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髑髏

蛸の夢を見た
恋人が大きな蛸に襲われて
犯されて殺される夢だ
私は楓の大木に手錠で括られて
冷たい焔を嘗めるが如く
じっとその様子を観察しながら
いつかこのことも思い出すだろうと
他人事に感じた
完全に
閉じられた
愛だった
蛸は髑髏を私の目の前にそっと置いて
会釈をして小田急電鉄に乗って行った
私は緩い手錠を自ら取って
髑髏を拾わずに京王線に飛び乗った

当然ながら
私は傍観罪で逮捕される

神は笑いながら罰をくだされる
腹を抱えて私のことを指差しながら
私は仕方なしに蒼ざめて罰を賜る
祈り
鳴き
オムツを穿いて
罰の効能を待つのだが
何も起きない
そもそも何も起きないことが罰なのだ

私は柔らかい格子をぐにゃりと曲げて
脱獄する
かといってやる事もないので
あの大蛸に復讐をしてみることにした
再び京王線に乗り
京王線と小田急線が交わる
京王多摩センター駅で降りると
蛸の粘液を見つけてしまった
間抜けな蛸もあったものだ

蛸は老人ホームで働いていた
真面目な勤務態度ですと
ホーム長が教えてくれた
休憩の時間になると
ホーム長の許しをもらって
私と蛸は近所の児童公園に連れ立って
出かけた
蛸は言った
あなたの最愛の人を食べたのでいつか罰を受ける日が来るのではと
ずっと心苦しく生きてきましたと言った
私は残酷な気持ちになって
私の恋人は旨かったか?と聞いてみる
蛸はしょげて
夢中だったので
覚えていませんと答えた
児童公園の一角に蛸の遊具があった
茹蛸のように真っ赤な蛸の遊具だ
真横の蛸はまだ茹でられていないため茶色い
あんな赤色はあんまりです

それから蛸は着ているエプロンの
ポケットから巾着袋をだして
私に見せた
あなたの恋人の耳についていた
ピアスです

蛸は
祈り
鳴き
オムツを穿いて
私の罰を待った
私はピストルを取り出して
蛸に向かって撃った

ピストルからは烏賊の墨がびゅっと
出て
蛸の眉間にかかった
蛸はわっと声を出した
腹を抱えて蛸を指差しながら
私はしたくもない復讐を遂げた

覚醒して横をみる
私の寝具はシングルベッドで
裸の恋人が寝ている様子もなく
部屋は散らかり
恋人の代わりにビール缶が横たわり
灰皿の上には限界まで積まれたヤニがあった

私には家族も恋人もいない
孤独の星座があればそれは私のことだ

生きるとはつらい
死ぬのが怖いから生きているだけだ
私はぼうっと時計を眺める
空はセピア色に輝いている
人類よ!
この世の全ての栄光よ!
さあ出勤時間だ

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