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sparrow tearsの読書

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2022年7月の記事一覧

女性誌にはセックステクニック指南があふれ、ネットには男性のファンタジー動画があふれる、その背景【読書感想文】

『あなたのセックスが楽しくないのは資本主義のせいかもしれない』(河出書房新社)は、資本主義が家庭、恋愛、セックス、暮らしを含めた「ライフ」に与える影響を学術的な視点から掘り下げた本だ。 同著によれば、東西ドイツの統一前、社会主義下の東ドイツと、資本主義下の西ドイツとでは、東ドイツのほうがセックス満足度が高く、セックスを楽しんでいたという。 過度な競争と不安を煽り、愛と性さえ売買の対象となった資本主義が極まったことで、女性の自信と主体性が削がれている現実が浮かび上がって

【読書感想文】カルト的スピリチュアルから身を守るために…プレ父母の必読書『妊娠・出産をめぐるスピリチュアリティ』

2010年代に死んだ母親がおばけになって子どもを見守る絵本などでベストセラーを連発していた男性絵本作家のSNSを見て、ぶったまげた。 赤ちゃんの胎内記憶を読み解く、預言者のようにふるまっていた。 育児の悩み相談も親の視点というより「神の視点」から語っているのが印象的。 妊娠・出産をめぐるスピリチュアルな言説は、枚挙にいとまがない。伝統や自然を礼賛する言説もある。 「赤ちゃんがママを選んで決めて、この世にやってきた」 「おまた力で女性はハッピー」 「昔の人は鍛えていた

【読書感想文】「日本消滅」がトレンドワードになる時代の名著『世界少子化考 子供が増えれば幸せなのか』(毎日新聞出版)

「放っておいても子は育つ」 そう言う人は、おそらく子育てをしていない。 手塩にかけ、金をかけ、そのための金を稼いで、手間と愛をかけられないなら外で稼いだ金より安い金で外部に委託して、やっと子が育つ社会を生きている。 現代社会では、子どもを「ちゃんとした大人」に育てるためのコストと労力が増大し、親の肩に重くのしかかる。 子どもの笑顔を見る瞬間はきっととびきり幸せだろうけど、結婚にも育児にも年をとるにもコストがかかるし、教育資金のほかに老後の資金が2000万円だ

日本芸能界の合わせ鏡なのかもしれない、『キャッチ・アンド・キル』でつづられたこと

「芋づる式」という言葉がある。ハリウッドの超有力プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインをたどっていくと、まさに芋づるのように、あちこちで他の事実が判明していくさまが、『キャッチ・アンド・キル』(ローナン・ファロー著/文藝春秋)につづられている。 芋づるの先に実っているのは、芋ではない。組織を腐らせ、関わる人を疑心暗鬼にさせる猛毒芋である。 「つる」として彼らをつなげているのは、金と権力と損得勘定だ。 「不都合なものをもみ消したい」「つぶしたい」という権力者による