かう。ニューオリンズには50以上の奴隷市場があり、にぎわっていた。セリのある日には、水夫や南部各地から集まった買い付け人で、「朝日のあたる家」もさぞや繁盛したことだろう。
 ブラウン・シュガー(赤砂糖)とはここでは黒人の女の子のこと。市に出す前に奴隷商人が「味見」しようというわけだ。brown sugarには粗悪なコカイン(クラック)の意味もある。こちらの産地は南米だ。

奴隷市場(セリ)の様子。子供もむろん売り物だ。
「若くて活きのいい奴隷、売り出し中。セリは1770年5月13日火曜日より」絶句。

 アメリカの讃美歌で、第二の国歌ともいわれる『アメージング・グレイス』(Amazing Grace)の作詞者ジョン・ニュートンは英国人で奴隷貿易商だった。ある日、彼の乗っていた船が難破、あわや死というとき、彼は真剣に神に祈りを捧げた。それが届いたのか(?)、彼の船は奇跡的に沈没を免れた。「こんな私でも主はお救いになられた」。その敬虔な感謝の気持ちがこの詞を書かせたという。
 同曲は、黒人霊歌、ゴスペルのスタンダードにもなり、多くの黒人歌手によって歌唱されているが(マヘリア・ジャクソン、アレサ・フランクリン他)、誕生の経緯を知ると、日本人の僕なんかちょっと皮肉なものを感じる。ま、いっか、名曲にケチをつける気はない。

ジョン・ニュートン。難破事故後、改悛した彼は黒人奴隷にも同情的になり、奴隷船の環境も改善された。だが、完全に奴隷貿易から足を洗うにはさらに数年を要した。
当時の奴隷船の内部。長い航海の中で、感染症や
脱水症状、栄養失調で死ぬ者も多く、それらは弔われることもなく海に捨てられた。

 南部生まれで黒人音楽を愛したエルヴィスは、ゴスペル部門でグラミー賞を獲得したことを終生誇りにしていたという。

♪驚くばかりの神の恵み
 何と美しい響きであろうか
 私のような者までも救ってくださる

♪道を踏み外しさまよっていた私を
 神は救い上げてくださり
 今まで見えなかった神の恵みを
 今は見出すことができる

 日本人だとやはり本田美奈子か。

 その名の通り、盲目のゴスペル・グループ、ブラインド・ボーイ・オブ・アラバマの、このバージョンが痺れるほどカッコいい。ちょっと『朝日のあたる家』ぽいですね。ようやく、ニューオリンズに戻ってきたかな。

 
 さて、ニューオリンズといえば、名物ともいえる「お葬式」についても触れておきたい。中学のとき、音楽の先生が、あの『聖者の行進』(When The Saint Go Marching In)は、お葬式のときよく演奏される曲だといって驚いたことがある。あんなにぎやかで明るい曲がお葬式に!? 今思うと、先生の言っていたのは、ニューオリンズの話だったのである。

 ニューオリンズのお葬式は陽気でにぎやかだ。葬列にはブラスバンドが出て、最初はしめやかに、しだいに「我慢できんわい」とばかりにブンブカジャンジャンと。葬列に加わっていた人も黒い傘を広げて踊り出す。『聖者の行進』は、まさにお葬式のスタンドナンバーだったのだ(『アメージング・グレイス』もお葬式では陽気に)。こうやってみんなで楽しく、天国に送ってあげるというのも素敵。僕もそうしてほしいな。
 前編で紹介したポール・サイモンのTake Me To Mardi Grasの曲のラストを飾るオンワード・ブラス・バンドも数多くの葬式で演奏している。

こんなレコードまで出ているのは知らなかった。多分、今では入手は難しいかも。

▼映画『007死ぬのは奴らだ』(1973)の冒頭に登場するニューオリンズのお葬式。

▼ニューオリンズを代表するシンガー・ソングライターでプロデューサー、アラン・トゥーサンのお葬式(もちろん本物)は、とびきりにぎやかだった。

▼アラン・トゥーサンの代表曲のひとつ『Yes We Can Can』。ジャケ写はまさに。曲も最高にイカすぜ。

 ニューオリンズに行ってぜひマルディ・グラとお葬式を見てみたい、なんていうと不謹慎かな。

(追記)いわゆるポリコレ旋風の煽りで、ストーンズも『ブラウン・シュガー』を演奏しづらくなっているようだ。ミックは、いずれセットリストから外すことになるだろうと言っている。黒人のティナ・ターナーが楽しそうにこの曲をデュエットしていたのにね。

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