鳩時計が買いたかった。1

マイペースと聞くと自分本意のノロノロ運転で交通渋滞を引き起こす原因のような印象を受けるが、キビキビとしたマイペースがあってもいいと思う。それも同じマイペースと呼んだ場合のややこしさについては別の機会に考察するとして、人は一人で生活していると家事については自分のペースでこなさざるを得ない。

何が言いたいかというと2つの事を同時に出来ない星の下に生まれた不器用人間の自分の采配では、当然、待ち時間…つまり机の角を眺めて過ごす時間が存在してしまうという事。人間は学習する生き物なので効率良く段取りする事を心掛けるも、机の角の代わりにYouTubeを見ると退屈しない事を学習し、やがて待ち時間が潤沢していく。洗濯機とのほんの5分の待ち合わせのつもりが気付いたら小一時間口を半開きにしていたなんて事がざらに発生するようになるのである。

どこかのライフハック記事で、定期的に時報を告げる鳩時計はそんなぼんやり時間の解消に一定の効果があるらしいと読んだ。鳩時計、…ほ、欲しい。鳩時計盲点だったわ。クルッポー言わしたい。何ならクルッポーと言いたい。問題は鳩時計が許されるのは殺人事件が起こりそうな洋館に限定される点である。マンションも更新したばかりだし、仮にお誂え向きの物件が見付かったとしても独り暮らしに洋館はきっと広過ぎる。そして第一の被害者はきっと自分だ。

無印良品の鳩時計を見つけたのはそんな時だった。リコメンド機能侮りがたし。鳩時計のアンティークな佇まいを払拭し、スタイリッシュかつ鳩という奇跡のようなグッドデザインには脱帽した。これぞ自分の求めていた鳩時計だと思った。これで洋館が事故物件にならないで済む。念願の鳩時計ライフを夢見てレジに並ぼうとした瞬間に、突然、冷静さを取り戻した自分が「このフォルムこの機能で7000円て高くね?」とつぶやいた。なるほど確かに。自分の脳内にただただクルッポーがこだましていた。

そもそもぼんやり時間解消が目的だった筈が、いつの間にか鳩好きの人になっていた。いやいや自分はゾウ好きだからゾウ時計を買おう…無いなら発注するか…や、ゾウ時計ってなんだよ、せめて柱時計とか振り子時計はどうか…気づけば大きなノッポの古時計のアカペラ動画を見ている自分がいましたわ。子供が生まれた朝に時計を買ってくるってどんな家だよって毎回思う謎の歌詞。

本質を見失ってはいけない。求めていたのは鳩時計の鳩ではなく時報の機能の方である。鳩時計の鳩は鳩にあらず、…いや鳩は鳩か。とにかく時報さえあれば最悪時計ですら無くて良いのではないだろうか。ぼんやりした時にハッと我に返してくれるアプリがあれば良いのです。探していたものはGooglePlayにあったのだ。

続きます。

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